#31 神輿とカンナの謎
アルは届いていた手紙の内容を、主にコトハに向けて伝える。
「──ということだ。リワン村は手紙が届けられるぐらいに無事だから、親戚の方も安心してくれ」
「よかった。……それで、どうしようか」
「クエストには関係無いし、そっとおいとまさせてもらおう」
膝をついていたアルは腰を上げ、相手の様子を振り返ろうとした。
「だっ、だめ! 見ないでえ!」
突然レーネがアルの目を塞ぐ。
体勢を崩して転倒したアルは動揺しつつも、黙って目元にある手をはたいて振りほどこうとする。
「暴れないでって! とにかく見ちゃだめ!」
「お、おい、何が起きてるって言うんだよ。……ああ、いや、別に聞くつもりでもない」
しつこく拘束を続けるレーネに、アルはとうとう手の甲をつねってそれを解く。
「いたた、ちょ、ちょっと」
「何か知らないが、見ずにいてやるからさっさと行くぞ」
「あ、うん。でもなにあの子……こんなところで腕取り外してるなんて……」
「やっぱ見せろ」
アルとレーネは静かに揉み合いをしていると、遠くで鳴き声がする。
「パオ!」
「……! パオの獣人か」
「パオってなに」
「ゾウだよ」
「パオ、パオパオ!」
頭巾を取った5体の獣人が周囲を見渡しはじめ、そのうち1体がアルの姿を見つけると鳴き声をあげた。
すると連鎖して他の獣人も高らかに吠える。
「逃げよう。アル君、はぐれないようにまだ姿は消さないで」
互いの姿を確認し合いながらアル達はその場を走り去る。
「頼りはレーネなんだが、獣人は見たことあるか?」
「数回ね」
「え、そうなのか。ちなみにその時はどうなった」
「その前に私からも質問いい?」
「すぐに済ませろよ」
「……」
「……? おーい」
質問をしたレーネは列の最も後ろを走っていたのだが、ゆっくりと減速していってやがて立ち止まり、それに気づいたアルとコトハも走るのをやめる。
「1体しかついてきてないんだけど、処理していい?」
「まあできるんなら」
「不思議な女の子はいないから手加減なしだよ。『サンダ:ストライク』」
「パバッ!? ……バオッ、ババ……」
レーネの魔法による落雷を受けた獣人はうつ伏せに倒れ、しばらくは這っていたもののその焦げた体はやがて灰となっていった。
「え、なにそれ……」
「神輿ごと焼いちゃわないようにするには、一旦退くしかなかったんでしょ。ほら、大きい影が動こうとしてる」
「そ、そうそう。けどいい考えがあったんだ」
コトハを安心できる相手に任せると、アルは姿を消して今まさに担がれんとする神輿のもとまで引き返していく。
「私が上。助けてあげたでしょ」
「それは別の話! お姉ちゃんの私が上!」
「姉なら妹に譲ってよ」
2階建ての神輿の席を巡って、カンナと同じ顔をした妹を名乗る少女が口論をしている横では、それを担ぐための獣人4体が黙って立ち尽くしていた。




