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#29 いち早くと団長の連絡

 ギルドから逃走したアルは、適当な飲食店の裏に隠れてから、能力を解いて人の目に映らないようしていた姿を元に戻す。

 自由に姿を消せることを目撃されると、手紙盗難事件の容疑者として疑いをかけかねられない。

 もっともアルこそがその犯人に間違いないのだが、かといって本来手紙を受け取るはずの人間でもある奇妙な事態であった。

 腰を下ろして息を整えたアルは、その気になればおとがめなしになるはずだと自分に言い聞かせて落ち着く。


「えーと、なになに……」


 手紙を開封したアルはその内容に目を通していく。


『名前を聞いていなかったとはいえ、いち早く連絡したい情報があることも含め、宛名を大げさなものにしてしまってすまない』


 団長の簡単な前置きの後、書かれていた件の連絡事項を見てアルは目を疑う。


『捕らえていたカンナ・モチヅキを逃がしてしまった。おそらくユンニに着くのは時間の問題、この手紙が届いている頃にはその近辺に潜んでいるはずだ』


「なっ……逃げた!?」


『組織の新手が来て、村の人間を守るために交渉をして引き渡すことになった。俺達の力が及ばずすまない』


 手紙によると、ジェネシスを名乗った新手はカンナと同様にブレンを追っていて、彼女を救出した後、ブレンおよびダースクウカを持つ者についてその行方を尋ねた。

 そこで団長が、ユンニから空路を使うために急いで出ていった、と嘘を交えながら答えると侵略行為には及ばず慌てて村を後にしたという。


『その新手だが、不思議なことにカンナと同じ顔をしていた。話し方、雰囲気からして知能も同程度らしくて、たぶんそのおかげで交渉が上手くいった』


「カンナ……あのちびっこと同じ顔と中身?」


 双子なら身近にいたアルだが、ふいに1つの考えが頭をよぎる。


「ジェネシス……人造人間……ううん?」


 胸につかえるものがあったアルだが、それでも手紙の最後の一文まで読み切る。


『一番はこれが手に渡らないことだが、なるべく俺なりに手を尽くしたつもりでいる。早く安全に帰れることを願ってるぞ。役に立てるのなら連絡もくれ』


「せっかくの厚意だ。燃やす前にせめて……」


 差出人の住所だけ控えると、アルは休憩スペースにあった灰皿の上で手紙に火を点け処分した。

 来た道を引き返すと、ギルドの入り口前にコトハとレーネが待っていた。


「上がなんか騒ぎになってて私も降りて待ってた」


 買い物から戻ったレーネは騒いでいる2階の雰囲気を感じて、まだクエスト受注の手続きをしていないという。

 クエスト用の書類への署名はその場でなくてはならないとは限らず、カウンターに出向くのは提出する時だけでいい。


「アル君は署名だけして。後は私がやっておく」

「少人数で効率よく、だって」

「何が起きたかもなるべく聞いてくる」


 自然な流れでアルに代わってコトハがクエストの手続きに出向く。


「素人のアルは仕方ないとして、頼まれれば私でもよかったのに」

「レーネはほら、買い物しててくれたからだろ」

「そういえばそっちも別の用事を頼まれてたんだっけ」

「うん。そんなところ」


 帰って来たコトハによると騒ぎの原因は、『なんかゴキブリが出てきたらしい』とのことだった。

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