#2 コトハと大音量の登場
アルは学校を卒業した後すぐ郵便屋の仕事を始めている。
コトハとは同級生であり、卒業後も仕事を通して定期的に顔を合わせているため特別仲が良かった。
「なにか騒ぎが聞こえたのだけど」
コトハはブリッツバーサーのやかましい登場音を耳にして、その様子を見に来ていた。
「ああ。このブリッツバーサーをうっかり出しちゃってさ」
「そうなの。にぎやかな武器なのね」
「こういうのがあと3本ある」
「ご近所のトラブルには気をつけて。アル君の家は街中だから」
張り合いの無いコトハとの会話でアルはがくっと肩を落とした。
「あれ、俺だけがおかしいのかな。常人にとっては食器を割ったくらいの騒ぎなの?」
「そんなはずは無いよ。私が詳しくないだけでその武器ってすごく珍しそう」
コトハはじろじろと興味深そうにブリッツバーサーを上下左右から眺め、その度に黒の長髪が揺れる。
そしてアルはさっきの配達時には手にしていなかったことを疑問に思った。
「誰かの落とし物でも拾ったの?」
「確かにそういうことになるな。そうだ、えーと……」
手にしていた手紙の束に書かれていた送り主の名前を数個、ざっと確かめる。
「『ブレン・ハザード』って人から押しつけられたんだ」
トラブルを挟みつつ、任されていた分の配達を済ませるためアルはコトハと別れた。
そんなアルが仕事を終えた夕方ごろ、アルはコトハの家を再び訪れていた。
「リワン村の話、上司が俺に任せてくれた」
「うん、ありがとう。じゃあ明日は案内をお願い」
「ああ、いいぜ」
───
剣士ブレンの身元を知った時、コトハは手紙の束を探るアルに質問をしていた。
それはアル達が住む街ジフォンの隣、リワン村への配達物があるかだ。
「親戚を訪ねる用事があって、できれば案内をお願いしたのだけど」
「んー……本当は仕事のことは黙っとかなくちゃいけないけど、かといって正式な郵便物でもないしな……」
切手は後でまとめて支度をするつもりだったらしく、アルは郵便の料金までブレンに押しつけられていた。
「やれやれ。こうなりゃ郵便屋の意地だ、手紙は届けるが料金は向こうにに請求させてもらう。あとこれもそのうちの誰かしらに返そう」
『ジアースケイル』!!!
「どわあ! 今度は別のが!?」
アルが身に宿っていた強い力を意識すると、やかましい登場音を響かせ、煙を上げて赤黒く光っている剣が地面に突き刺さった。
「……詳しくは伏せるけど、一応リワン村に届ける手紙があった。ひとまず上司には相談するよ」
いちいち剣の登場で騒ぐとテンポが悪いので、アルはコトハにならって視界の端のジアースケイルを無視して話を済ませた。
───
「あれから剣はどう?」
「問題なく体内にしまわれたらしい」
返す予定でいるものを出しっ放しにしていては管理が不安であったが、アルが拍手をすると金色の刀、赤黒い剣は塵となって消えて、確かに体内に収納されたのを感じていた。
「持ち運ばなくちゃいけないと思ったけど、いつでも体内に収納できるのね」
「らしい。不思議な力だ」
※ジアースケイル → 【地球 + 鱗】
燻る煙を上げ、赤黒い光を放っている剣。
灼熱の砂嵐を体現したような剣舞に特化している。