#28 覗けないかとそそのかすコトハ
「いろいろ騒がせた。それじゃあクエストを改めて探すか」
「はあ。パーティに置いてもらってる身だからいいですよーだ」
「あー、レーネはあれ以外に候補はあったか?」
「ツチオオカミはどう?」
「知らない」
「そういうのは聞いてない」
「強い? うえっ!」
レーネはぴしっとアルの鼻先を指で弾く。
「もういい。コトハに決めてもらうから」
「はい……反論の余地も無い」
アルは一歩退いてコトハに相談相手を任せる。
「報酬は気にしないっていうから、活動場所を優先して探してみた。ツチオオカミ8頭の駆除だって」
「魔法使いだと……テエス値だっけ? アル君は無視していいから、どれぐらい?」
「401。私も無事がかかってるし嘘じゃあない」
「ならよほどのことが無い限り安心できる」
「……疑わないの?」
「前に魔法の規模は見たから」
「ああ、そっか」
「アル君があんなのだし、頼りにしてるレーネのことはちゃんと見てる」
「そ、そお? ありがとう……」
アルがいないとクエストの話は滞りなく進み、いい結論に至ったためレーネは満足そうに笑った。
「クエストについてアル君には私が伝えておくから少し買い物を頼んでもいい?」
正式な討伐のクエストは実質初めてであったので、コトハは必要な道具の調達を依頼した。
そうしてギルドに残ったのはアルとコトハだけになる。
「アル君。レーネがいない今のうちにひとつ提案がある」
「謎の依頼書のことか?」
2人きりになったアルとコトハは周りを気にせず、ダースクウカを巡るクエストについて話を再開する。
「姿を消せば忍び込んで手紙を覗けない?」
「そうは言うがな」
「今はレーネには席を外してもらった」
「え、こうなるのを見越してだったのか?」
「私も1階に避難するし、どうするかはアル君に任せる」
「おっ、おいおい……」
少しだけ迷いはあったアルに、コトハが去り際に助言をした。
「アル君宛てのもので間違いないなら中身を見て、その後は持ち歩かず燃やして処分をすること」
「……なんとたくましいこと」
結局アルは、見るのは最小限に留めると決めて、バリアー・シーで姿を消してカウンターに寄っていく。
『下の収納を気にしてたからこの辺りだろう。えっと……』
おっかなかった受付が席を立って奥で書類を探している間、アルは頭の中で呟きながらカウンターの下に潜り、他の書類と別に分けてあった封筒を見つけた。
宛名は『ユンニにいるダースクウカを持っていた青年』という、無事に届いているのが奇跡的なものであった。
そしてそんな郵便物を出したのは『リワン村青年団団長』とのこと。
『俺のこと、だよな。ブレンは青年と呼ぶにはおかしい。けど盗っていくのは……あ、そうだ、俺の名前書き足せばいいんじゃん!』
名案を思い付いたアルは無言でガッツポーズをして、筆記用具だけ拝借しようとしたがすぐ近くで悲鳴が上がる。
「て、手紙が……浮いてる……」
『や、やばっ』
何を思ったか、アルは咄嗟に手紙もその姿を消してしまった。
「こ、今度は消えた!?」
『あああー! しまった……いや、どうせ今返してもっと厳重に管理されるのは明らかだ』
もしかしたら心臓の鼓動で気づかれてしまうかもしれないとびくびくしながら、アルは誰にもぶつからないようにギルドをそっと抜け出した。




