#27 欲望と怒りを呼ぶ謎の手紙
おかしな依頼書の下にはふせんで注意書きがしてあり、それが示している、繁盛していない限り開かない最も奥のクエスト受注用のカウンターには、そわそわと落ち着かない冒険者が群がっている。
「『手紙も預かっております』ね。いつかのウジンじゃないが、伝説の剣とやらを見てみたいんだろうな……あわよくば引き入れたいか」
よく見ると受注書がある掲示板にもあちこちから視線が集まっていて、目立つと恥ずかしかったのでアルはレーネを手で招いて人混みを脱出する。
「むー……アルが持ってたのは別のだからだめか」
「解釈によっては当たってる」
「え?」
アルは、こらこらとコトハの頭に手を置いて制する。
レーネもだが絶妙に誤解を招きかねない会話だった。
「全部持ってたんだよ……じゃなくて、コトハはどう思う?」
「何者かはわからないけど、罠だと思う」
「だよな」
件の依頼書は多額の報酬でひと際注目させ、四竜征剣のうち1本を条件とすることで特定の冒険者を指名している。
その剣であるダースクウカを持っている冒険者は他でもないブレンだったのだが、アルとコトハにはもう1人心当たりがあった。
「俺向けの依頼書?」
「ブレンさんが何か伝えたいことがあるのか、とも考えられるけど、あれだけ目立つやり方は選ばない」
「街中で簡単に済ませてくるだろうな、前の時みたいに。そしてダースクウカを持ってないのは絶対に知ってる」
「ねえ、ブレンさんと私の他に、依頼人の候補はある?」
アルは表の四竜征剣を手にしていた短い間で、ダースクウカとブレンの名前を知っていた人間について記憶を辿ってみる。
「リワン村の青年団団長に、そもそもブレンの仲間の誰かしらだな。あと一応、捕まってるジェネシスの自称幹部か」
「……手紙もあるのなら差出人がヒントにならない?」
「ざっくりどこからかぐらいは聞けるかな」
奥のカウンターを目指して歩んでいこうとすると、アルの肩に手が置かれる。
「……クエスト……決めないの?」
「あ、ああ、そうだな」
アルがしばらくコトハと話し込んでしまったため、レーネの機嫌はよくなかった。
「まあどうせ断られるし、ちらっと聞くだけ聞いたらちゃんと戻るから」
手に入れられる情報は一通り得ることにして、それできっぱり気持ちを切り替えようとアルはレーネに頼み込んだ。
「そうですかー。とても知り合いが多いんですね。今朝から数えて200人を越えましたよ」
「あっ、すいません……」
「いいえ、なにを謝るんですか。私達ギルドは冒険者を信じてますよ? ただ、原則ご本人へのお渡しになっていますので、こちらにお越しいただかなくてはならないんですよ。ご存知であれば宿泊している施設の住所をお教えいただくのでも構いませんよ」
「し、失礼しました……」
ダースクウカを巡って度々やってくる冷やかしにより、完全に怒り心頭であった受付の女性の雰囲気に圧倒されたアルは、わずかな情報すらも教えてもらえず撤退することとなった。




