#23 捻挫と帰郷の相談
「捻挫だった」
「私も」
アルが勝利を収めた決闘から数時間後の夜、松葉杖をついた双子がアルの泊まっている宿屋の前で、けがの具合を報告していた。
「爆発で吹き飛んでた……よな?」
「ああ、でも騎士職だったから助かった」
「……人間やめてたんだ」
「ち、違う。騎士として特別な加護を受けてるが、それ以外はいたって普通の人間だ」
ウジンによると、騎士職というのは天使の加護を授かることで常人の肉体に比べて耐久力が強化されているとのことであった。
「そんなことよりアル。自分から言い出すことははばかられたんだろうが、特別な武器を持っていたなら教えてほしかったな」
「まあまあ、訳ありのルートで預かってるもの……だったからさ」
「預かってる?」
「そう言えばなんにも話せてなかったな。期間限定で冒険者してる理由から改めて説明するよ」
今まで出身地のことぐらいしか話さなかったアルだったが、いい機会だったのでユンニに至るこれまでの経緯をウジン達に説明する。
「アルは元々郵便屋で、前に聞いてたブレン・ハザードから手紙を預かることになって、それを届けにリワン村に寄った」
「けどそこでジェネシスによる獣人の事件に巻き込まれて、帰り道だった橋を落とされてしまった、と」
「そうか、大変だったんだね」
四竜征剣のことは伏せて詳しい事情を伝えると、アルはウジンから同情をしてもらえた。
「ユンニで航路を勧められて、手持ちが無くて現地で資金調達しようと冒険者を始めたんだ。大変な道のりだったけど、昨日ちょうどあの剣についての配達っていう前金込みの臨時収入が入って、ジフォンに帰ることになった」
ブレンからの手切れ金と手向けの品、という名目であったが、やはり四竜征剣が関わるので架空の依頼者を立て、目的地がジフォンでかつ、前金が支払われているという設定にしていた。
「『バリア―・シー』、かぁ。兄さんも知らないんだ」
「うん。自分の姿を消せるなんて特殊な能力がある剣は、先輩にも先生からも聞かなかったなぁ」
ブレンの言葉の通り、バリアー・シーは『表』と呼ばれる四竜征剣の4本と違い、知名度は低かったようでその能力も見たままにしか受け取られなかった。
アルは手にした瞬間に理解できたが、自分以外の人から物までその『視覚情報』を奪い去ることができた。
つまりは姿を消すことに変わりないのだが、どちらかと言えばアルは風景と一体化するというより、意識しながら実際の衣服より上の、見えない服を脱いだ感覚があったのだ。
「なんかごたごたしちゃったけど、また縁があったらよろしくな」
双子の無事を見届けて別れの挨拶も済ませられたので、アルはいざジフォンに帰ろうとする。
しかしサジンによって相談を持ちかけられた。
「ねえ、アル。その……」
「どうかした?」
「私達は軽傷だから数日もせずクエストに復帰できるの。その間だけでいいから、もう少し残ってコトハを手伝ってあげて?」




