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#204 過去と未来の剣

 Q.ライリからオルフィアを庇った時、咄嗟にブリッツバーサーを抜きましたか

 ▶はい  いいえ


 Q.ライリが封印綴字(シールスペル)を使った時、注意を逸らさずにいましたか

 ▶はい  いいえ


 Q.ブリッツバーサーの能力に頼らず単純に防御をしましたか

 ▶はい  いいえ


 Q.空手になった状態でライリから蹴られた時、形はどうであれ防御をしましたか

 ▶はい  いいえ


 Q.ブリッツバーサーが手元にないですが、代わりにダースクウカを抜きましたか

 はい ▶いいえ


 Q.機能不全になっているブリッツバーサーですが、素早く判断して自力で取り戻しに行きましたか

 ▶はい  いいえ


 Q.ブリッツバーサーは機能不全で能力は不発でしたが、動揺せずライリの攻撃を回避しましたか

 はい ▶いいえ









 それはアリュウル・クローズの、矛盾するようだが数多くある最期の選択肢の1つだった。









































 ……──


 Q.ブリッツバーサーは機能不全で能力は不発でしたが、動揺せずライリの攻撃を回避しましたか

 はい ▶いいえ


 Q.ここは男子禁制のサンクチュアリで、人の立入りも滅多にないライリの部屋です。誰か(オルフィアを除く)が救援に来ました。それは誰ですか

 ▶?????




 アルに向かって迫るライリの刃を防ぐ影があった。

 溶岩をそのまま剣の形にしたような、じわじわと赤い光を放っているそれは、火と地の力を宿したジアースケイル。

 四竜征剣の一つで、アルがユンニから遠く離れたネラガにて手放していたもののはずだった。


「──傍から見た限りだが、決して穏やかな事態じゃなさそうだな」


 アル、ライリの目が乱入者の方へ向く。

 その男の背丈はアルと同じぐらいで、ただジアースケイルを握る手はアルよりも逞しく、日に焼けている肌は浅黒い。

 正面から向き合っているライリが男の顔を見て、一瞬怪訝な顔をしてから地面を蹴り距離を取る。

 アルは一拍遅れて男の顔を見ることになったが、悪い夢でも見たかのように固まってしまった。




























「なんで()さんがここに……?」




























 日に焼けていて鍛えられていたものの、その顔は確かにアリュウル・クローズそのものだった。

 本人が認めたのだから間違いはなかった。


「割り切ってたつもりなんだけどな……けど自分だったもんだからつい……」

「……? 割り切る?」


 独り言の内容にはつい最近聞き覚えがあったはずのだが、いまいちぴんと来ない。

 ひとまずアルはもう一人の自分に詰め寄る。


「なにこれどういうこと?」

「あー、余計な干渉しちゃいけないから質問はこっちからだけにさせろ」


 もう一人のアルは他人との交流に消極的でまともに取り合ってもらえなかったが、口外できない事情を察する勘のいい者はいた。


「『割り切る』に『干渉』。もしかして、ルート……刻の四竜征剣が関わってるの?」

「え? オルフィアさん?」


 たまにからかって口だけで呼ぶパターンとかではなく、自然にそう呼ばれた。

 ぞぞぞ、とオルフィアの背中に寒気がして、無意識に青ざめた顔で自分の体を抱いていた。


「ごめんアル君続きは代わって」

「「どっちですか?」」

「不快じゃない方」

「じゃあそっちだ」

「逆!」


 そもそも話を聞くべき相手がもう一人のアルなので明らかだったが、オルフィアの指名を受けてアルが話を引き継ぐ。


「どういうことだ。刻の四竜征剣って……じゃあ(2号)もライリと一緒で、未来から来たのか?」

「なんだその呼び方」

「でもパストサーチはライリが持ってるはず。いや? この先のルートでいずれ俺が手にするルートが存在するってことか」


 樹木のように広がる未来は、あと数秒でライリが心変わりをしてアル(1号)にパストサーチを託す可能性もわずかにはあった。

 1号のアルが手探りで出した結論だったが、それは2号でない者に否定される。


「刻の四竜征剣には全て、『主導権』というものがある」


 未来のライリは全てを理解した風に語り出す。


「ソレによる移動を伴っていない者──パストサーチの主導権はこの場では現在のわしが持っておる。そして同一人物であるわしもまた主導権を共有しており、その権限で他に時間を遡行してきた者を追い返せる。じゃが、そこのアリュウル・クローズはそうならなかった」


『なにこのひとなんか前触れなく語り出しちゃった……え、どういうこと?』


「あー、これは干渉があろうがなかろうが不変の事実だから別に説明をするがな」


 文字通り自分自身である1号が困惑しているのを察した2号は噛み砕いた説明をする。


「パストサーチはやろうと思えば明日、明後日またその次の日からと何十何百本とかき集められて、同時点に複数存在する場合がある。ただし枝分かれする未来では現在の所持者と未来から来た者が異なるのも珍しくない」

「今のライリと2号みたいに?」

「……正確には違うんだが、説明が楽になるからそうと仮定しておく。で、さっき言った主導権。それは元々その時点にいた者が、本来その時点に存在しない者を元の時点に追い返す権限を有するってこと」

「でも後者にあたる2号はまだいるが?」

「ああ、追い返されてない」

「ふん。パストサーチを利用した者ではない、となると……」


 1号と2号のやり取りが終わったのを見計らったライリが不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「候補は2つじゃが……さっきのやり取りを見るに真に『優先権』を知らんと読んだ。おそらくこれまでにミライリードを1度たりとて手にしたことはない。新たに現れたそこのアリュウル・クローズは過去から来た者ではなく、時を同じくした別のルートから来た者か」

「……そうか、未来に行くことができるのはその、ミライリードを入手した以降になる。そしてアル君は今までのルートではそれにまだ巡り会っていないから……過去でも未来でもない、並んで生えている別の枝。つまり()()()()から、あのアル君は来たのね」


 優先権による強制送還の対象にならず、これまでの経歴では不可能が生じることを根拠としてライリは2号のアルの素性を看破し、オルフィアも遅れて理解した。


暴きの目(ゲフェト・ゼセ)


 ライリの目に羽を広げた蝶のような美しい金の模様が現れた。

 そして品定めをするように2号を見つめる。


「所持しているのはジアースケイルの他には、クロスルートのみ、か」

「……ん、鑑定眼の上位能力か。さすがはエルフ」

「ふっ、まあたとえ他になにがあろうとも脅威ではないがな」


 クロスルート──過去へ遡るパストサーチ、未来へと跳ぶミライリードとはまた別、2号は樹木状となっている時の流れにおいて、別れている枝と枝──互いに並行世界の関係にあるルート──の間を行き来する四竜征剣にてやってきていたのだ。

 能力にて仮説だったものを裏付け、同時に戦力を見通したライリはそのまま攻勢に転ずる。


「ま、待つのじゃ!」


 しかしとある者の叫び声により待ったがかかる。

 それは手に刃を光らせる凶器の目の者、ライリと同じ声のそれは、過去の自分自身だ。


「やめろ……もう、無駄なことをするな……」


 正気を失って暴走していたもう一人の自分に呼びかけた声は弱々しかった。

 しかし向き合った相手にも負けぬほど、パストサーチを握る小さな手には強い力がこもっている。


「無駄じゃない……無駄じゃない……無駄じゃない……」

「魔力に飲み込まれるな!」

「なにも言うな! なにも考えずにいればいいのだ……」


 優先権により元の時代に強制送還しようとするパストサーチを掲げる現在のライリだったが、迷いなど捨て去っていた未来の相手の方が行動が早かった。


「──封印綴字」


 虚空で綴った光る文字の帯がパストサーチにまとわりつく。

 得物を追い詰めた蛇のように速く、勢いに圧倒されて適切な対応をとれなかった。


「しまっ……」

「──拘束綴字(バインドスペル)


 封印綴字とは違う色の文字の帯が今度は焦った顔のライリの全身に巻き付き、体の自由を奪われた彼女は床を転がり回る。


「そう。そのまま見ているだけでいい。手を汚すのはすべてわしなのだから」



































『仲間割れならぬ自分割れをし出した……のは百歩譲ってもいいとしてさ』


 抵抗虚しく、ライリが未来の自分に無力化される一部始終を見届けたアルは、その境遇に親しみを──疎外感を抱いていた。


『適性を持ってる俺は、この2号が並行世界から来てる奴だってのは直感でわかってて、それを説明してあげようと思ってたら……なんか皆さん優秀のようで普通に気づいてるんだよな』


 根拠がないため声高々に宣言をできていなかったが、アルは誰よりも早く2号の素性を五感ではないもので感じ取れていた。

 情報を共有し合おうと責任を感じて、緊張しながら話しかけるタイミングを伺っていたのだが、そんなアルを置いてきぼりでライリやオルフィアは話を滞りなく進めていて、寂しさが半分混じりつつも手間を省ける気楽さに越したことはなかった。

 そのぶん緊張は別の問題に注がれる。


『並行世界の俺って……自分でいうのもなんだが、そのー……頼りにしていいのか? 100や1000に匹敵する戦力ならともかく、1+1は2でしかないよ?』




 ピンチに駆けつけたのが俺自身って、正直期待外れだ……。




 せめて注意を引いてもらい時間稼ぎ程度にはなるだろうと割り切り、起死回生の策を練り直すよう気持ちを切り替えるのは早かった。


「なあ1号。本来は違うルートへの干渉は勧められる行為じゃないけどだな」

「あーそうだよね。実家でもそうだったし。うん懐かしい懐かしい」

「あ、話聞いてねーなこいつ。現実逃避をするな」

「そうかよ……最悪自分には関係ない他人事だから余裕でいるんだろ。俺だから俺のことはよく知ってる」


 一方的に無力認定している相手のその態度が鼻について、不機嫌な対応になる。

 そうされた相手はもちろん気分を害するかと思われたが、そこは自分自身。

 まるで拗ねた子供相手のようにやれやれといった態度で応じる。


「確かに割り切ってるとは言ったが、俺はともかくオルフィアさんを無視したままだとな……でだ。このルートの俺の顔を立てるためにも、今回だけは協力する」

「……」

「なんだよその目は」

「自己犠牲は自己満足なんだなって。客観的に見てみて不快なものだとようやく知った」

「まさか俺が自滅覚悟の無謀な勝負を挑むつもりと思ってるのか?」

「だってそうだろ? 俺の分身の強さなんてたかが知れてる」

「だな。俺は長々と話すより実際に見せられた方が信じられる──」


 会話の終わりかけに、不意打ちをするようにジアースケイルを振るった。

 その攻撃は殺気を全く感じさせず、ライリは虚を突かれて必要以上に距離をとって回避することになる。

 だがしかし、もともと当てる気がなかったため回避をせずとも問題はなかった。


「オルフィアさん。そこにいるライリの避難を任せていいですか」

「……ハイ、ワカッタ」

「なんで俺はこんなにひかれてるんだよ……」


 2号の指示に言われるがまま従ったオルフィアにより、拘束されていたライリは安全なところまで下がらされた。


「不意打ちで仕留めなかったのを後悔するがいい。封印綴字」


 先ほどの不意打ちは気に食わなかったようで、その仕返しと言わんばかりに光の帯を2号に向けて放ち、ジアースケイルはそれにぐるぐる巻きにされた。


「『封印綴字』。エルフだけが知る奥義らしいが、誰もかれも好戦的じゃないもんだから今まで誰も見せてくれなかったんだよなあ」

「ほう? 元のルートでは他の者との出会いを経験しているらしいが、知識だけ蓄えたとてそれを活かせねば無駄」

「──ふむ。確かに火と地の能力は反応なし、体内に戻すことも不可。けど破壊不能の性質は制限されてないな。はあ、神の域はエルフでも侵せないか」

「ふん。余裕ぶったふりをしても既に見通しておるわ。それ以外に戦闘向きの四竜征剣はないはず。惨めに命乞いをしても無駄と思え」

「『拘束綴字』はいいのか? 封印綴字が概念的な縛りに対して、拘束綴字は物理的な縛りを課する。あそこにああして縛られてるライリみたいに」

「実際にエルフと出会い封印綴字を知っておるなら、まあ知っておっても不思議ではないな」

「ああ。応用で自分の体に巻き付けて運動の補助として怪力を生み出せることも。男も女も関係なく誰にも腕相撲で敵わなくて、あの時は悪い夢かと絶望したもんだ」


 2号がエルフ秘奥の能力を知り尽くしているとわかると、ライリは少し顔を曇らせた。

 勘のいい者なら長期戦をする中で2つの能力を暴かれる懸念はあったが、今回はその前提すらすでに無くなっている。


「が、封印は完了している。そして先の一合で膂力も把握しておる。知ったところで圧倒的な力の差は覆せん」

「ああ。知っててもどうにもできないことはある。そっくりそのまま返すよ」


 2号が軽くジアースケイルの切っ先を持ち上げたその時、不可視の謎の力により封印が弾けて解かれていく。


「なに……? いったいなにが……どういうことが……なにを……」


 眉間にしわを寄せているライリが、必死に思考を巡らせているのは明らかだった。

 しかし悩むばかりの時間が延々と過ぎていく。

 謎の力など、神の域を侵すほどの四竜征剣が関わっているのはいずれ見当がつくものだったが、なかなかそれに至らない。

 唯一今しがた起きた事象を認識していたのはアルだけであった。


「『現実改変』した……?」

「ああそうか、適性持ちだから感知できたか」


 自分自身のことなので説明不要(実際にその通りだったが)だとみなしていた2号はあっさりとそれを首肯し、アルも顔を引きつらせながらその現実を受け入れた──というよりそうせざるを得なかった。


「なるほど封印を解いたんじゃない。まだジアースケイルの封印がされていない、かつ、ライリがうっかりクロスルートの存在を失念しているままのルートを──クロスルート本来の能力だと、今と同時点のものを自分が行き来するところを、引き寄せた。本来交わらないはずのを無理矢理融合させて、それを正史としたのか……」

「そう。2つのルートで望んだところをつぎはぎして1つにした。別にその行為は適性持ちでなくとも高い集中力さえあればできる。ただその感知は適性持ちにしかできない。ほっとけばいつまでもあのままだ」


 アルはただただ絶句するしかなかった。

 そしてそんな芸当が出来てしまうならば、それに伴うリスクを危惧していると心でも読んだようにちょうど2号が言及してきた。


「それなりに近しいルートに限られるが、望めばなんでも好き勝手ができるから、これはこれで高い依存性を持ってる。俺は本当に必要な時にしか使わないようにしてるつもりだ」

「変えられない過去に無意味な抵抗をするパストサーチと比べるとこれは明らかだな」

「そして」

「? そして?」

「今回は正直、なんとかなりそう」


 ジアースケイルのそばにあった封印綴字のもやが、ばしっと再び形をなして刃にきつく巻きついた。


「……え、なにしてんの?」

「なにって、せっかくエルフと一戦交えられるんだぜ?」

「交えなくていいから」

「くく……くくく……わくわくするなぁ」


 光を失ったジアースケイルの代わりと言わんばかりに、2号の目の奥には静かな炎が燃えて煌々と輝いている。


「ねえ、君って僕で合ってる?」

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