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#182 ひと時の穏やかな時間

次の話を新しいタブで開いたりすると便利かと

「──正義の紅き剣士ゲネヴァスと、友情の白き剣士ユンニ。以上が”星の剣士達”の5人だ──にゃ……にゃん……」



 サジンはその普段は凛々しくある顔を、恥辱により、油が切れた工具のようにギシギシと聞こえてしまいそうなほど歪めている。



 アルは悲願だったサジンの動揺する姿を見られたのだが、代償に受けたダメージは計り知れず、膝を折って火が出てそうなぐらい熱い顔をうつむいて隠す。

 それをサジンは、面白おかしく笑われていると勘違いしてやけになる。


「にゃん! しゃあー!(※律儀に身振り手振りを伴って)」


「ごめんなさいもう語尾の縛りはいいです。出来心の思いつきだったから」



 ◇



 デートがいざ始まってみてアルは目的地に着くまでの間をつなぐのに、自ら課した”女性に限って知己を話題に出さない”という制約に苦しめられていたが事前に用意していた話題、ユンニの演劇で語られている”星の剣士達”について尋ねていた(#49参照)。

 ちょうどその話を切り出した時に、目の端に野良猫がいたので語尾に鳴き声っぽいのをつけておどけてみせると、まさかサジンもそれに乗ってきて──今の状況に至った。


「ふーむ。ユンニでは確かに馴染みのある物語だったんだな」

「その言い方だとジフォンはそうでもなかったか。ユンニと別の剣士、例えばさっきのゲネヴァス──これは地名だぞ。そこでも物語の縁でユンニを訪ねる冒険者がいたりして、やはり向こうでも馴染みがあるようだ」


 一通り話を聞いて、星の剣士達という組織が黒き太陽の悪魔との死闘を繰り広げたという物語は確かに、剣士の名前がつけられた各地域では広く親しまれていた。


「もしかしたらアルは好きそうだろうから、一応それに関する噂も教えてやろう」

「俺が好きそうな噂? ……俺はどういうイメージなのか」

「……いい意味でな? 素っ気ないだろ。いつも距離を置きつつ物事を見てて、けどそう振る舞いつつもなにかしらは気にしてる印象だ」

「こういうの、他人から言われるともしかしたらそうかも、って思い込む心理があるらしい」

「ほらそういうところがまさに前者」


『実際はめんどくさそうなことに積極的じゃなくて、それでも調査せざるを得ないことも任されたりしてるだけだが、前向きに言えばそうか』


 ネラガを訪れた目的であるジェネシスの対応はやらねばならぬ義務だったのでそれは当てはまらないがそれ以外。

 魔法少女あびすにきんきらの捜索、大陸祭への参加などがいい例で、いかに頑張った風に見せるかに注力していて、熱意を伴っていないのは事実だった。


「で、噂って?」

「ああ。それらの土地には特別な守護が施されていて、ある種の獣の、その力を強く制限するらしい」

「特定の種……? あれか、レイジ・オークみたいな危険な害獣か」

「それなら胸を張って言いたいが、アルに言ってるんだぞ?」

「なんか不名誉なことだが、普通ではない事情だな」


 そうだ、とサジンだったから許したものの認められてしまって、複雑な気分には違いなかった。

 肝心の事情というのが。


「それがなにを対象としているか、わかっていない」

「なあ、それってそもそも」

「言うと思ったよ。そう、その類の守護が無い可能性の方が高い」

「言わぬが花、みたいな地域ぐるみのジョークか」

「でも祭事だと定番のフレーズになってて、滅茶苦茶に歌ったりしては随分盛り上がるんだ」


 ユンニの物語をきっかけにそれからは調子よく話題が広がり、件の碧鮫号に着いたときにはアルの緊張はだいぶ解けていた。



 ◇



「はー……これは立派な」

「ああ、そうだろ」


 総搭乗員数30名ながら、その全員が悠々と動ける展望スペースを備えた豪華な客船、碧鮫号。

 数軒の家が並んでいるほどの規模のそれに、サジンは圧倒されて嘆息する。

 そしてそれを、つい昨日に一足先に見ただけの、料金も肝心のサジンから借りているアルが、誇らしげな顔をする。

 レーネがいたならきっと散々なことを言われていたのは間違いない。

 手続きを済ませて無事に乗船、やがて出航した。



 ◇



 乗員に案内された部屋は赤い絨毯が敷かれ、ゆったりとした間隔でテーブルが十数脚は並び、既に着席している客がいた。

 あちこちに飾られている絵画や花瓶など、幼い子供にとっては見ていてわくわくしてもおかしくないはずだが、どの家族連れも子供はおとなしく着席していている。

 また別のところでは仲睦まじそうな老夫婦が、誕生日か結婚記念日かとにかくめでたいことを子や孫に祝われて、時計などを送られている。

 まだ若い自分達はやや場違いかとアルは気にはなったが、いずれも上品な客ばかりだったので奇異の視線を向けられることはなかった。


「料理は順にお持ちいたします」



 ◇



 独特の風味の、ビネガーを使ったドレッシングのサラダ。

 美味しかった。


 揚げ焼きで外はカリカリ、中身はふわふわの魚のステーキ。

 美味しかった。


 甘辛くてコクのあるソースがかけられた揚げ物。

 特に美味しかった。


 その後も1つまた1つと運ばれてくる料理にアルもサジンもとても満足して、いよいよ残すは食後のデザートのみになり、この時はどのテーブルも合わせて片付けがされる。


「さて皆さま。お食事はいかがでしたでしょうか」


 まるで場をつなぐように現れたのはぱりっとした正装に身を包んだ船長で、何度も繰り返してきたのだろう、慣れた様子で挨拶をする。


「残すはデザートのみですが、申し訳ありません。提供までしばしお時間をいただきます。そのため催し物を用意しておりますので、是非ご参加ください」

「へえ、なんだろうか」


 いい乗客の手本のように、素直に興味を示すサジン。

 船長の合図でその場の客全員になにかの封筒が配られる。


『なんだこの既視感……』


 顔には出さないようにしたが、サジンが封筒を開けるとその中身──4枚の紙に、思わず歓喜とも落胆ともとられない程度のため息をつく。


「この部屋のいずれか、宝の在処を暗号にしました。奮って挑戦ください」


『ゆっくり食事だけさせてくれよ……』



 ◇



「問題が書かれているのは実質3枚で、これだけが特殊だな」

「どれどれ、っと」


 はじめは乗り気でなかったものの、折角の機会ということでアルは気持ちを切り替える。


「ん。そっちへいってもいいか?」

「え?……あ、えーと、おう」

「その方が見やすいからな」

「そ、そうだ。その方が見やすいな……」


 アルは戸惑いながら了承すると、今まで対面状態だったサジンが椅子を動かして隣に座り、目的の紙を持ったまま見せられた。

 なので必然と肩が寄り合う。


「……ごめん、集中して見ていいか?」



 日和った。



 アルは現在の関係に応じた適切な距離を保つ。



 そうして受け取った紙は他と違い正方形で、サジンが言った通り問題文のほか文字の1つも書かれていない。

 代わりに縦には赤で0から9、横には青で0から9の数字が書かれたマス目があって、各目には木の葉やしずく、ウマやウシなどがシルエットによるイラストで描かれている。


「うん、”赤0青0”は”翼を広げた鳥”、みたいにヒントになるわけか。けど……ざっと見ていくつか被ってるのがあるな」

「どれだ?」


 サジンは紙を覗き込む。

 アルは上ずった声で応じる。


「こっ、これとかさ」

「イヌに人間や……他にもいろいろありそうだな」


『無粋だが、苦肉の策で同じものを混ぜて数合わせをしてるのだろうか……はたまた問題に大きく関わる?』


「あれ? でも、これとこれ。おそらく同じイヌらしいが、左と右。向いている方向が違う」

「お、本当だ。多少違いがあったりするのか。注意しないとな」

「とはいえ、これは問題を解く時にこそ使うから、まずは解答に手をつけていこう」



 ◇



 特殊な正方の紙をざっと見た次は、黒に縁取られて目立っている紙を観察する。


 ***


 ①-②-⑤ → Ⅰの答a


 ③-④-① → Ⅰの答b・Ⅱの答・Ⅲの答

   ⑤


 ②と⑤の間に鍵はある


 ***


「②と⑤の間、っていうと③、④が答えになるみたいだな」

「でも問題に不足があっては解けるものも解けない」

「ああ、”Ⅰ”、”Ⅱ”とか書いてあるから、それらを参照して、完成させてやっと解ける」

「よし。じゃあ順番に、Ⅰの問題から行こうか。えーと? よんおくにせんななひゃくにじゅういちまん……あれ?」

「どうした?」

「い、いやなんでもない。考えたら別に不要だな」


 サジンがしばらくなにをしていたか、またなにに納得していたかはわからなかったが、問題の紙を見せられてだいたい理解した。



<問題用紙Ⅰ>

 ***


             () ()

 ○ 4207,2119,0281. → ”兜のイラスト”

 ○ 7654.9614,4307  → ”ワニのイラスト”

 ○ 5120.2170,5196  → ”答a”

 ○ 9169,6645.7535  → ”答b”


 ***



「数列があって、十と千の位に赤と青の印がある。で、印で示された升目を見るとイラストになる、と」

「一と二番目は例題らしいから、赤0青8は確かに”兜”だな。うん、重複のないものだから確実だ」


 正方形の紙を漏れなく確認して、法則が正しいことを確かめたサジンはそのまま二番目の例題も見てみた──のだが。


「赤4青0。……ネコじゃない? 法則に従った指示だとネコのはずが、実際の答えはワニになってる」


 ワニのイラストには赤7青5にあり、重複もない。


「例題はもちろん誤ってるはずない……赤4青0を赤7青5に変えられるのかな」

「使ってない百と一の位が気になる。千は百の桁、十は一の桁で足すか引くとかしてみて……」


 サジンの疑問にアルはアルなりに提案をして、実際に試す。

 例題1─”0281”─で指示にない百と一の桁を絡ませて考える場合、赤0青8の指示を保てるのは、千と百の位、十と一の位をかけた場合のみ(客層がばらばらなので複雑な計算式を求めることはないと断定した)。

 ただそれは例題2─”4307”─に当てはめても狙った通りには、赤4青0が赤7青5には変換されない。


「だめかー」

「ううーん……」


 はじめにぶつかった謎に、2人とも頭をひねる。

 赤と青の印は不動なので無意味ではあったが、ふとアルは千より上の桁に目を通す。


「そういやさっき、数字読み間違えてた?」

「いや別に……それは今回のには関係ないだろ」

「んー……いち、じゅう、ひゃく」

,(カンマ)を使えば速いじゃないか」

「あははー……ちょい慣れてなくて」


 教えてやる、とサジンは数列に指を添えた。


「カンマごとで千、百万、十億、と数えていって」

「いやいや、一万じゃん。そこ」

「え? ……あれ? 本当だ。本来なら三桁で区切られてるはずなんだが」

「ああ、四桁で区切られてる──」


 出題者のなんらかの意図が込められただろう不自然なカンマの位置──あ、とやがてアルはもう1つの不自然な点を見抜いた。


「これ、桁数が揃ってない。唯一正しいのは例題1のうんたらうんたら0281にひゃくはちじゅういちで、他のはここ。カンマじゃなくて(小数点)のあるところが一桁目なんだ」

「なるほど……よく見たら微妙に違う。じゃあ例題2も正しくは7654ななせんろっぴゃくごじゅうよん.ほにゃらら……」


『……ほにゃらら派か』


「だから赤7青5が導かれたのか。これなら本題の答えは……」


 小数点で桁数を揃えて、赤と青の印の位置で数字により指示されたマス目のイラストを確かめた。


「aが赤5青2で、bが赤6青4。つまり」



 ***


 ①-②-⑤ → ”人間”


 ③-④-① → ”イヌ”・Ⅱの答・Ⅲの答

   ⑤


 ②と⑤の間に鍵はある


 ***



「うーん、まださっぱりだな」

「……なんか嫌だな」

「ええ? なにがだ?」

「どっちも重複してるものがある。あとよく探すと少し変化が加えられてるのもある」


 正方形の紙には”人間”、”イヌ”のイラスト、と一言で言ってもいくつか被ってるのがあって、さらには左向き右向きなどの差分もある。


 今回の場合は詳しく言うと

 ”左を向いた上半身のみの人間”

 ”左を向いた頭のみのイヌ”

 だった。


「もしかしたらまだ他のイラストとの比較が必要かもしれないから、残りもしっかり全部明かしてくか」


 まだ問題には不足があって、正しい答えを導くには早い。

 アル達はⅡの問題に進む。


『……③に、イヌか。無関係な数字でもなさそう』



<問題用紙Ⅱ>

 ***


    ()   ()

 ○ 00:50 → ”閃光のイラスト”


 ○ 25:25 → ”火のイラスト”


 ○ 75:00 → ”答”


(※紙の右下の隅には十字で四分割された円が描かれている)


 ***



「これは……」


 問題を同時に見て、思いついたことをそれぞれ言い合う。


「時刻だな」「比率ってことか?」


「「ん?」」


 サジンから先に考えを主張する。


「25時表記はあまり世間一般には馴染んでないのは一旦見逃してもらって……ああ、割合じゃないのか。なら足して100にならなくても問題ないな」

「ああ、俺もはじめは時刻とも思ったけど、でも本題まで見たら75時とかが出てくるぞ?」


 あ、と声を漏らしてから、そこまで注意が及ばなかったことを悔しがる。

 それはアルの目で見て明らかなので、時計の文字盤でいう上限の60を超えてもいることは指摘しないでおく。


「比率……もしそうなら例題の二番目。簡単な表記の1:1にされてないか? あ、というかそれで赤1青1を見てみても……”靴のイラスト”。また答えと違うじゃないか」

「あらら?」

「そういえばマス目の数値の範囲は0~9。簡単にできないものはなにを示してることになる?」

「あー……それは……」


 淡々とした指摘にアルは言葉に詰まる。


「ま、まず確実なのから潰そう。”00”はなにしても0のはず。赤0の行を一通り見てみて……青の2が”閃光のイラスト”。ってことは、”50”を25で割ったんだな」


 閃きは連鎖して、問題中に出た数値は小さい順に00、25、50、75と、いずれも25の倍数になっているのに気づいた。


「この法則で行けば例題2の”25:25”は赤1青1だから……」

「……それはさっきやったんだ。本当についさっき」

「んあー……」

「落ち着いて、わかってる情報を挙げていこう」



<問題用紙Ⅱ>

 ***


    ()   ()

 ○ 00:50 → ”閃光のイラスト”


 ○ 25:25 → ”火のイラスト”


 ○ 75:00 → ”答”


(※紙の右下の隅には十字で四分割された円が描かれている)


 ***



 ・出ている数字は25の倍数になっている

 ・赤1青1は”靴のイラスト”

 ・赤0青2は”閃光のイラスト”


「あと赤0の行を全部探してみてわかったのが」


 ・赤0青6も”閃光のイラスト”


 それを書き足したアルは悩ましそうに口を尖らせた。


「いやらしいな……50の変換として正しいのは2か6なのか、それがわからないとな」

「まあ出題者としては簡単に解かれるのも望んではいないだろうからな」

「”火のイラスト”も重複してておんなじオチだ」

「そうか? 行と列は同じ数値だから──」


 ・赤3青3は”火のイラスト”


「だな」

「え? なんで?」

「だって、同じ”25”ならどういう変換をしても同じ数値になるだろ。だから赤と青が”0と0”、”1と1”、みたいにこう、左上から右下の対角線をなぞっていって実際に見つけた。線上の該当イラストはこれのみで、出題者としてはこれだけは正確な情報として伝えてくれてるらしい」

「なるほど……じゃあ」


 ・”25”の変換は”3”


「25が3、25が3……50なら倍で6になると仮定して、そうなると問題で指示された箇所は赤0青6。それも ”閃光のイラスト”で合っている。じゃあ75は9のはず」

「……アル。そう導くのも間違いではなさそうだが、変換の法則は結局わかったのか?」

「別に解けたならいいかな、って……」


 真面目すぎないか?

 サジンからじとっーと見つめられ、アルは仕方なく謎を完全に解明することに。


「サジンはさ。これを見て時計を連想したんだろう? たぶん」


 自分がそうであったように、問題用紙の隅にある十字付いたの円を指差す。


「確かにそういえばそうだ。けど75があるんだ。時計ではなさそうだぞ? ……どうした?」


『俺が先に気づいてたんだけどやめとこう』


「解答にはまだ使ってないな」

「だなー。無駄なものを描いておく、ってのは考えがたい。今まで挙がった数字が──」


 0、3、6、9、25、50、75


「文字盤に収まるのは0~9までで、なんでか3の倍数。それ以上は25の倍数」

「数値としてではないが4。四分割の4も出てる」

「1、2、3、4……おお? 1、2、3、4……」


 4つある、円と十字線の交点。

 アルはそれを指で数えて円を一周、また一周させるとたまらないようにそわそわし出す。


「一周した。これはやっぱり時計だったんだ。なおかつ()()()でもある」

「グラフ?」

「0~9、0~75はそれぞれ針の位置とパラメータの値になるんだよ。0時は0パーセント。3時は25パーセント。これで3と25の変換の法則は理解できた。他も同様。ふふ、どーだ?」

「……参りました、アルさん」


 呆れた口調だったがサジンから功績を素直を称えられ、アルは思わずにやけていた。



 ◇



「これは……」

「まさか間違えたか? でもアルの説明はちゃんと根拠もあったし……」



 ***


 ①-②-⑤ → ”人間”


 ③-④-① → ”イヌ”・”イヌ”・Ⅲの答

   ⑤


 ②と⑤の間に鍵はある


 ***



 Ⅱの問題から導かれた答を黒い縁の問題用紙に当てはめてみたが、全く同じイラスト─左を向いた頭のみのイヌ─が連続してサジンは不安な面持ちになっていた。

 まさに、テストでやたら複雑な数値や式とかのおかしな回答に至った時の違和感だ。


「なあ、もう解いてみていいか?」

「うん。ひとまず最後まで答えを開けるんだな」

「いや違う。この問題、たぶんだけどもう解ける」


 言ってアルは、正方形の紙に描かれていた1つのイラストを指差す。


「Ⅲの答はおそらく……いや、俺はこれだと断定できる」


 しかしサジンの目はそこへ向いていない。


「アル」

「……?」

「なんだろう、せっかく考えてくれたであろう問題を無視ようで申し訳ないんだが……」

「いや、今は俺の推理に注目するところじゃ?」

「ううーん」

「聞くだけ聞いて。だめだったら素直に解くから」

「解けちゃったら?」

「Ⅲは仕方ないけど、本っ当に申し訳ないけどお蔵入りしてもらおう」



 ◇



「それで、最後の答えとは?」

「これだ」


 改めてアルは、正方形の紙に描かれていた1つのイラストを指差す。

 ()()()()()()()イヌだ。


「イヌ……確かにイヌ、イヌという流れから不自然ではないな」

「ただ前の2つと違って身体がある。これら──もとい、これは3頭を持つ1頭のイヌなんだ」

「ああ、竜だとかに並ぶ伝説の生物にもいるな。ケルベロス」


 本音を言えば気持ちのいいツッコミを期待したアルだったのだが、やはりサジンは思い通りにはいかなかった。

 いちいちくよくよせず話を続ける。


「そして問題を見てみる」



 ***


 ①-②-⑤ → ”上半身のみの人間”


 ③-④-① → ”イヌの頭”・”イヌの頭”・”身体つきのイヌ(仮)”

 ⑤


 ②と⑤の間に鍵はある


 ***



「上と下を比べると、それぞれ共通しているもの、片方にしかない数字がある。どういう理屈か考えてみて、③に注目するとわかった。頭の数だ。人間の場合は①になってる」

「なるほど、体の部位か。すると②は、腕……いや脚?」

「しれっと上半身のみしか描かれてないから腕だ。イヌは脚だから④。そこから伸びているから⑤は指もとい、手」

「なあ、イヌも指って5本なのか?」

「ツバキさんから教えてもらった。ちゃんと5本ある、もしくはあったらしい」

「あ、こんなところでイヌの世話をしていた恩恵が……ところで、ケルベロスの方にしかない①ってなんだ? 人間は上半身だけだからなら、下半身に関係することか?」

「尻尾だぞ」

「あーなるほど」

「尻尾だからな」

「なんで2回言った」



 ◇



「それで結局、②と⑤の間だけど、腕と手だから肘。もしかしたら今座ってるコレが……」


 アルは掛けていた椅子の肘掛け、その裏を手探りで調べると不自然な突起があって、かちりと不思議な感触を伴って押し込むことができた。

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