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#180 アルとサジンの大陸祭⑦

 ゴーストのアルは(どうやら本物のアルのなんらかの工作によって)重くなった剣をどうにかして担ぎ上げようと必死になっている。

 その傍らにはサジンのゴーストが駆け寄って狼狽えた様子で、それでも力を貸そうと注意が逸れていた。

 その状況を見たサジンの決断は早かった。


「今しかない──もう一度だ、ガブ」


 ”発火”を筆頭に人間は誰もが、その頭で想像し得る全てを為せる能力を秘めている。

 例えば一般の冒険者が必ず学ぶ”発火”は、指で作った輪で右耳の付け根を囲み、第一と第二関節の中間にあたる部分を、頭の中から指でつつくように刺激。

 そこに、火を連想させる真っ赤な鉱石を先端に装飾した専用の道具”タイニィ・ライト(#154参照)”を介して火を発生させる。

 何度も何度も繰り返し練習して、慣れてしまえば会話や読書の片手間でもそれができる。

 そして今、サジンが要求されている”精霊強化(スピリットチャージ)”を為すための感覚は、目の前に吊るされた、ちょうど拳大の大きさの輪っかに腕を通すようなもの。

 ぐっと近づいて速度も落とせば余裕だが、代わりに威力は落ちる。

 最大の威力を発揮するのは当然、思い切り拳を振り抜いた場合だ。


「集中だ……集中……」


 能力の発動を助けるものにはかけ声や詠唱により自己催眠の類を行う”ルーティン”があり、実際に効果はあるのだが、それにより能力を習熟していないのを晒すこととなりまた、周囲に警戒されてしまうリスクを孕んでいる。


「──”精霊強化”! はああっー!」


 サジンの剣が精霊ガブと共鳴して光り輝く。

 天へ真っ直ぐ伸びる光の柱となったそれを自身のゴースト目がけて振り下ろした。


「ふあっ……」


 光の柱が闘技場の床に叩きつけられたところで、サジンはずっとこらえていた息を吐く。


 手応えは確かにあった。


 それは、精密な動きを要求する輪っかを微かに揺らした感触だった。


「……」

「! やべえ……!」


 危険を排除しようとサジンのゴーストが、放たれた矢のようにサジンに跳びかかってくる。

 アルは咄嗟に剣を捨てて盾になろうとするが結果は誰が見ても予想できた。

 大した装甲もないアルは腕の一振りで薙ぎ払われてしまう──はずだった。


「『ふぉーすれすと:ふぃーるど』」


 石の床をめきめきと割って伸びる太い木々がゴーストの進路を阻む。


「ああ、ごめんね? まだ慣れなくて、()()手が出ちゃってた」


 ()()()()のアルを守るため、あまりにも苦しい言い訳を残して去っていくのは、試練に乱入してきていたくま耳魔法少女のぶらうん。

 しかし普段のそれとは装いが異なり、シンボルのくま耳はそのままだが全身を木でできた鎧で包んでいる。

 ぱっと見た木の鎧にアルは頼りなさを感じたが、改めて確かめるとそれは木目がくまさんマークになっていて、ただならぬものだという雰囲気を醸し出していた。


「これ……は、ぶらうんさん? 今まで不在だったネラガの魔法少女、ぶらうんが現れました! いったいどういうことで、あの姿はなんなのでしょうか……?」

「くま耳魔法少女ぶらうん<ぐろうおーばー>だよ。私の強化形態」


 困惑している司会の問いに答えて腕をさっと振ると、その軌跡には太く強靭な木々が生い茂る。

 それに囲まれたぶらうんはさながら、”森の中のくまさん”だった。


「さて、試練に乱入しちゃったのは謝るけど、仲間は見捨てられないからね」


 言ってぶらうんはちーむ”くろーばー”の2人に顔を向ける。


「私が時間を稼ぐから、変身お願い」

「ぶらうん……助かるけど向こうの説得をどうしようか」

「うん、あびすだよね。でも2人が同時に変身するくらいは叶えるよ。『ふぉーすれすと:ばいんど』」


 木々が2人のゴーストに絡みつこうとする。

 ただゴーストと言えど強化形態の魔法少女、金の装飾がされたナイフ、黒く光る鎌は迫っている木々を容易く切り捨てる。


「えーと、えーと……」

「あびす?」

「我の力昂りし姿は、未だ名を授けられておらぬ……」

「……じゃあ<  (あんのうん)>は?」


 ぶらうんのアイデアを聞いたあびすが子犬のように跳ねた。

 それからその興奮を発散するように駆けまわって、しゅばばばとポーズを決めてしゅがーと並び立った。


「よし行くぞ!」


「初めからそうしてろ」


「わ、わかってはいるぞ。しゅがー」

「いや? 私はなにも言ってないぞ?」

「へ?」


「「え……?」」


「ん? どうかした? 空耳じゃない?」


 2人して同じ幻聴が聞こえるなんて珍しいこともあったものだな、と一度顔を見合わせただけであびす達は強化変身の体制に移る。

 まさかあの面倒見のいいぶらうんがそんな冷たい発言するはずがないのだと純粋に思っていた。



 ◇



『ううーん。そもそも乱入が珍事態ですが、もっと別の違和感がしますねえ』


 ぶらうんの乱入の対応を他のスタッフと協議していた司会だが、どうしても拭えない違和感に顎に指を当てて首を傾げた。


『精霊は可愛い子には甘いのは知ってますが、今おかしいのはぶらうんさんに、()()()()()()()に精霊がくっついていったんですよねえ。さて誰に付けてたのでしたでしょうか』


 抱いた違和感はまだあった。


『前に観た演劇の、鏡映しを表現した面白い演出かと思ってましたがエスメラさんときんきらさんはそれぞれ左と右の手でハイタッチしてて、それ以来気になってたらしゅがーさんにきんきらさんが左利き、ぶらうんさんにあびすさんが右利き。調べたら左利きは人口の1割らしいですが上手く言い表せない違和感がー、ううーん』


 唸っていると協議が済んだようなので、悩みは一旦切り捨ててアナウンスに徹する。


「ぶらうんさーん。魔法少女の縁で”くろーばー”への加担は自由ですが、残念ながらチームは失格となりましたよー」

「あー……大丈夫。というかそもそも私達のグッズが副賞で、優勝するのも変だと思ってた」

「……後ろの2人は初めて聞いた風ですが」



 ◇



「ま、仕方ないか。ぶらうんの言い分も理屈は通ってる」

「だがしかし……」

「助けてもらってわがまま言うなよ。ほら、置いてくぞ」

「ま、待って、今行くから!」


 しゅがーに強引に導かれ、あびすは置いてきぼりにされないよう肩を並べる。


「──ちぇんじ、<ごーるどでこれーしょん>」

「──ちぇんじ、<  (あんのうん)>」


 魔法少女の強化形態が3人揃うという事態により、理屈は不明だが、目立った被害を出さなかったものの空間がぐわりと揺れた。

 闘技場にいた全ての参加者、観衆の注目が空間のゆがみに集まる。

 そこにいたのは白に金縁を施されたナイフ型の槍に鎧を纏った、本物のしゅがーの強化形態、すいーと魔法少女しゅがー<ごーるどでこれーしょん>、そして真っ黒の鎧を着て鎌を手にした本物のあびすの強化形態、しっこく魔法少女あびす<  (あんのうん)>(※仮称)だ。


「おおおーっ!」


 初お披露目だった強化形態がそろい踏みという圧巻の光景に割れんばかりの歓声が巻き起こり、応援の気持ちはそのまま正義の魔法少女の力に変わる。


「『ごーるどからとりー:くりあーすらっしゅ』!」

「『  (あんのうん)禁術(ふぉびどぅん):でっとりぃりーぱー』!」


 しゅがーたちの攻撃は直撃、衝撃はもれなくゴーストの全身に伝わり、形を保てなくなったそれらは霧のように消え去った。


「「よーし、勝利!」」

「まあ得点はないけど、よく頑張ったね。結果よし。全部丸く収まったっ」


 強引に事態を収拾したぶらうんだった。

 きんきらは中身がシオンだったと知っていて、だいたいなにがしたかったかわかっていたが、騒動が円満解決したところに水を差さないようにする。


『……やっぱり定期的に抜き打ちの監視とかしましょうか』



 ◇



 ぶらうんの気まぐれな介入により一時的に難を逃れたが、サジンの窮地は継続している。

 それどころか一撃必殺を狙った”精霊強化”は失敗し、ゴーストの更なる警戒を招くことになっていて、不発に終わった技だというのに、さっきよりも高い集中を要求されてもっと事態は悪化しているまであった。


『落ち着け私。気合や根性で途端に強くなるなんて創作みたいなことはあり得ない。冷静に狙いすました、まさに急所を撃つような一撃こそがなにより強い』


 極めて冷静に努め、深い呼吸を何度かして状況を確かめる。

 自分はゴーストとは違い精霊を伴っていて、それはわかりやすくそして何より強力なアドバンテージ。


『けどそれだけ……実際に使えなければ意味がない』


 考え込んでしまい、注意が欠けていた。

 視界の端では、主人の思い詰めた様子を見かねたガブが単独で突撃して突破口を見い出そうとしていて、サジンはぎりぎりで胸元に抱き寄せて引き止めた。


「ま、待て! ガブ!」


 ガブの興奮はなかなか収まらず、よく言い聞かせてなだめようとする。


「いいか、ガブ。無謀な突撃はだめだ。私達はなにも──なにも……()()()()……じゃない。そう、そうだよ。ガブがいるかいないかだけじゃない。ゴーストはどうしても阻みたい攻撃があるけど、私は決してそうではない。相手の行動を制御できるという意味では主導権は私達にあるんだ」


 決して無謀ではなかった、相棒のその小さな体のどこにあったのか信じられない勇気に触発され、サジンは気合を入れて頬を張った。


「ガブ!」


 相棒と息を合わせて再び”精霊強化”にとりかかろうとするサジン。

 ゴーストはそれを阻止しようと剣を構えて駆け出すが、なおもサジンの目は整然としている。


「私のことはよくわかる。こうして、想定外の事態に直面すると慌ててしまってしばらく硬直するとなっ!」


 光を増幅させている剣はしっかり握ったまま、もう片方に握っていた盾をそのゴーストの行く先目がけて放り投げた。

 サジンが予想通り、ゴーストは急に立ち止まりその場で足踏みして、その一方でサジンはしてやったりと余裕が生まれた。

 防御の手段を捨てて、決着の一撃に全てを賭けるリスキーな手段をとる──それは実際に実行したサジン自身でも信じられない大胆な行動だった。


「行くぞ、”精霊強化”! はああーっ!」


 空に伸びる光の柱が雲を散らし、束ねきれなかった光の奔流を辺りに迸らせる。

 その巨大かつ圧倒的な力を持ってサジンは分身であるゴーストを、サジンという光ある限り不滅であるはずの影のごとき強敵と思われたそれを理屈ごと壊し、消滅させた。

 そして、ちゃりんとコインの音を鳴らしたお付きの精霊が嬉しそうに跳ねた。


「なるほど。これで勝利条件を満たしたようだな……」


 ◇



「えー、それでは皆様、お疲れさまでした。皆様の活躍で今回の大陸祭も例年通りに大いに盛り上がり、少なくとも私が見てきた中では史上最高のものだったといっても過言ではありません」


 闘いの試練が決着し、闘技場ではゴーストを出現させるギミックを解いてから手早く戦闘の痕跡を清掃してから表彰式に移っていた。

 ここでも司会の進行は変わらず飄々としたものだったが、そのリップサービスらしきものは実際には嘘偽りのない本音らしく、表彰式の準備を挟んでも未だ冷めぬ観衆の熱気は少なくとも見応えが一切なかったわけではないようだった。


「それでは今回の大陸祭、優勝したサジン選手です。どうぞ壇上に」

「は、はいっ」


 鎧のずれだったり身なりを最後にもう一度確かめて、サジンは緊張した面持ちで観衆の前に出た。


「ん? えーと……? ああ、そうでしたね。すみません、訂正があります」


 スタッフになにか耳打ちされた司会がそう口にすると、ざわざわと動揺が広がった。


「はい。チームメンバーがいましたね。ステラ‐(ワン)の残りのお二方もご一緒にお願いします」


『ああ、そうだった。忘れてた完全に』


 すました顔でレーネが、恥ずかしそうにオルキトが壇上に上がり、サジンと並び立つ。

 アルはそれをふっと短く笑ってから眺めていた。


「それでは少し話を聞きましょうか。オルキトさん、今のお気持ちは」

「いや僕じゃないでしょう……ここはサジンさんに行くところですよ」


 短いいじりを挟んで、司会がサジンに同じ質問を振る。


「えっと、まだ実感がないんですけど……精一杯、全力を出し切れたのでよかったです、はい」

「……」

「ええ……? えーと、あの、また機会があったら是非参加したいな、と思った素晴らしい催しだったとも感じました」

「……」

「最初の試練は走り回ったり、2つ目はけっこうドキドキさせられてー……最後はバトルロワイアルで大変な闘いでしたが、でもガブとー、ああ、じゃなくて相棒の精霊と新しい技を完成させられて、大変だったけど成長を実感できました」

「……」

「あう……」


 サジンが弱々しい声を漏らしたところで司会は意地悪をやめて、くすくすと笑顔を保ちながら観衆に商社への拍手を促した。


「では優勝チームに賞金の授与です。なんと120万レル。3人で仲良く話し合って取り分を決めてくださいねー」


()()()()()()()、とは言わなかったか』


 既に壇上ではレーネもオルキトも遠慮している様子で話し合いは難航しそうだな、とアルは呆れていた。


「次いで副賞の紹介。地元特産のお高い魚介類などの食材──そして目玉の」

「うわ……」


 ()()が現れて、アルは思ったまま正直な気持ちが声になって漏れていた。

 紛れもない関係者である隣のシオンの方を向くと、なんだよこっち見るな、と肘で小突かれる。


「魔法少女4人が揃った等身大パネルでーす。一般販売に先駆けた貴重なものですよー」

「これいる? ──むぐっ!?」

「すみませんなんでもないです……」


 空気を読まないレーネをサジンが無理矢理引っ込め、表彰式は無事に終了した。



 ◇



 夜にはパーティが開かれて、そこは昼間競い合っていた参加者が互いに活躍を称え合ったりする場になっていた。

 優勝したチームに人が集まるのは当然のことだったが、メンバーの活躍の度合いがかなり偏っていたため今回に限りサジンだけがヒーロー扱いで、アルが落ち着いて話せるまでには結局、大半の参加者が酔いつぶれるのを待つしかなかった。


「アル、ここにいたか」

「よう。お疲れ様、あとおめでとう」

「私が勝った、か……やっぱむずがゆいな」


 屋外にあった会場の中心から離れた2人がけのテーブルにいたアルを見つけると、サジンはその向かいに座る。

 そしてどちらからともなく──。


「すまない、最後にああいう勝負があったとは予想できず、無理を強いてしまって」

「悪かったな。意地なんて張らず素直に謝っとけば余計な感情含まずに楽しめてたはずなのに」


「「……」」


 先にアルがやれやれと苦笑いをすると、サジンはむっとして頬を膨らませてから、同じように肩をすくめて薄く笑った。


「あれだな。すごかったぞ、”精霊強化”。もう、こうやって、ばああーって感じ」

「でも正直ぎりぎりだった。しっかり時間もらってもたぶん10回に2、3回成功するくらいだと思う。意外に追い詰められてると頭が冴えてくるのかもしれない」

「頑丈極まりない天使の力に加えて、アレをばんばん撃てたらそれはもうすげーことだよ。あ、ていうかガブは?」

「ああ、まだ人混みは慣れてないから留守番だ。”精霊強化”を初めてしたから異常がないかコレルさんに調子を見てもらうところだったし、そうでなくとも定期的に診てもらってるんだ」

「え、あそこに通ってるのか……」

「そっちこそコトハは? 両手が塞がってるからここまでドリンク届けてくれ、とは頼まれたが。一緒にアルもいるというから、まあちょうど良かったが」

「……知り合いに捕まって寄り道してるんだろ、たぶん。いいよ俺がもらう」


 長年の付き合いでコトハは、サジンと2人きりになれるよう気を回してくれたのだとアルはなんとなく気づいた。


「無事に大陸祭が終わって、結果は私が勝った。わかってるな? アル」

「ん……お願いをなんでも聞くんだろ。おう、覚悟はできてる」

「じゃあアル。『私がジフォンに行くことがあったら、その時は全力で案内に徹すること』。いいな?」

「……んん?」

「言った通りだぞ。だってネラガからユンニまで戻ったら──アルは冒険者を辞めてジフォンに帰るんだろ? じゃあそれがいいかなって」

「あー……そう、か」


 それがサジンの純粋な思いやり故の発言だとは理解していた。

 温かい言葉であったと同時に、冷たい言葉でもあった。

 無事に帰郷を願ってくれているが、その提案を悩ませるような特別な感情、気持ちを一切持たれていないという現実を突き付けられていたのだ。


「それで×××だけど、いつ行くんだ?」

「へ? なにか言ったか?」


 情けなく放心していたアルは会話を聞き逃してしまい、勝手に負った心の傷を隠すようにおどけながら聞き直す。


「だから、()()()だ。……勝負とは別で、確かに失態を晒したのは事実。約束は守る」

「いや、いやいやいや。あれだ、デートの意味わかってる?」

「出かける用事に付き合うことだろ? アルが勝手にそう呼んでるだけで」

「えっと……」

「違うのか? 別の意味があったのなら互いの認識にずれがないように聞きたいが──」

「大丈夫、合ってる。適当に俺の用事に付き合ってくれればいい」


 難攻不落のサジンという要塞に生半可な覚悟で挑めば大けがでは済まないと悟り、望んだタイミングにて万全の準備でしかけられる機会こそが唯一の勝機と見て、アルはサジンの間違いを訂正せずにしておいた。



 ◇



「飲み物とってくる」


 サジンが席を外すとやっとアルは肩の力を抜けた。

 だが落ち着く暇も無く、誰かの足音が近づいてくるのに気づく。


「よ、アル。大陸祭はお互いにお疲れさんだったな」

「レドラさん」

「なんだ? 邪魔したか?」

「いや、そういうのじゃ……」


 確かにサジンとはまだそういう関係ではなかった。

 アルはちゃんと否定して、レドラの話に耳を傾ける。


「おっさんの独り言、っていうか世間話をちょいとしに来てだな。聞いてくれるか?」

「まあ別に全然」



「ジアースケイル。あとダースクウカか。持ってるんだろ?」



「そ……んなー、いやなにが……」


 さっきまで浮かれ気味だった熱が一気に引いていく。

 指先が冷えてきて感覚が鈍くなる。


「その反応だとバレバレだぞ。そうでなくても、前にあった俺達”大鷲の誇り”と”星の冒険者”、ぶらうんの共同クエストであった、ジアースケイルの雄叫びは聞き間違えることはねえ。……おっさんになると四竜征剣の知識は多少備えててな」


『あの時……ジェネシスのヴンナとかいうのと交戦した時か……』


 後悔しても遅かった。

 入れ替わりが激しいので正確な装備状態はジアースケイルを手放していて代わりにブリッツバーサーとダースクウカを持っているのだが子細はどうでもいい。

 まさか身近なところに四竜征剣の詳細を知る者がいたとはつゆ知らず、またも狙われる身になるかと思うと、情けなくて悔しくてくっと唇を噛んだ。

 目的はまだ不明だがいい期待はほぼできない。


「あー、そう心配するな。俺はあんま危ないことできないんだ。ニコにジールを一人前にするように頼まれてるし。なにより──まだ子供も小さいしな」

「あ……レンくん?」

「言わなくていいっつの」


 恥ずかしそうに鼻をこすってから、レドラは今一度顔を引き締めてアルに尋ねる。


「言いたくなきゃ詳しくは聞かねえ。ただ教えてくれ、それらを持ってた奴、奴等はどうだった」

「どう?」

「ええっとだな。最後に会ったのはいつどこでとか、とか元気にしてたかって意味だ」

「それなら……こっち、ネラガに来てからしばらくしてすぐに会って、こういうのを押し付けておきながら危ないことするなよ、とかのたまうほどには元気でしたね」

「うぐ……悪い、俺から謝っとく。すまん」

「あの、レドラさんはアイツらのいったい……」

「いや、聞くな。これだけはどうしても言えない。話聞かせてくれてありがとな。んじゃ」


 それだけ言ってレドラは去っていった。

 レジスタンスとレドラにいったいどういう接点があるのかは気になった。

 しかしレドラが追及を拒んだことと、なによりサジンとのデートをどうしようか考えるのでアルは頭が精いっぱいになっていた。

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