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#179 アルとサジンの大陸祭⑥

 これまでの試練で体力や集中力を消耗していた参加者が己自身と対峙する場合、その影響が思いのほか大きく苦戦を強いられ、”バトルロワイアル”とは呼ばれても、他の参加者は攻撃できない、唯一交戦できるゴーストは攻撃されない限り行動はしないため背中を気にせず、3体を撃破せねばならない点数ではあるものの相性のいい相手というのをあちこち探し求める動きが目立ち始めている。

 もちろん中にはルールに則り自チームのゴーストと対峙している面々もいた。



 ◇



「くっ……いくらゴーストとはいえど、オルフィア様には手をあげられません……!」


『……めんどくさ』


 チーム”碧の原点”では、まずゼールヴァがゴーストとの闘いを拒否。

 ただ一応他の参加者からの襲撃には対処しているので試練に消極的な態度を正す精霊の指導は入っていない。

 オルフィアはそんなゼールヴァに守られつつ、一般に非戦闘職の錬金術師(アルケミスト)でありながら前線に立っていた。


「……」


『ゴーストまで同じような挙動を示してるし……』


 ゴーストでも忠誠を誓って目の前で正座しているゼールヴァに対し──えいえい、ぺちぺち、と1のダメージにも満たないビンタをずっと繰り出して指導を免れている。



 えいえいぺちぺち。



 えいえいぺちぺち。



 えいえいぺちぺち。



 ゴーストのオルフィアは精霊の指導がないので後方でその様子を静観している。



 えいえいぺちぺち。



 えいえいぺちぺち。



 えいえいぺちぺち、えいえいぺちぺち。



『結局アル君と遊べなかったし……いや別に気にしてないけど。もう帰ってごろごろしたい……』



 えいえいぺちぺち。



 ぺち、ぺち、ぺち。



 ごっ。



『! っとと、危ない危ない。気を抜いたら拳でいってた……』


 そうして膠着状態が延々と続いている。



 ◇



「おじさん、ほらもっとしゃんとする」

「るせーな、聖女らしく援助してくれよな」


 チーム”大鷲の誇り”では魔法剣士(パラディン)役割(ロール)のジルフォードを欠いているため、本来の戦術を展開できず、”聖女”ニコルの叱咤激励を受けた赤き鎧の”猛獣殺し(ビーストバスター)”レドラがゴースト相手に奮闘していた。


「ていうかおじさん、剣も使えたんだね」


 初めこそ同じ武装状態で闘っていたレドラ達だったが、どこかから()()()()()()()()()、ゴーストはそれを拾い見事に使いこなしていた。

 物理的にリーチで勝るレドラの槍での攻撃を次々と防ぎ、それは元々手にしていた槍よりも熟練度が高いように見えてニコルはそれを、なにかしらの経歴があったのではと疑っている。


「……まあ昔はな。けど今の俺にゃ、あんなキレはもうないぞ?」

「自虐風自慢やめな?」

「んだよもう! 聞いてくれてもいいじゃねえかよ……」


 ”猛獣殺し”として馴染んでいた対獣戦闘の槍術では、対人戦闘に特化した、かつてのレドラを再現した剣術には苦戦を強いられる一方であった。



 ◇



「コトハ、ちょっと集合。……こっちのチームの話だからサジンはだめだぞ」

「……ふ、ふん! どうぞ、勝手にしてればいい」


 サジンに会話が聞こえないぐらいに距離を置くと、アルはまず。


「コイツ、この精霊を無効化してくれないか?」

「ん、いいよ」


 コトハがアルに付いていた精霊にさっと手をかざすと、ちかちか点滅してから酔ったようにふらふらと不安定な飛行をし出した。


「さすがだコトハ。俺の考えを読んだように事前に準備してくれてたとは」

「……まあね」


 実際は一切仕込みなど不要の能力行使だったのだが、アルの機嫌がよかったので下手に刺激せずコトハは場を流す。


「それで本題。俺はこの最後の試練、大陸祭の締めくくりはサジンに花を持たせたい」

「ふむ……詳しく聞こうか」

「ああ。俺は俺と、サジンはサジンと闘わされる今の状況だとそうするしかないかなと。俺の場合は、戦闘のスタイルからして四竜征剣の奥義の打ち合いになって、それを相殺し合う。ということで決着がつく未来が見えない。そんな言うなればあいこ連発が必然の俺と比べたら、サジンならいつかは勝ちが続いてきて、少なくとも平行線のままってことはないはず」

「そして、精霊も静かにさせたから他チームであるサジンに助力をできる、と」

「本人にバレない程度に、だけどな」


 じゃあ動くぞ、とアルはコトハをそのまま連れていき、サジンを誘って3人で円を組んだ。

 そこで打ち合わせの内容を、真の目的を隠して提案する。


「ゴーストがああする以上、動き方はパターン①の正攻法だ。俺は俺を相手にして、サジンはサジンを相手にする。”大陸祭”としての勝負、先に勝利条件を満たした方が勝ちでいいか」

「まあ条件としては対等といえる。問題無い」


『そしてやはり私は瞬殺前提で話進んでるか……』


 指摘したい気持ちはあったが、コトハはこらえて話の腰を折らない。


「……前衛で防御特化した闘いのスタイルだから持久戦するつもりだろうけど、俺は構わず勝ちを目指すからな?」


 アルは不器用なりにサジンを焚きつける。

 上手く乗せることができて威勢のいい反論がくるか、もしくは意にも介されず淡々とした返しをされるか。

 サジンが口にしたのは別の意味で落ち着いた言葉だった。


「天使の力か。天使の力は同じもので中和できるから攻略方法は確かに存在する」

「中和……中和か。そんな仕組みが」


 サジンを勝利させるため、有益な情報を基にアルが考えを巡らせていると、あからさまだったのか目ざとく指摘された。


「真剣な勝負だ。互いに介入するのは禁止にする。目的が妨害でも助力の類でも、だ」

「アルさんは『俺も混ぜて()(→)』とか言って割って入る奴じゃないから」

「『混ぜて()(↑)』ってな……子供か」

「……」


 薄っすら認識の違いを感じたがアルは無視をした。

 変則的であるものの競争の最中で、ただでさえ時間が惜しいのだ。


「……予想するに、攻撃の意思を感じれば専守防衛を決め込んでいるゴーストであっても飛び出してくる。だが私自身を確実に倒すにはそれでもやるしかない──ガブ!」


 サジンが相棒の精霊を左手に呼び寄せる。

 それと同時、ゴーストのサジンがそれを阻止せんと剣を振りかざして跳びかかってきた。


「……っつ、はあっ! ふっ!」


 直前まで集中を別のことに割いていたせいで反応がやや遅れ、一撃一撃を防ぐのがぎりぎり。

 体勢をぐらぐらと崩しながらサジンは後退する。


「『暴風(ブラスト)』」


 サジンを追い詰めるゴーストに、コトハが起こした風が真横から叩きつけられた。

 致命傷になる一撃では決してなかったが存在をアピールするには十分で、単身で突っ込んで囲まれるリスクを嫌ったゴーストは一度退いて距離を空ける。


「大丈夫?」

「……感謝はするが、今は競争の相手だというのを忘れるな」

「うん。で、今のはなにをしかけようと?」


 コトハに手を貸されて起き上がったサジンは不愛想ながらも答える。


「ガブの力で攻撃を強化する”精霊強化(スピリットチャージ)”。私とゴーストとではっきりと違う強みで、確かな一撃を入れられる。……まあ、まだ発動には手間取るからさっき晒した通りだ」


 精霊を伴っていないゴーストのサジンでも覚醒している能力は把握していて、例えばレドラとゴーストとの対峙の場合では、サジンでいう”精霊”、レドラでは”剣”を持っていなかっただけで、ゴーストは実際に剣術の腕を明らかにし、威力と脅威を文字通り我がことのように知っている。

 そしてその”精霊強化”の脅威というのは、ゴーストが専守防衛のスタンスを崩してまでなんとか止めようとするほどのものだと、第三者のコトハにもはっきり示していた(ただしアルはぴんと来ていない)。


「少なくともきっかけは掴んでる、けど成功率と集中に必要な時間をしっかりとらないといけない、と」


 コトハはそれを、アルを一瞥してから尋ね、サジンが頷いたのを2人して認めた。


『了解した、コトハ。そういう時間を稼げってことな』


 アルは自然な流れで前線をサジンと入れ替わり、ゴースト陣営もそれに応じてアルが出てくる。


『さて、さっきから思ってたが……()()()()()()()()かよ……四竜征剣同士って意味で』


 改めてよく見たゴーストの姿は影が厚さを得たように全身が目以外が黒一色で表情はなく、そのおかげで先ほどのブリッツバーサーでの一閃──その際も目を引く黄金の装飾は塗りつぶされていたので、かのユンニの時のフィーネのように、またはワッドラットにあったジェネシスのアジトでのフィーネのように自由には立ち回れるのだが。


『でも完全にこっちの武装をコピーされてる。ノバスメータで刀身か柄を長くして、リーチで利を得ることもできないもんなあ……』


 四竜征剣の(エクステンド)化──ワッドラットのフィーネを撃破した方法は有効という見込みはかなり弱く、どこかのブレンがやったようなダースクウカとブリッツバーサーの二刀流も同じ闘い方をとられてこれも効果を見込めない。

 やはりアルがとるべきはサジンにどうにか決着をつけてもらうことだった。


「──っつ……!」


 瞬きの間に、ブリッツバーサー同士が交わる計三合が光速で完結した。

 認識できたのはアルとそのゴーストだけだ。


『あ、無理だやっぱ。普通にしかけて、次は(エクステンド)化。それからハカルグラムで重さを増して威力足してみても全く同じ手で相殺された』


 助けを求めてコトハを振り返る(視線はサジンを経由することになったがじとっと睨み返された)。


「どしたの」

「なにしても勝てない」

「前に聞いた、剣の能力の組み合わせのこと?」

「ああ。長くしたり重くしたりしても同じ手で返される」

「ふむ……」


 あごに手を当てて考え込むコトハだったがやがて、およそ吐息が触れ合うほどの至近距離でないと分からないほど小さく口角を上げた。


「アル君、これは伏線だよ」

「うん?」

「初めの試練を思い出して」

「知恵の試練がどうした?」

「いくつかあるペナルティでアル君が受けたのは?」

「重りつきの足枷で行動を制限……ああっ! そういうことね!」


 それまで強化ばかりに使ってきた四竜征剣の能力を、弱体化に使うという発想が生まれた瞬間だった。


「う……おおーっ!?」


 達人めいた動きの読み合いなど一切ない、互いの四竜征剣を同じ能力で相殺するアルの闘い方ではしかけた攻撃はゴーストに即座に返される。

 つまりアルとゴーストは互いに握っていたバリアー・シーが突然重くなって、釣りでもしているようにがに股で腕をぷるぷると振るわせていた。


「あああああー!」

「……」

「う、おおおーっ!」

「……」

「んん……ふおおお!」

「……」

「なんかあ? 俺だけしか喚いてなくないかな……!?」


 手にした得物がずっしりと重くなっていき、抗おうと必死な挙動はするが決して声は漏らさないでいるゴースト。

 それに対してアルは大道芸のパントマイムかのように大袈裟に騒ぐものだから、周囲からしたらそれはもうひときわ間抜けに見えていた。


「なにをやっているんだか……」

「サジン」


 呆れているサジンにじっと視線を送るコトハ。


「今のサジンとは無関係のアル君が勝手に騒いで注意を引いてるだけだから、気にしないで」

「お、おい。私はそんなこと頼んで……」

「ううん? アル君が勝手に騒いでるだけ、だよ? サジン以外にも平等な、ただの環境の変化に過ぎない」



 ◇



「なあ、だから提案してるだろ!? こっちが妙な動きしなかったら相手は止まったまま。強化変身してるとそのゴーストが来るけど、それをもう1人がなんとか防げば勝ち目は見える。どうだ?」

「変身は同時の方がアガるじゃん……」

「言ってる場合か!」


 自チームのゴーストを攻略中の”くろーばー”では、しゅがーがあびすに何度も何度も同じ説明をしているが、理解しがたい理屈を主張されて、未だに本物は通常形態のまま、強化形態となったゴーストから逃げ惑っている。

 隙を見てしゅがーが息を整えて集中──すいーと魔法少女しゅがー≪ごーるど・でこれーしょん≫への強化変身を目論むのだが、危険を察知したゴーストが阻止にかかる。


「あびす!」

「からみてぃ……ぶつぶつ、ないとめあがいいかな……いや、るいんも……」

「まだ名前決めかねてんのか!? いや今はそれどころじゃなくて……」


 1人ずつでも強化形態になってゴーストに立ち向かおうとするしゅがー、意地でも同時変身にこだわるあびすはなにもかも噛み合わず、魔法少女の活躍を見に来た観衆の間には不穏な雰囲気が漂いつつある。

 それは特に、望んで観客席に飛び込んだシオンの心を激しく揺さぶり焦燥を抱かせた。


「あびす……あの問題児めが……」

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