#174 アルとサジンの大陸祭①
「ねえアル君、次の大陸祭のことなんだけど──」
「アルさん、大陸祭のことで話したいことが──」
大陸祭──ネラガで催される大きな祭りを間近に控えたそんな頃、金髪を共通の特徴としている姉弟、オルフィアとオルキトからアルは同時に声をかけられた。
「オルキトからどうぞ?」
「……姉さんからでいいよ。ゼールヴァさんも待たせてるみたいだし」
本来なら姉の立場を利用して強引に話を進めていたであろうオルフィアだったが、今は父の部下でありその家族にも忠誠を誓うゼールヴァを側に控えていてその振る舞いは品行方正を演じていた。
後の報復を恐れていたのはわずかにあったが、それを踏まえて嫌味と反抗の意図を込めつつオルキトは順番を譲る。
そんな弟が、こういう状況では意地っ張りで頑固なことはわかっていたので無駄なやり取りは省いてオルフィアが口を開く。
「大陸祭に参加するには3人1組じゃないといけないじゃない? でも当日私達のパーティで都合がつくのは私達2人だけで、あと1人足りなくてそこでアル君にお願いしたいな、って」
「もちろん本来属している『星の冒険者』での参加予定があるなら、それを優先してくれてもいい」
「……一応オルキトの話も先に聞いておこうか」
促されオルキトも大陸祭について相談を持ちかける。
「昨日サジンさんと話して、まだ確定ではないですが『星の冒険者』内ではサジンさん、レーネさん、コトハさんの女性陣3人で出ようとしていて、アルさんが参加するかによっては改めて考えよう、ということですが参加の予定は?」
「出ない。うん、オルキトが余りもののままだな」
「ぐっ、わざわざ言葉にしないでください」
「でもちょうどいいな。これで3人」
「……」
「嫌そうな顔をするな。まったく……ねえ、お姉さん」
あと1人を捜していたオルフィアとゼールヴァ、2人探していたオルキトがちょうど巡り合ったのでアルはここぞとばかりにくっつくように後押しする。
姉弟はまるで鏡で映したように困惑した顔で見合った後、オルフィアはひねり出したように提案する。
「うーん。でも新鮮さも欲しいからなあ。ネラガとジフォンの冒険者が手を取り合う、っていうのも素敵じゃない」
「ここで無意識にネラガを先に並べちゃうところがなー」
「……ジフォンとネラガのね。素敵じゃない?」
アルの言いがかりにもオルフィアは笑顔を崩さない。
「まあとりあえずオルキト。俺は参加しないのと、お姉さんがジフォンの冒険者を捜してる、ってサジンに連絡しとけ。じゃあ俺はこれで」
「あっ、どこに行くんですか」
「ツバキのが終わったから、きんきらの世話だよ。アイツ動けないし」
◇
「アル君。少し困ったことがあって……聞いてくれませんか?」
「……大陸祭に出たいとか言うなよ?」
「えっ、どうしてわかったんです?」
アルは頭痛を覚えて、こめかみをおさえながら座り込む。
そして経緯が特殊なものだきんきらは言うのでその説明を聞くことに。
「こうして肉体がないものですから、初めは魔法少女のあの子達3人に混ぜてもらおうとして、アル君に仲介を頼もうと考えていたんです」
「ん? その気になれば遠隔で操れないか?」
「そうしたら1人の発言を潰してしまうのです。それに操れるのは変身した後に限られていてまだ集会禁止も解けていないのでそういう事情でも。あ、当日は監視の方がついたりするので構わないらしいです」
「じゃあつまり、変身前の状態で3人を集めてほしいってことか?」
自分で口にしたものの、”くま耳魔法少女ぶらうん”であるシオンが”しっこく魔法少女あびす”と”すいーと魔法少女しゅがー”の中身を知っているだけで、アルが把握している限り、シオン以外はそれぞれ他の2人の正体を知らない状態のはずだった。
そのため正体を知られたくないがために、特にシオンは顔を合わせて話し合うのを極端に避けたがるだろうと、実現は限り無く不可能だと言ったが、きんきらも事前に考えてそれには気づいてたと、特殊だと前置きした自身の扱いについて説明する。
「アル君の前に、バルオーガ君にもそのことを相談したのですが、どうやら私は肉体の有無に関わらず1人と数えられるそうで、どうしても余るらしいのです」
「ええ? そうなのか」
「そもそも大陸祭という競技は誰もが参加できるというもので、”試練”と称したチェックポイントを設けて、なにも体力のみならず頭脳を競い合ったり要素もあって、参加資格はざっくり言うと”使役した獣や精霊を除き、自律して行動する知性を備えた者”ということで、初めてのケースですが私も1人で数えられるという理屈です」
「へー……それで改めて、相談ってのは」
「もしもアル君が参加しようとしていて、枠が余ってるのならお邪魔させていただけないかと思って。どうでしょうか? バルオーガ君は運営側なので……今回私が頼れる人はアル君だけなんです」
先日に夜の劇場にて見たきんきらの弱った姿は、まだ鮮明に思い出せる胸の感触とともにアルの中に深く刻まれており、できることは尽くしてやろうと奮起させられる。
「いずれにせよ、アイツらにコンタクトを取る必要があるな。ちょうど3人いるはいるけど今までの話の流れからしてこっちからはまだ話しかけてないから、向こうが話し合ってるのか確認もしてないんだろ? 誰かが出ない可能性だって十分あるから、その確認からだな。じゃあちょっと待ってて──」
一番身近なところでシオンの元へと向かおうとして足を止めた。
というのも、そのシオンが積極的に催しに参加する姿は想像するに難く、もう少しきんきらの干渉を使って情報を探る手立てがないか提案しかけるが、気づくと何者かの小さな頭が近寄ってきていた。
「アル君、少し話があって……せんせーの呼び出しなんだけど」
「まさに渡りに船だが……」
アルが悩みかけていたところでコトハからの、せんせー(コトハが呼ぶシオンの通称)による招集とあって面倒事を直感、だが行かないわけにはいかなかった。
◇
「大陸祭に出ないか?」
「今度はシオンか……」
まだ先の苦しさを覚えている頭が痛みかけたが、どこか考え込んでいるシオンの話をひとまず聞いてみようと、もうコトハを含む3人の馴染みになっているいつもの飲食店の一室にて、事情を尋ねる。
「大陸祭は3人1組のチームで出ることになってる。そこで、しゅがーとあびすから誘われてな」
「ん、やっぱそういう話は出てたか。いやちょうど俺もきんきらから相談されて直接確認をしようとしてたところだったんだ。けど、その言い方からして、そういうことか?」
「ああ、アイツ達とは組まないつもりでいる。ということで空いた穴をアルに補ってもらおうと呼び出した」
「妙な誘い方だな。代わりに出てほしいって? シオンは参加しないのか」
「最悪、アイツ達と同じチームでなければいいから、大陸祭自体は別に今までの通り観てるだけで構わない」
「……仲悪いのか?」
利他的でなく利己的な動機とあって、アルはつい咎めるように問うた。
後ろめたい理由があったようでシオンが目を逸らして返事をしかねていると、脇にいるコトハに真相を暴露される。
「まあ成人してから高校生の間に入るのは抵抗あるもんね」
「……ちっ、言いやがったか。あー、そうだよ。別に特別に仲が悪くはないが、あの2人が仲いいみたいで疎外感ビシビシ伝わってくるんだよ」
ふてくされてシオンはテーブルに突っ伏す。
「あびすがミカってのはわかってるけど、しゅがーの中身も高校生だったのか」
「あ、前のめりで女子高校生の個人情報を聞くのはやめてね」
「前のめり以外は事実だけどさ。いやでも、ミカの時はべらべら喋ってなかった?」
「だってああしないとアル君、部外者だって騒動に無視決め込むから」
事実、アルは当時、あびすときんきらの行方を捜す計画には積極的ではなく、証言を集めたふりをいかにリアルに演じるかに注力していたので反論できなかった。
「まあいいさ。俺という物語にどうせ関わることはねーんだろうし」
「その言い回しはよくわからないからスルーして。ところでせんせー、ちなみにいくつなの?」
「『ところで』が強引過ぎる」
話を振られたシオンはしっしっと手を払う仕草でコトハを向こうに追いやる。
ついでにアルもじろりと睨まれた。
「アル君がいるから下2桁でいいよ」
「おい、3桁以上を前提として話すな」
「1桁……は?」
「譲歩してる感も出すな。19のそっちからみたらほぼ2桁目断定できてるくせに」
「1」
「……」
「2」
「……」
コトハの口からは淡々と数字が呟かれ、シオンはそのうちの1つに確かに反応した。
それに気づかなかったように装い、明後日の方向を見ていたアルにシオンの拳が飛んできた。
「ぐへ! なんで真っ先に俺!?」
「主犯はコトハだが、それに便乗して面白がってる奴の方が見ていて腹立つから」
その後コトハはというと、人生の先輩に尊敬の念を込めて、と料理を追加注文してなんとか機嫌をとっていた。
◇
「ともあれ、確かな情報を1つ得られたから状況を整理するか」
アルはメモを取り出して次々と知り合いの名前を書き出していく。
「今組んでるしゅがーとあびすの2人にきんきらを充ててチーム結成。『星の冒険者』はサジンとレーネ、コトハの3人。仕方ないからオルキトの意向は汲んでやって、1人欠けてるお姉さんとゼールヴァさんのところにはシオンを充てるか」
「おい待て。私は出ないって言ってるだろ」
しれっとチームに組まされかけたがシオンは鋭く指摘をして、気づかないふりを装い、きょとんとした表情のアルからメモを奪う。
ちなみに3人組が並ぶ中、オルキトだけが余っていた。
「なんで面識のない一般人があの2人に混じれると思ってる。めちゃくちゃ怪しまれるだろうが」
「ぶらうん状態ならよくないか?」
「いや……そうしたとしても……」
「まあお姉さんが嫌いなのはわかるけど」
「そ、そうは言ってないだろ。あくまで、かつ強いて言うなら、つい緊張するんだ」
「だいぶ遠回しな言い方だな……」
言ったら殺されるけど表向きの顔は、と自分にしか聞こえない小声で前置きしてから。
「品行方正を体現したようないい人じゃん」
「……そう。あまりにも出来すぎてて隠された一面を持ってそうなんだよなぁ。あ、今のは個人的に抱いてる印象であって、名誉とか人格を傷つける意図はないからな」
「いや……良い勘してるぞ」
世間的には錬金術師とされながら盗人という裏の顔を持つオルフィアに対し、シオンもまた、いち物書きとして生活を送りながらもくま耳魔法少女ぶらうんというもう1つの顔を持っており、似た者同士の不思議なシンパシーが存在するのかとにわかにアルは疑っていた。
ともかくシオンを人数調整のために誘おうとしたのは半ば冗談のつもりでいて、オルキトのためにチームメンバーを探してやる義理も感じていなかったため、きんきら達、サジン達、オルフィア達のチームが無事に完成したので一仕事終えて、アルがリラックスして体を伸ばすがなにやらコトハが挙手で発言の許可を求めていた。
「せんせーが出たいなら私とアル君で組めるよ。そうすれば私が抜けた所にオルキトが入れる」
「なに、サジンとレーネとオルキトのチームに、シオンとコトハに俺のチーム、ってか。ないない」
「面白くはなりそうだけど」
2人に挟まれたら面白くないだけじゃ済まない、地獄だ、というシオンの心からの嘆きの後、少しだけ談笑してから3人は解散した。
◇
「アルよ! 随分と探したぞ」
「……†シュヴァルツシルト・スパーダ† @BISS……!」
「し、しっこく魔法少女あびすだ!」
「まだしっかり決めてないのか……」
きんきらにシオンの意向を伝えようとギルドに向かう道中、魔法少女のあびすとしゅがーの2人組と出会ったアル。
無造作に投げ捨てられた人形、しかし手足だけはぴんと伸ばしたポーズのあびすから話しかけられて、そういう類のノリかとアルも乗っかった。
「あー……まだ芸名は迷走しててな。気にすんな」
「げ、芸名などではない!」
きんきらが発言の権利を奪わないよう体を乗っ取っていなかったので事情を知らなかったそんな2人のうち、しゅがーがアルに質問をする。
「聞きたいことがあってさ。私達は今さ、大陸祭のメンバー探しをしてて。ぶらうん見なかったか?」
「はー……きんきら経由だが、運営に関わってるバルオーガさんによるときんきらはメンバーとして数えていいらしい。で、きんきらはそれはもう積極的に参加したがってるから、早いうちに参加チームの登録をしとけ」
「お? そ、そうなのか。けどそうなるとぶらうんが余らないか?」
「ぶらうんはそもそも出ないってさ」
アルの言葉にきょとんとしているしゅがーの一方で、あびすはくっくっくっと笑っていた。
「先の戯れでは不覚にも虚を突かれたが、此度もそういうことなのであろう?」
「んーと、前の劇みたいにまた仕掛けを用意してる、ってことか?」
「いや全くない」
「くく、そうだな。今はそうしておこう」
どちらも程度こそ違えどサプライズの演出を期待する様子であった。
嘘はついていなかったのでアルは特に訂正もしない。
用事が済んで別れ際になると、アルは聞きたいことがあったらコトハを頼るように(面倒なことを押し付けるため)言ったが返事をしたのはしゅがーだけで、あびすは顎に手を添えて笑っていた格好のまま、薄っすら汗をにじませながら固まっている。
「ぶらうんについてはコトハしか知らないから。いちいち俺経由だと手間がかかる」
「て、手間がかかるだけで取り次いではくれるのだろう? な?」
必死に食い下がるあびすと向き合ってみると、コトハの話をしてからはずっと胸に手を添えて、表情も浮かないものだ。
「コトハと話していると……胸が苦しくなるんだ」
「……そっか。俺なりにその類の話は人並みに理解はあると思ってるけど、然るべき時はきちんと1対1で向き合う必要があるのはちゃんと理解をしておいて──」
「そ、そういうのじゃないです!」
あびすの素(ミカ)が出るほど必死に否定された。
「その、胸が苦しい、というのが循環器というより呼吸器系への影響で、ひどいと会話に支障が出るぐらいなんです。咳き込むこともあります。他にも目だってたまに痛くなったり……距離を取ってると体調は回復して」
「なんだ? まるで毒物でも撒かれてるみたいな……」
「確かにそうなんです。でも、検証してみようとも思いましたが、専用の装備がないのはお互いに同じ条件で、そうなると当の本人が真っ先に倒れてるはずなんです。そうじゃないですか?」
「あー、そっか……」
「だから……精神的なものなのかと。はあ、ただでさえ人見知りなのに……」
アルはちらりとあびすの後方にいるしゅがーと目を合わせ、気が動転して素が出ているとはいえ現在の魔法少女の姿──全身真っ黒の衣装はダメージ加工と銀の装飾が目に痛いぐらい施されている──のあびすがなにを言っても頭に入ってはこないな、という気持ちを密かに共有しておいた。
◇
一仕事終えて屋敷の自室に戻ってきたアルは、少なからず覚えていたその満足感を改めて嚙みしめた。
『お姉さんにオルキト、きんきらとシオンに、あびすとしゅがーか。全員癖がある冒険者だけに喜びにくい嫌なモテ方だよまったく。……オルキトはちょっと向こういってろ』
ぺし、と振り払う仕草をひとつ。
『これでもう誰も尋ねてきたりはしないか。あったとしてもお姉さんが脅迫にくるぐらいで、レーネともついさっき廊下で会って、チームを女子で固めたことは伝えといたし』
と、ここでむず痒い物足りなさを感じた。
『そういやサジンとはまだ話してない……』
◇
「ん、そうか。いろいろ手を回してくれたとは助かるよ」
しばらく自室で考えた結果アルは、話すきっかけとなる自然な一言が思い浮かばず、特に当たり障りのない、オルキトが大陸祭の相談をしてきた、というのを採用した。
それから確定したチームの組み合わせを伝えるとそう労われる。
「オルキトについてはまずニコルを頼ったけど、『大鷲の誇り』としてもうジルフォードにレドラさんで組んでたから、同じユンニからの出向組で参加メンバー探してるところを周るつもりだったんだ。まだ未熟だがリーダーとしてそのサポートも頑張ろうとしてたが、オルフィアさん達がいたとは盲点だった」
「……ちなみに俺を頼る予定はあったか?」
「私より先にオルキトが提案してきたから、それに賛成したという形になって……思いついたかどうかといわれるとそれ以前の話だな」
慣れていたはずだったのに、オルキトの行動に何故か軽い苛立ちを覚えたアルは舌打ちをしそうになる。
「そうそう。ガブでもいけるかだめもとで聞こうともしたな。はは」
そんな様子のアルを気にも留めず、サジンはその肩にいる精霊ガブ、光る球状のそれを指でつついてじゃれていた。
「そうそう、精霊はカウントしないんだってさ」
「そうなのか。聞いたかガブ、留守番しなくていいってさ、その日も一緒だぞー? なんだ、アルはそこまで聞いててくれたのか」
「話の流れでな。ほら、きんきらいるだろ?」
「うん」
「バルオーガさんに肉体関係の話したらしくてさ」
「……!? あ、う、うん」
『はっ!? あ、あっさり言われて聞き流してしまった……!』
「別に無くてもよかったって。だから今回はあびす、しゅがーと組んだけど──」
『どういう脈絡で『だから』になった!?』
「最初はぶらうんとも一緒にまざるつもりだったらしい。そうなってたらやばかったかもな」
「それはすごい……確かに……よ、4人か……」
「けどちょっと心配なところあるんだよなー。……ここだけの話な? あびすとしゅがーは高校生……だっていう噂で、きんきらの世代とは話題とか合うのかと──」
「問! 題! 大ありだあー!」
耳まで真っ赤にしたサジンはわなわなと震えながら、握った拳を見えないテーブルを叩くように何度も振るう。
「いったいどうしたんだ」
「どうした、じゃない……なんでバルオーガさんにそういう事情を急に話してるんだきんきらは」
「そりゃそうだろ。見ての通り自由に動かせる肉体肉体が無いんだから確かめとかないと」
「……ん?」
「あ?」
「あ、アルが言った、に、肉体関係……って、そういうニュアンスだったのか……?」
「んなっ!? あー……言い方が悪かった、けどそうは言ってもだな。そこは察してくれよ。なんでいきなり俺がそんなことを暴露する」
「……」
「……」
気まずい沈黙の時間がしばらく流れ、アルが折れて謝罪する前にサジンがびしっと言い放つ。
「私にも多少非はあったが、それでも今のはアルが意地悪だったぞ! 私の勘違いを唆すみたいな意図を含んでた!」
「いやだからごめんって……」
「むー……この際だから言っておく。だいたいアルは隠し事が多かったり、色んな事をこそこそとごまかしたりする。そういうのは直した方がいい!」
アルはサジンからずいと迫ってこられて、その鼻息の荒さまで感じるほどだ。
鋭い目つきに目を逸らしそうになるが、今までになかった距離で見たまつ毛を1本1本が、目には見えない力でも備えているように惑わせてくる。
「ちょうどいい。大陸祭は冒険者としての力を競い合うものじゃないから条件は対等だよな」
「え、なにを……」
「勝負だ! 勝負! アルも大陸祭に出ろ!」
「はあ!?」
「負けたら勝った方の言うことをなんでも言うことを聞くこと。私が勝ったら、だらしないその態度を改めてもらうからな」
「でもチームはもう……」
「私はレーネとオルキトと組む。ジフォン組の相棒としてコトハをそっちに譲る」
「体よく押しつけただけだろ! たとえそうしてもまだ1人足りない」
「たぶんアテはあるんだろう?」
そう言われると確かに、面倒事を押し付けるちょうどいい人物の顔が思い浮かぶ。
ついでにその時の会話も。
───
「せんせーが出たいなら私とアル君で組めるよ。そうすれば私が抜けた所にオルキトが入れる」
「なに、サジンとレーネとオルキトのチームに、シオンとコトハに俺のチーム、ってか。ないない」
───
「……まじ?」
「騎士に二言は無い。いいか、逃げるなよ?」
サジンが言い残したその言葉には迷った気配は無かった。
───
「面白くはなりそうだけど」
───
「全然面白くないんだが……」
時間差で効いてきたコトハの一言に突っ込みながらアルは頭を抱えてうずくまった。