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#172 後日談とものいう鉱石

「ネラガの領主との会談が終わった。今回の大規模爆発についての処分だが、容疑者のうち主犯格であるきんきらが書類上で既に死亡しているという点で先方は強く出られないでいる」

「し、死亡……喜んでいいのでしょうか」

「なあバルオーガさんよお、今『主犯格』とか言わなかったか? なんか話してる雰囲気からも複数犯による犯行みたいな扱いに聞こえる……」

「容疑者……犯行……うそ、うそ……私まだ高校生なのに……?」


 ぶらうん(現在の主人格はきんきら)としゅがー、あびすとそれぞれの魔法少女はバルオーガの報告に三者三様の反応を示した。

 特に深刻な顔だったのはまだ学生であったミカ──もとい、しっこく魔法少女あびすで、一般人には着こなせない、鎖があしらわれた黒い衣装を纏った姿は冒険者然としていたが肩を縮こまらせて組んでいた指は一向に落ち着く兆しがない。


「ただコミュニティ丸ごとレイジ・オークを完全討伐した実績を強く主張することで、なんとか理解ある判断をしてもらえるよう全力を尽くすつもりでいる。それを踏まえて君達にも努めておいてほしいことがある。今は冒険者を管理する組織であるギルドの責任者、つまり私がいるからいいがそうでない時はきんきらを顕現出来ないよう、3人以上での集会は原則禁止だ」

『反○かよ』


 そこは空気を読んで口には出さないようにしたアルだった。



 ◇



「して、次回の会合に向けてきんきらに関する詳細を明らかにしておきたいが」

「ではこの身体を一度解放しますね……んっ」


 ぶらうんの姿をしたきんきらはかくんと頭を放り出して脱力し、すぐさまその目には本来の人格が持つ生気が戻る。

 これで4人の魔法少女が全員揃ったことになるのだが、きんきらは不動の巨大な鉱石──シンジツミラーに再び宿ったため、会話による意思疎通をするためにはその依り代のどこかに手を触れていなければならず、それでは話し合いには不便だという話になる。

 ギルド内にロープを張り幕をかけて設けた一時的な談話スペースでバルオーガと同席していたのはぶらうんをはじめとした3人の魔法少女と、事件の当事者のアルとコトハの計5人。


「バルオーガさんはもちろん、ぶらうん達も除くとして、かといってニコルも……」

「絶対に嫌です!」

「まだ最後まで言い切ってねーだろ」


 魔法少女になれる適性が異様に高かったニコルだが、変身後には余剰の力が反動となって命に別状はないものの気を失ってしまっていた。

 そんな彼女を酷使できないと言いかけていたアルだが、きんきらから食い気味にそれを拒否される。


「んだよコイツ……」

「ま、また変な目でじろじろ見てくるんでしょう、アル君は」

「だから話は最後まで聞けよ。今は自由に動けるよう身軽になれればそれでいいんだろ。なら身体さえあれば誰でもいい」


 実体を持たぬきんきらは、その力を振るうためには気を失っている人間の身体が必要なのだが、あくまでそれは全開の力を発揮する場合の話で、人格を宿して最低限物理的な干渉を可能とするのみなら依り代のコンディションは一切無視してもいい仕組みだ。

 アルの主張には間違っている点はなかったのだが、それを受けたきんきらからは反応がしばらくない。


「? どうした?」

「アル君アル君」

「なんだコトハよ」

「たぶん遠回しに『重い』とか言われて機嫌悪くなってる」

「ええ……『身軽』ってそういうニュアンスで言ったわけじゃないんだけどなあ」


 同性のシンパシーか、きんきらの心中を察していたコトハから指摘され、アルは釈明を聞いてもらおうと人間にするような感じでぽんぽんと鏡面を叩く。


「どどど、どこを触ってるんですか!?」

「なにがだ!? いや普通に話を聞いてもらおうとだな……」


 言ってアルはきんきら(巨大鉱石モード)の全身を見直す。


『どこもかしくもつるつる(平らな鏡面)でなにもわからんし……』


「今……つるぺたがなにを言ってるんだ、とか思っていたでしょう……?」

「んなっ……まさかこれ、会話の仕組みって心読んでるのか!?」

「やっぱりそうだったんですね!」

「いっちょまえにカマかけてるんじゃねえよ!」


 大きくため息をついたアルはシンジツミラーから手を離し、もう相談は飛ばしてコトハの身体を使ってきんきらに顕現してもらおうと、すぐ隣にいる件の人物に頼み込む。

 結果として特に拒まれはしなかったが一点、懸念事項を伝えられる。


「そうなるときんきらと実際に顔を合わせることになる。だから、逆にアル君が体を預ければそうせずに済む……そうじゃない?」

「いやいや。まあ、理屈では間違ってはないけどな」

「あと一応これは独り言」

「ベタかよ」

「正当な理由でこの後の打ち合わせを欠席できるくらいのメリットはある」

「あー、しょうがねえなあ全く」


 上半身だけしぶしぶ、足取りは軽やかにシンジツミラーに歩み寄ると、今度はコトハの導きによって健全なところに触れた。


「それじゃアル君、例のを」


 きゃぴきゃぴとなにかのポーズをとるコトハを見てアルは、嫌な汗が頬を伝う。

 意識するとぶらうん達やバルオーガからの視線が集まっている。


「そうだ、きんきら。ニコルがやってた短縮バージョンでもいいか?」

「あれはニコルさんだから可能で、一般人では必須です」

「アル君、皆を待たせてるからなるべく早めで」


 信頼している味方に急かされて、恥は一瞬だけだと思い切って決意するアル。

 高く掲げた左手のピースを横にしながら真下に下げてウィンク、それと同時に右手と左足をそれぞれアルが考える可愛い仕草をとる。笑顔も忘れない。


「ちぇーんじっ!」

「……すみません。アルさんにはこの度、償いきれないほど多大な迷惑を被ってしまいました。これ以上、よもや身体をお借りするなど図々しい態度は許されることではありませんよね……」

「あああああ!!! おいこら! 今言うことか!? なあ、今言うことか!?」


 怒りに任せてアルはギルドのカウンターに走っていき、筆記用具をひったくってきた。

 そしてどろどろの黒いインクをたっぷりと筆につけ──。


「くくく……動けないことを恨むんだな」

「なにをするつもりですか……い、いやあ、いやあああ!!!」


 手を離していたのでその悲鳴がアルに届くことはなく、下卑た笑いとともに筆は、曇りなく光るきんきらの表面にゆっくり近付いていく。


「はいそこまで。ギルドの所有物に変なことしないの」

「……ちぇっ」


 コトハにたしなめられて踵を返すアルだったが、バルオーガの前でそんな暴挙を働くつもりはもとよりなかったので大した不満は抱かなかった。

 しかし改めて話が振り出しに戻ってしまった──かと思えばあっさり結論は出ていて、コトハが事務的に変身のポーズを済ませるととんとん拍子にきんきらが姿を現す。

 ニコルの身体を用いた時の肉体的かつエネルギー的にもオーバーフロー状態でなく、コトハよりほんの一回り小さな少女の姿での顕現で、衣装も目立つほどぶかぶかでもぴちぴちでもなく本来の姿に限りなく近いようだった。


「こ、今回だけですからね」

「ん?」

「今回は見逃しますが、次に変なところ触ったら許しませんから!」


 アルはきんきらからそう言い捨てられ、また、後ろ手にスカートの裾を抑えながら逃げられていった。

 そしてその日の間はなにをするにもずっと一定の距離を保たれたままであったのだった。

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