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#170 魔法少女係数とアレの長さ

「きんきらは既に覚醒していただと!?」

「知らなかった……のか? んー……」


 拘束から救出されたあびすが、落ち着く間も無く狼狽えている。

 聞くにきんきらは、シオンが起こしたいざこさから学んで仲間内での探り合いに下手に介入をしないようにしていたらしい。

 そもそも制御できるのが変身後の姿のみとのことで、目立つリスクも含めての判断だった。

 あびすがそうだったのでしゅがーも同じ境遇にあり、アルはまたも顔の前で手をはたいて気付けをして、バルオーガと未だきんきらに体を操られているシオンを除く関係者全員をその場に集めた。



 ◇



「──というわけで、人格と記憶を残してたきんきらが近づくレイジ・オークの気配に危機を感じて、今は肉体を欲してるらしい」

「ほお、人気の無い森の中で乱痴気騒ぎに至ろうとはこれまた」


 ぶらうんの中に潜むきんきらの気配を見据えながら不敵に口角に笑みを浮かべたニコル。

 その視線をいぶかしみながら、きんきらはこそこそとアルに囁く。


「彼女が言ったことは本当なのですか? 魔法少女の所在を広範囲で探知できる、というのは」

「ここまで辿り着けたのが何よりの証拠だと思うけど」

「……コトハさん」


 能力について初耳だったのはアルもだったので、問いに答えたのはコトハだった。


「そうですか。なぜこのような事態に……ああ、もどかしいです……」


 なにかに悩んでいるきんきらを目端に捉えながら、アルはコトハに小声で相談をする。


「今回は助かったけど、これからどうする? 反応から行動のパターン、特に学生がわかりやすいけど、魔法少女の中身がばれるのも時間の問題だぞ。バルオーガさんに話をしてさ、いっそのこと協力者に加わってもらうとかするか」

「いや、ニコルはそういう人間じゃないよ。危険視はしなくていい」

「え? ……俺とコトハの仲だけど、納得できる根拠が欲しいぞ」


 魔法少女3人の今後に関わる問題だったので、慣れない口調ながらアルはコトハに詰め寄る。


「その気になってたらこの時点でもう全部調べ尽くされてるはず。なのにそうなってないことから既にニコルの振る舞い方は決まってるよ」

「振る舞い方?」

「目いっぱい謎を愉しんでるってこと。最近あったあびすの騒動の時も、ニコルは犯人が魔法少女なのか能力での答え合わせをしなかった。全部はっきりと解明できたはずなのに」

「あー、確かに間違ってはいない主張だな」


 アルに返事を済ませると、次はコトハがきんきらに質問をした。


「ねえ、きんきら。気になってたけど、適合者ってもしかして──ニコル?」

「はい……本当にもどかしい限りですが」

「そうなんだね」

「きっとこれ以上に無い最適な人選になります。才能に加え、先ほど伺った『振る舞い方』も本当におっしゃった通りなら」


 魔法少女の秘密を暴かれることに危惧を覚えていたなら、自ら騒動に巻き込んだ責任を取って今頃はきんきらは諸々の交渉を手探りながらもしていたのだろうが、コトハには悩んでいる部分が別にあるように見えて、無意識に小さく前のめりになっている姿勢でそれは現れていた。

 利益は求めずに安全に距離を置こうとしているのではなく、リスクを抱きながらもそれを承知で何かを求めようとしている。

 その何かはどういうものかは、アルから聞いて間もない話からすぐに導かれて、適合者がニコルであるという結論に至っていた。


『アル君はアレだからなるべく危険に晒さないようにしないといけない。もちろんニコルだってそうだけど、けどそれ以上に得られるものはニコルにとってはあるはず』


 ニコルに対して後ろめたさを覚えながらも、コトハはきんきらの計画への協力を試みる。



 ◇



「ニコル、きんきらの変身者候補なんだけど、事情を聞くとニコルなら自我を残しつつ変身できるらしいんだ。それでどうかな。興味があるなら」


「もちろん断るんだが」


「……? 変わった返事だけど、『断るはずが無いんだが』、ってことでいい?」

「いや? 返事はノーで合ってる」

「えーと……ニコルって魔法少女に興味があるんだよね。差し出がましいようだけど、いい機会だと思う」

「はあ。やれやれ」


 コトハは提案に二つ返事で乗ってくるのを期待していたのだが、それに反して返ってきたのは大きなため息。

 隣にいたアルはレイジ・オークとの死闘の役目を逃れられると思っていたのだが、ニコルの雰囲気が変わったのを感じ、コトハと顔を見合わせて互いに首を傾げていると、そこへ不機嫌にニコルの人差し指が振られた。


「わかってないなあ。浅い」


 その場の全員がニコルのその言葉を理解できずにいて、それも見越していたか即座に説教じみた説明がなされる。


「確かに私はいち魔法少女ファンだけど、コトハのそれは話が違う。いい? 私は『魔法少女達の活躍』を見たいのであって、『魔法少女になる』のは私の望みじゃない」

「そ、そうなんだ……」


 静かながら確かに強くそこにあるニコルの魔法少女への熱に気圧されるコトハ。

 ニコルは今でこそ言うべき、言わなければならないと思っていたことを口にする。


「あのさぁ。わかりやすく言うと、私がきんきらになっちゃったら4人が並び立つ姿が見られないの。あんまり深く考えずにものごとを言わないようにして。これだからにわかは……」


『どうしようめんどくさい……口調からしてまだ冗談交じりで余裕があるのはわかるけど……』


 そう考えたコトハの横では同情するようにアルが首を振り、下手に刺激をしない方がいいだろうと考えを共有していた。

(余談だが、かのキヴァラル・(エックス)・オルスの部屋にてツバキが『足りないものがある』と、シンジツコンパクト盗難の容疑者から外した理由も同じ理屈から来ていたものだったが、アルがそれを知るのはしばらく後のことだった)



 ◇



 魔法少女に対するニコルのスタンスを確認できたところで、その魔法少女きんきら(体はぶらうん)、あびす、しゅがーと、協力関係とされているアル、コトハがその場で話し合いをする。


「ニコルの主張を聞いた上で改めて、みんなの判断を聞きたい。とりあえず私とあびすの考えとしては、なんとかニコルを説得するつもりでいる」

「む? いつの間に我がそう言った……?」

「あびす」

「……! そそ、そうであったな!」


 コトハが指輪をちらつかせると、あびすはしつけられたペットのようにぴしっと姿勢を正して賛成の声をあげる。

 明らかに見えぬ力が働いていたのだが、かといってそれが無くともきんきらとアル、どちらに与しても目立つ損得が発生しないあびすは特に自身の意向やそれに注ぐ熱量も無かったので、話し合いに与える影響力は大きくなかった。

 コトハは次に白い魔法少女に水を向ける。


「しゅがーはどう?」

「私かー……中立だ。と、面倒な話し合いを任せてもよかったけど、本音としてはできるならより強いきんきらを迎えたいな」

「確かに把握した。ありがとう」


 積極的な姿勢は伺えなかったが、最低限意思を示すことで話し合いに参加してくれたしゅがーに礼を言ったコトハは次の相手に視線を送る。


「アル君は?」

「聞かずともわかるだろ」

「……」

「悩むな悩むな。頑張って説得して、ニコルにきんきらになってもらうつもりだよ」

「ああ、そっちか」


 誤解が生まれないように『はい』や『いいえ』ではなく、言葉にて答えさせたコトハだったが、念のためにさらに質問を重ねる。


「大義名分の下にて魔法少女になれる、そんな千載一遇のチャンスだけど」

「いーんだよ。アルさんはこの先、女になる予定が入ってるからなー」

「まあそうだけどさ」

「……あ、いや冗談だよ? もちろん」

「楽しみにしてるから」


 自分が口にした言葉で不安に駆られているアルを手でのけながら、コトハが最後に考えを聞いたのは今現在直面している問題の中心人物、ぷらちな魔法少女きんきらだ。


「多数決の結果を突き付けるわけじゃないけどさ。アル君とニコルとで比較してみてリスクも無視できないかもしれないけど、それよりも得られるメリットがあると思う」

「確かに魔法少女係数に足の長さも彼女が勝っていますが……」

「おい待て、コイツこんな時に変なこだわりを見せてきたぞ」



 ◇



「俺の意思はより揺るがぬものになった。絶対コイツに体は渡さん」


 短い話し合いの後ニコルと合流したアルは、彼女から絶妙な距離を取って身長を比べられないようにしていた。

 アルの挙動には不審感を抱かれていたが、彼は構わず続ける。


「というわけで場を改めようぜ。いつもの店で仕切り直しだ。今度は誰かさんが焦って暴れないように多少衆人の目があるところに」

「う……」


 意趣返しはそれだけにしてアル達は市街の方へ歩を進めだす。


「ゴアアー!!!」


「……? 害獣でも寄ってきたか? 急ごうぜ」


 遠くに聞こえた獣の遠吠えにより、アルは一同へより迅速な行動を催促する。


「おーい、どうしたきんきら」


 だがきんきらだけは神妙な面持ちでうつむき、その指示に従わないでいた。

 やがて、ぶらうんの能力まじかる:さーちで何かの気配を探り始める。

 アルが張ったかもしれない、人の攻撃的な悪意というのを自然と内包している罠だけに絞って警戒したきんきらのほーりーあーむず:りあくたー、それでは探し損ねた害獣の存在を。


「……囲まれてます。しかもこの、手下の大集団で標的を消耗させるやり方は──」

「やり方は?」

「レイジ・オーク……」


 当時の脅威を体感していたきんきらのその鬼気迫る様子から、一同が緊張を共有するのにそう時間を要しなかった。

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