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#168 森の秩序と異変の察知

「セイス──」


禁術(フォビドゥン):だがー」


 退路を断たれたアルは3人の魔法少女と真っ向から対峙せざるを得ず、ブリッツバーサーを振り抜こうとするが──あびすが十字架をあちこちに乱立させてアルは腕を伸ばし切る前にごちんと肘をぶつけるに終わる。


「──ここ」


 アルには痛みに悶える暇を与えてもらえない。

 きんきらは1つの人格で3人の体を操作しているため、言葉を交わすことも目配せも無く、あらかじめ開けられていた十字架の隙間からしゅがーのナイフの柄がアルに迫る。


「んぐっ、あああ!」


 危機に瀕したアルだったがむしろ前に出ていって、得物が通り過ぎる脇の十字架に抱き着き、それを軸にして回り込んで勢いのまま駆け抜けていく。


「どうだ! 狙いすました攻撃だったらしいけど、これで逆に障害物はこっちに有利になる」


 そう喚きながらアルは十字架の林に突っ込んでいく。

 実際、得物の取り回しが利かなくなっていたしゅがーはその場に立ち尽くしている。


「それはあなたも同じです」

「げ」


 複雑に絡みあっている障害物の中で自由に動けたのは徒手空拳のぶらうんのみ。

 石をも砕く重い一撃が次々と繰り出され、アルは後ずさりしながら先ほどと同様に背中に障害物が当たったのを感じると身を翻して、さながら崖を転がり回っていく小石のように後退していく。

 しかしいずれそれも、運悪く遭遇した狭い隙間に引っかかって途切れる。


「……! う、上が空いてた! 『セイス・ブラスト』!!!」


 ダースクウカを障害の無い真上に突き上げ、暴風に乗ったアルは放物線を描いて近くの木の枝に着地した。


「便利だなこれ、真っ直ぐの進路さえあればいいんだから……」


 得物をブリッツバーサーに持ち替えたアルは、最低限きんきら達が固まっている場所から離れる方向を見据えて居合抜きの奥義を放つ。


「『セイス・フラッシュ』!!!」


 瞬きの間に2つ放たれた光の一閃は、アルの視線上にあった枝の一切を切り落として、それにより暴風を使って真っ直ぐ通り抜けていくための進路を確保した。


「これで逃げさせてもらうからな、ふっ!」


 予想していなかった逃走方法に対し、きんきらはただその過ぎていく背中を見送るしかなかった。



 ◇



『とはいえ、あの方法で逃げるには痕跡を残し過ぎる。まだ向こうの能力を完全に理解できてないし、確実に逃げ切るには』


 追手から距離を取り呼吸が落ち着いたところで、ウラの四竜征剣バリアー・シーで姿を消しながら、アルは来た道をゆっくり引き返していた。


『ああして目立ちやすい逃げ方をしたから、たぶんそっちに気が逸れてるはず。今回は姿を消すところを見せてないからまさか泥をまき散らすなんて真似もされない。んで、こうして様子を見ながら何かしかけられたらすぐに対応する。かくれんぼの要領でまさかすぐ近くにいるとは思うまい』


 そんなアルが、わかりやすく残しておいた暴風の通り道でしゃがみながら待ち伏せしていると程なくきんきらの一行が遠目に見えてきた。

 予想していた通りきんきらは捜索のための策を講じていたが、アルにはソレが何なのかが理解できていなかった。


『……? 浮遊する……姿見?』


 きんきら達に先行して浮遊しながら進む、銀色の鏡面を持つ姿見。

 主のきんきらを捜索対象まで導く能力を有しているかと考えたが、辺りを見渡すきんきらの動きと同調して右へ左へ動いており、アルとしては自動で動く盾のようなものか、という印象だった。


『近づいてきた……』


 きんきらが一歩ずつ近づいてくるにつれ、アルの心臓は鼓動が早くなる。


「……そうでした。姿を消す四竜征剣も持っていたのですね」


 その一言にアルは心臓をきゅっと締め付けられた。


『なんだ、何かドジったか? いったい何が……』


 アルは音を立てぬよう身の回りを確かめる。

 自信の体はきちんと消えており、何の変化も無い。

 一方で異常をはっきりと示していたのは浮遊していた姿見で、ぴかぴかだったその表面には人型のくすみが出来ていた。


「『ぷらちな』。その属性は曇りなき鏡面に連想される、混沌なき普遍や秩序、調和、そして正義。この森における正しい姿には人間は存在しない。不完全ながら顕現させた私の能力により、その異常を敏感に察知することができる」


『……異常呼ばわりかよ』


「『ほーりーあーむず:ばるかん』」


 くすんだ細長い板がふたたび輝きを取り戻すと筒状に変化し、そこからきんきらの足元に向けて一条の光線が突き刺さる。

 立ち込めた土煙により人の輪郭──アルの姿が何も無かった空間に浮かび上がっていく。


禁術(フォビドゥン):バイト」


 アルの姿を認めたあびすにより、アル達4人をすっぽり覆い隠すほど巨大なとらばさみの口が閉じた。


「……だめだな、こりゃ」


 ドーム状のそれにより飛行による逃走は防がれ、観念したアルは姿を露わにしてきんきらに真っ直ぐ向き合う。


「……押しても駄目。引いてみるか」



 ◇



「1つだけ聞かせてくれ」


 開き直ってあぐらをかいていたアルに、抵抗の意思が無いとみたきんきらは怪しみながらも返事をする。


「なんですか」

「適合者探しなんだが、期待している奴はいるのか」

「……交渉のつもりですか。ですが見ての通り、私は退けない。取り返しのつかないことをしました」


 きんきらは今一度自分の物ではない、ぶらうんの拳をさすって忌々しげな顔をする。


「えー、じゃあいるかいないかだけ! それだけでもいいから!」

「なんです……窮地になってむしろ盛り上がってるのですか?」

「はい、質問には答える。いるのか?」

「……秘密です」

「いるのか」


 指摘が図星だったようで、きんきらはあからさまにアルから目を逸らした。


「あ、今びびっと来た。あびすは割と最近適合したな。ということは、ぶらうんと一緒に目覚めてからそれまで、ネラガにはしゅがーしか適合者がいなかったのは確か。んで、最近あった大きな変化と言われると覚えがある。何より俺がその当事者」


 なおもきんきらは目を逸らし続けているので表情はわからないが、その態度は逆にわかりやすかった。


「ユンニから来た誰かにいるんだな?」



 ◇



「どこ行ったんだろ、2人とも」


 今後のきんきらの調査について話し合おうと、バルオーガの屋敷にギルドにシオンの自宅と歩き回っていったが、コトハは目当ての人物、アルにシオンの姿を見つけられないでいた。


「別に2人ともいい大人だからいいけど、2人とも見当たらないのは何か嫌な予感がする」


 次はミカが通っている学校の様子でも見に行こうと、道路の角を曲がりかけたところで人とぶつかった。


「ぎゃふっ。あー、ごめんなさい……」

「ああ、こちらこそ……って、ニコルか」

「あら。コトハじゃん」


 ぶつかった相手が互いに顔見知りだとわかると、長身のニコルとの体格差で一方的にしりもちをついていたコトハに手を差し伸べられ、コトハも素直にそれに従って立ち上がる。


「そうだ、アル君見なかった?」


 あくまで一般人という認識であるシオンのことは除いて、コトハは質問した。


「いやー、見なかったなー」

「そっか。……ねえ、気になったけど何か急ぎの用事あるの?」


 返事をする間もその場で駆け足をしていたニコルの様子を不思議に感じたコトハ。

 思えば、ついさっきぶつかった時にも駆け足だった。


「うーん。ちょっとね」

「深刻な事態なら手を貸すけど」

「確かに深刻……かも。ちょっとここから遠いんだけどね」

「うん」

「魔法少女が3人集まってるのを感じてて……一体何事かと確かめに行くところ」

「……うん? えーと、感知の能力持ってたの?」

「ああ、ぶらうんに会ってそんなに経たないうちに、面白そうだったから感知能力を覚醒させてたんだ。変身してる魔法少女限定のね。普段からふわふわと感じ取れてるけど、今日は密集してるのが怪しくてたまらず体が動いたの」


 発火能力を筆頭に、高い集中力により引き出される人間が誰しも備えている、ありとあらゆる潜在能力。

 ニコルが謎のそれに覚醒していたのも気になったコトハだが、知己が関わっている事情と知り無視できない違和感が湧いてきて、コトハはいてもたってもいられなかった。


「ついてくよ、ニコル」

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