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絶望の大鬼─デスパレート・オーガ─

ナンバリング無し

表とは、裏側にとっての裏である


似たように──


終わりとは別の何かの始まりになる



真逆の事象というのは実は最も近いというのは真理だと思う。

最初の表と裏のくだりは『表裏一体』という言葉もあるし。


だから命を救う優しさは、命を殺める残酷さと紙一重

優しき者というのが実はとてつもない邪悪という本質を秘めていると言える



飢える者にはパンを与えてやる


凍える者には毛布を与えてやる


病める者には治療を施してやる


迷える者には正しい道を指し示してやる


力無き者には荷物を運ぶ手を貸してやる



それらの行為は弱者の『弱さ』を理解している優しき者だからこそできるのだ。

例えばをこん棒を振るって暴れ回るだけのあの害獣『絶望の大鬼(デスパレート・オーガ)』にはできない。


また(デスパレート)(オーガ)にはそれ以外にできないこともある。



飢える者には食えぬ毛布を押し付けてやる


凍える者にはさらに水を浴びせてやる


病める者には間違った治療を施してやる


迷える者には誤った道を指し示してやる


力無き者には運ぼうとする荷物重く引っ張ってやる



どれも弱者を弱者と等しくみなし暴れ回る(デスパレート)(オーガ)にはできない。


『弱さ』という急所、極端なものならば針で刺しただけで即死するようなものまである、それらを理解している残酷な優しき者にしかできない。



見境無く何もかも平等に破壊するこん棒よりも

一刺しだけの最小限の傷で命を取ってしまう優しき者が持つ針が

世で最も残酷な凶器なのだ




ところで『表裏一体』だが、『冒険者のまじない』にも同じ理屈が通用したようだ。


彼女はそれを


対象が自身であったとしても殺意を持って扱った


そしてそれに対し


瀕死状態まで命を脅かされ極限の中で打ち克つ術を見い出した



『毒物』への適性を、文字通り表と裏


攻撃手段とするものと耐性としてのもの


2つの面にて同時に持つ少女を私は知っている。



それらの適性により


息を吐くかのように体内で毒物を精製、それを風に乗せて対象を昏睡寸前まで追いやったり


かつ


専用の装備が無くともあらゆる猛毒にも顔色一つ変えずにいられる



そんな芸当ができる冒険者が世に存在して──




「あっ!」


 執筆途中だった原稿を取り上げられたシオンがその手の主を反射的に見上げる。

 コトハだ。

 原稿片手に半目を作って、見るからに呆れていた。


「たまにまだマシなのを書いてると思ったら……」

「『たまにまだマシ』……? ど、どういうことだ」

「気にしないで。問題なのは別」


 コトハはシオンに、問題だという箇所を指差して示す。


「あんまり私のことを晒さないでほしい。あびすを捕らえるのは成功したけど、私の能力が不明だったのが一番大きかった。もしも知られてたなら余裕こいて居座るなんて真似せずにさっさと退散されてたんだから」

「……それもそうだが、こっちにだって言い分はある。あの時は無理やりマスクを被せてきたけど、アレをしてなかったら私は今頃どうなってたんだよ」

「その辺りのことなら、ちゃんと危険性の低いものを選んでたから平気。まだ私からの言いたいことは終わってない。前回のだけど」


 がさがさと鞄から出したのは別の原稿。


「私はちゃんと読んでるから気づいたけど──」


 >>>


 ある日を境に群れでの目撃が無くなったが、それでもはぐれたらしい個体は確認されていて、おそらくこれもそのうちの1体らしい。しかし私はあくまで一般人の同行者だから戦闘はできないし、先に書いた通り薬師だから女も同様。

 極めて危険な状態になったが、獣人の次は黄金に光る剣を手にした、通りすがりの冒険者が飛び出してきてそれを討ってくれた。

 難を逃れた私達は、何故か急にふてくされた男とともに帰ることとなった。


<<<


「私の前のやつか」

「この場面は、『私とせんせーとアル君が獣人に襲われたけど、アル君が黄金に光る剣、ブリッツバーサーで撃退した』の、アル君の部分について架空の冒険者を新たに登場させることにしたよね」

「ああ」

「けど『私とせんせーが逃げてて、光の剣士がそこに現れて獣人を撃退』まではいい。けどその間のアル君の行動が不明になってる。人によっては『光の剣士=アル君』という解釈が出てもおかしくない」

「……なんかアルがしれっと合流してるな」

「気づいてなかったんだ……」



 ◇



「とにかく、私とアル君のことはもう少しぼかして書くように。個人情報、大切。せんせーならよくわかると思う」

「そうだな……って、それを言うならミカのことは。あびすの中身だったとしても、アルにはあそこまで明かす必要無かっただろ」

「アル君を共犯にして、退くに引けなくさせるために必要だった。仕方が無かった」

「おいおい……」


『常識外の適性2つ持ちに、使えるものはとことん使う容赦無さ……末恐ろしい奴だ』


「だから、私にできないことはせんせーやアル君に頼らせてもらうからね。あびすを魔法少女のそれと見破ったのは他でもないせんせーだし、利き腕が反転する仕組みを見抜いたきっかけはアル君。それに私が闘うには誰かを巻き込まないようにしないといけない。せんせーやアル君みたいには強くないから」

「コトハ……ふっ、なんだよ寂しいのか?」

「別に……そんなんじゃない」

「いや? なんか真面目な話になってるからか、いつもの調子が崩れてるんだが」

「私だって真面目な時は真面目だから」

「大丈夫、約束は守るよ。言っただろ、とことん付き合ってやるって」


 他人に知られてはならない力という、互いの秘密を明かし合って、無言のうちに信頼を深めていた2人であった。

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