#159の後日談
破滅の書の調査クエストの後日、ゼールヴァがアルとの約束通り、屋敷の裏庭で燻製機の細部の調整をしていた時のこと。
「こんにちは、ゼールヴァさん。これって『収納』を付与したものですよね? どうしたんです?」
そこに居合わせたオルキトは、簡単には持ち運べないであろうその燻製機が、付与魔法つきの携帯性があるのだとすぐに察した。
「ああ、はい。……オルフィア様に作っていただききました」
「……姉さんが?」
ゼールヴァは燻製機を受け取った際、アルからクエストに同行したことを隠すように言われていて、やや言い淀みながらもそれを守った。
しかしオルキトはオルキトで、なんのきっかけも無くオルフィアが贈り物をするということを疑っていた。
『確かに、ゼールヴァさんにはいつもお世話になってるだろうけど……ん? なんだろこれ』
オルキトがそれとなくおかしな部分が無いかとちらちらと見ていると、まさしくとってつけたような木の板から覗く、『アリュウル・クローズ』の名前入りプレートがすぐに目に入った。
『どういうこと……?』
オルフィアからゼールヴァへの贈り物のはずが、ふいに出てきたアルの名前。
オルキトは瞬時に思考を巡らせ、その燻製機の価値を下げる犯行の背景に何があったかを、動機にフォーカスして推理した。
『これはもともとアルさんへ贈るものだった……まあもちろんタダでと言うわけではなく、かと言って姉さんといえど、さすがに一線はわきまえてるし虫とかごみは入れずに、品質はそのままに換金できないようにした。そして……』
確証は無いがだいたいの経緯を推理したオルキトは、アルとゼールヴァの接点がどう生まれたか洗い出そうとする。
「アルさんとのクエストはどうでしたか?」
「クエスト? いえ、特にアルとはなにも──」
「あ、そうなんですか。てっきりアルさんのクエストに同行したとかのお礼かな、って思ったんですけど。──へえ、アル、ですか」
ゼールヴァが『アリュウル・クローズ』をそう呼んでいることから、少なくとも1度は会話を交わしたのだとオルキトは判断。
『ゼールヴァさんは役割だけで冒険者を評価しない。主にクエストを通じてだ……そしてあのアルさんが動くほどというと、どうせ飛空艇を出すのをちらつかされて、それに食いついたというところでしょう。けど姉さんはどうせ元から反故にするつもりで、一応ゼールヴァさんという証人を立てて現実味を帯びさせておいた。まあ自分に忠実なのをいいことに、『善処したけど都合がつかなかった』とかの多少苦しい言い訳でも納得させられるし』
結局アルを問い詰めること無く、ほとんどの事情を推理してしまったオルキトだった。