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#159 クエスト完了、お約束の展開

「目当ての遺跡はここだな」


 ゼールヴァが指し示したのは、岩壁に四角く掘られた横穴。

 人が余裕で通れる大きさであり、アルを覗いてみると先が見えぬほど長く続いていた。


「今まで通りに私が前衛を務めるが、いいか?」

「ぜひ任せます」


 アルはゼールヴァの申し出を、喜んで受け入れた。

 超越種(エクシード)という役割(ロール)の、その活躍を目の当たりにしていたために信頼はとても厚かったのだ。

『プラズマ』の能力で帯電させた腕により、明かりを確保したゼールヴァが一番に遺跡へ入り、アル、ぶらうんの順で隊列を組んで進行を始めた。

 しばらくの時間が過ぎていく中、静かな遺跡内でアルは、自分とは歩調が違う足音の存在というのを耳で感じていた。


『でもなんか変だな……?』


 ふと違和感を抱いたアル。

 少しだけ警戒をしたが遅かった。


「あああああ!」


 アルの叫び声が落とし穴に吸い込まれていく。


「アル! 大丈夫か」


 間一髪のところで、ゼールヴァのテレキネシスでアルは救出された。


「落とし穴か……浮いて移動していたから気づかなかった」

「でしょうね。なんか足音が足りないなー、って思ってましたもん……」


 本来のアルなら質問の一つでもしていたのだが、危機に瀕した今はそんな余裕は無かった。

 手足を床について四つん這いのまま、進行方法の変更を提案する。


 ◇


「浮くのは無しで行きましょう」


 加えてアルは、しれっとぶらうんの後ろに回った。

 遺跡には改めて、3人の足跡が響く。

 だがしばらくすると、うち1人のものが悲鳴に変わった。


「あああああ!」


 悲鳴の主はアルで、再びゼールヴァに救出される。


「なんで2人も通過したのに……」

「そういえば聞いたことがある。侵入者を警戒されずに排除できるよう、先導して案内をするふりをして、特定の通過人数で作動する罠があるのだとか」

「それ……早く言っててほしかったです」


 ◇


 アルは2度目の作戦変更を提案。


「えーと、私が前なの?」

「全員浮いてるから安全だよ。ほら」


 ぶらうん、アル、ゼールヴァの順で、全員が浮遊状態にて進行を再開する。


『ん……浮遊なんてもちろん初めてだけど、水中にいるみたいだな』


 ゼールヴァの加減により移動は自動でなされており、アルは足下の不思議な感覚に気を取られ、頭上の注意がおろそかになっていた。


「いててて! お、下ろして下ろして!」


 ざりざりと頭頂部を擦ったアルは、ゼールヴァによって慎重に浮遊を解かれると、頭を抱えて呻きながら床にうずくまる。


「ああ、私の背丈だと問題無かったんだね」


 ぺたぺたと自分の頭頂部を撫でているぶらうんに、アルは冗談交じりで文句を言う。


「あらかじめ背伸びしといてくれよー、もう」

「いや、関係無いってば。ほら」


 浮遊したままのぶらうんがつま先を伸ばしてみても、数回床をこするだけだった。


『ガチッ』


 そしてぶらうんが床を数回刺激したことがきっかけで、一歩後ろを歩いていたアルの足元の落とし穴が作動。


「なんで俺がぁっ!」


 アルの声が闇の中に消えていく。


 ◇


 アルは三度(みたび)ゼールヴァに救出され、そしてまた作戦も3度目のものを提案する。


「……これは?」


 隊列の一番前に戻ったゼールヴァは、うつ伏せになって低空で浮いたアルに作戦の意味を尋ねる。

(ぶらうんはアルがうつ伏せになった時点で手を後ろに組んで隊列の最後に下がっていた)


「これまで、落とし穴は何人目とかで作動するとかのタイミングや、感知箇所と穴が開く箇所が違ったりしてましたが、いずれも何かの刺激で作動するのは共通していました。だから浮いて移動すれば安全なんです」

「ふむ。それで、その姿勢は?」

「天井に頭を擦る危険を失くせます」


 ゼールヴァ、うつ伏せのアル、ぶらうんの隊列は遺跡の進行を再開する。


「……よし、曲がるぞ」

「ちょ、ちょっと待って……」


 曲がり角で前方の死角だけ確認をしたゼールヴァ。

 後方のアルには注意を払わなかった。


「いでででで! うまく切り返して!」


 狭い曲がり角でめりめりと背中を反らされてアルは悲鳴をあげた。


「ソファじゃないんだから自分で調整しなよ」

「くっ、次だ次。これまでの経験を活かして、今度こそ安全な作戦を出してやる」


 アルのその言葉は1度のみならず、その後も何度か繰り返され、そしてついに破滅の書が置かれていた場に辿り着いた時には、アルだけがぼろぼろの誇り塗れになっていた。


 ◇


「ただいま戻りました。オルフィア様」

「お疲れ様、ゼールヴァ。それに……」


 昼過ぎの中庭で、タンスのようなものの手入れをしていたオルフィアは、クエストから帰ってきたゼールヴァに挨拶を返して、それからひとりボロボロだったアルを一瞬だけ気にして、それから素早くタンスに何かを金槌で打ち付けた。


「なにしてる!? 両手を頭の後ろに! そこのお姉さん、両手を頭の後ろに!」


 アルの警告も虚しく、その作業をしっかりと終えてからオルフィアはぱっと手を挙げた。


「2人とも早かったわね。誰か手を貸してくれたの?」

「一応アルがぶらうんを呼んではいましたが……」

「あら。意外な人脈ね。けど1人くらいじゃあ」

「はい。破滅の書の調査は、他に混じっている別の書物との仕分けに時間をとられるのがネックなのですが……」


 ゼールヴァはそれだけ説明して、今回のクエストに大きく貢献した人間だったアルに話を振った。


「俺の本来の職業柄、大量の郵便物を繰っていくための紙の取り扱いと、見とれるほど達筆なものから糸くずかと思うものであるような、文字の読み取りには長けてましたから」

「……だそうです」

「道中はやや足を引っ張りましたけど、仕分けに関しては俺が全てやりました。いやー、貢献した貢献した」


 アルは肩をぐるぐると回して貢献度をアピール。

 紛れもない事実だったので、ゼールヴァは黙って頷きながらオルフィアを見るだけだった。


「それじゃあゼールヴァさん。改めて俺の評価をお姉さんに報告してやってください」

「あ、ああ」


 アルが一歩退いてオルフィアへの進路を作ると、ゼールヴァはそれを歩んでいく。


「オルフィア様。今回は私のわがままを聞き入れていただきありがとうございました。もちろんアルも、協力を感謝する」


 オルフィアとアルに頭を下げたゼールヴァは続ける。


「『何でも屋』であるため、戦闘能力や危機管理能力についての評価は控えますが、アルは先に述べたような独自の能力を有していたり、そうでなくとも遺跡の罠の対策についてもめげずに試行錯誤していました」

「……罠については何より自分のためだったけど」

「? とりあえず私としては、クエストを通じた結果、決して悪い印象は無かったです。()()はぜひアルに引き取って欲しいと考えています」


 ゼールヴァの報告を受けたオルフィアは『そっか』とだけ短く返事をした。


「でもごめんなさい。流石に飛空艇は簡単には飛ばせなかった」

「はい知ってましたー」

「……だから『収納(ストレージ)』のアイテムとして自信作をきちんと用意したの」


 アルの挑発が効いていたオルフィアだったが、なんとかタンスを強めに指で叩くに抑える。


「まさかこれを持ち運ぶんですか?」

「うーん。『収納』の付与(エンチャント)をどこかで見ているみたいな口ぶりだけど、まず収納するための空間を整備することから始めるの。どこかの虚空にほいほい入れられるわけじゃあない」

「ふむふむ。そうなると、これがその空間と」


『触ってみても大丈夫』と言われたが、オルフィアの妙な笑顔を見てアルはさすがに警戒した。


「……ゼールヴァさん。アレ使って遠隔で開けてくれません?」

「テレキネシスか? そこまでしなくても普通に開ければいいんだろう。なんなら私がやるぞ」

「いや、それでゼールヴァさんが被害を被ったら俺も責任感じるんで」

「被害!? お、オルフィア様をどういう目で見ているんだ」


 それからやや揉めたりして、軽く能力を見直すという(てい)でタンスの扉を開けてもらった。

 特に妙な仕掛けが無かったのでアルは恐る恐る近づくと、違和感に気づいた。

 しかめ面をしながら、鼻をすんすんと鳴らす。


()()()()()()……」

「え? アル君……」

「『え?』じゃないですよ。なんですかこれ」

「これは『収納』に加えて、付与による火を使わない燻製機能も付けておいたの。しまっておいたものが自動的に調理されるんだ。もう試しの運転はしておいたから」

「こっちの注文と違うんで作り直してください」


 しつこく付きまとうにおいを顔の前で手を払いながら、アルは作り直しを要求した。


「でもこの機能をつけたから価値は上がってるけどなあ。ねえ、ゼールヴァ」

「は、はい。まさか売るつもりは無いですが……用途が限られる、逆に言えば特化したことで値が張る品のはずですよ」

「アル君が望むなら普通のものを作り直そうか。……ん?」


 それとなく換金性の高さをちらつかされ、不便であっても自分にとって無用の長物であり使う予定が無ければ問題無いことにアルは気がついた。


「せっかく作ってもらったので、いただこうかなー」

「でも……本当にこれでいいの?」

「ええ。構いませんよ」

「本当にね?」

「……いや、やっぱり……」


 しつこく了承を求めてくるオルフィアを疑ったが、すでに遅かった。


「ゼールヴァもきちんと聞いてたわね。じゃあこれで無事解決。ああ、プレートもサービスだから気にしないで」

「プレート? なんのこと……」

「お疲れ様っ、2人とも」


 オルフィアはアルの質問を振り切って、逃げるように去っていった。


『タダでもらうもの……それもお姉さんが関わってるとなると何かを疑うべきだよな。中はにおうだけで異常は無い……まあさすがに一線はわきまえてると信じて、虫とかごみは入れてはないか』


 言い残していったプレートという言葉が引っかかり、何か聞き逃したことが無いかとアルはしばらく記憶を辿ると、帰ってすぐの時にしていた謎の作業を思い出した。

 オルフィアはその時、何かを金槌で打ち付けていたのだ。

 アルは慌ててタンスの背面を確認すると──。


「やりやがったあの人!」


 『アリュウル・クローズ』と彫られた、無駄に装飾が凝った銀色の板がいくつもの鋲でしっかりと留められていたのだ。


「こんなもん壊さず外せるかっての……はあ、売るにも売れねえ……あーもう! もうもう!」


 うずくまり頭を抱えてひとしきり嘆いたアルは、顔を上げたところでゼールヴァと目が合った。


「……いります?」

「へ? い、いいのか?」

「使う場所をここだけに限ってくれるならですけど。今回のクエスト、実質の貢献度だとゼールヴァさんに頼っててて、それなのに報酬をほとんどもらっちゃってるんで。そうだ。ネラガにいる間、それで作った燻製を食べさせてくださいよ」


 クエストを通じて報酬を得て、不要だった『収納』のアイテムも利用してゼールヴァの理解を得たアルであった。

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