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#158 武器の性能と潜在能力の覚醒

 『破滅の書』の調査を目的とした即席パーティは、先頭をゼールヴァ、その後ろをアルとぶらうんがついていく形となった。

 オルフィアは、クエストへの貢献の程度の判断をゼールヴァに任せており、いざ目的地に到着するまでの道中もその目は光っているだろうとアルは意識していたが、ひとまずはぶらうんと談笑をしていた。


「最近サジンからさ。人間の潜在能力と集中での覚醒について聞いたんだけど」

「ああ……アル()だからしかたないか」


 アルは押しつけられた四竜征剣が根本的なきっかけで、シオンは恐らくだがなんの因果も無く、ただし一方的に選ばれたシンジツコンパクトにより、迷う間もなく冒険者となる運命を強いられるという境遇を共に経験している。

 そのため、アルの言葉に特別驚くことは無かった。


「その時サジンには聞けなかったんだけどさ。まず発火能力についてを例に出すと」


 アルは買ったばかりで新品のタイニィ・ライトを手に取る。


「能力『発火』を、アイテム『タイニィ・ライト』のサポートを受けて発動してるじゃん」

「うん。仕組みからして間違ってないよ」

「俺の場合だと、『奥義』を、『ブツ』のサポートで発動してることになるのかな、って判断しかねてたんだ。というのも、その理屈だと万人が──四竜(よんりゅう)の剣士になるポテンシャルを持ってることになる」

「あー……そっちの『リュウ』かな?」


 四竜(よんりゅう)という、コトハ独特の言い回しの引用にてぶらうんへ四竜征剣のことを伝えながらアルは、本当に疑問に思っていることをまとめる。


「端的に言うと、奥義はブツ独特のものじゃなくて、サジンに見せてもらった『シールド:スクエア』みたいに、それほど汎用的じゃあないけど、突き詰めれば剣士としての能力の1つに過ぎないという推理が俺の中で生まれたんだ。となると、ブツは能力を覚醒させるために異常なほど適したアイテムに過ぎないんだよな、って」

「違うよ? たぶん」

「え」

「潜在能力と武器そのものの性能は違うから」


 それまでサジンだけだった、アルへ冒険者の指南をする講師に新たにぶらうんが加わった。

 早速講習が始まる。


「アルの主張を正しく直すと、『武器そのものの性能を引き出す潜在能力』を覚醒させて『奥義』を発動してるんだ。それは『武器の取り扱い』とは違う。たとえ『馬術』で()()()()く……上手に乗りこなせたとして」

「はい? 馬をなんだって?」

「もう。今のは気にしない。それで、駆けたり跳んでみせるなんてことができたとしても、ウマ本来の運動能力自体は乗り手では変わらないっていうこと」

「……『冒険者のまじない』も多少関係してる?」

「あ、それは知ってるの? そうだね、対象の武器への直感的な理解力の他にも、武器の性能を引き出す能力にもプラスの補正がかかる」

「武器の性能ねえ。俺とー、ぶらうんのソレぐらいで、正直限定的なアドバンテージなんだな」


 四竜征剣やシンジツコンパクトといった、希少なアイテムがあっての潜在能力なのだと思い込んでいるアルだったが、ぶらうんの指摘が入る。


魔法剣士(パラディン)魔装剣(まそうけん)もそうだよ? ほら、ジルフォードの」

「誰だっけ?」

大鷲の誇り(ガルーダ・プライド)の……」

「ああ、あの彼か」

「……アルってば性格悪いなぁ」

「うん? なにも言ってないけど、何か心当たりでも?」


 ジルフォードの特徴を表す一言を引き出させようとするアルの企みには、ぶらうんはのせられなかった。

 やがてネラガの街並みもすっかり遠くなり、順調にクエストを進められていた、ある時にソレは起きた。

 木の茂みから音がしたかと思うと、間も無く獣の影が飛び出してくる。


「! 来たか、害獣……」


 アルは駆け足で前衛のゼールヴァと肩を並べ、バリアー・シーを抜く。

 それはオモテの一式ほどの知名度が無く、何より壊れる心配が無かったために簡単な戦闘には最適な得物だった。


 『わずかな可能性だけど、一応はできる限り努力を尽くさないとな。そうでなくとも突っ立ってるだけも居心地が悪い』


 得物を握ってから一呼吸、アルは改めて目の前の害獣の姿を観察する。

 ぱっと見はヒトほどの大型のオオカミだったが、肩の部分に特徴的な、ドアノブのようなこぶがついていた。

 その害獣の名はゼールヴァにより明らかにされる。


「ツチオオカミだな」

「……なんか聞き覚えが」


 アルの記憶は確かで、ユンニにて討伐のクエストを受けてはいたが、ジェネシスによる影響で苦労をして、結局アルは名前だけでその姿を見たことが無かったのだ。


「肩に(つち)状の部位を持つからツチオオカミだ」

「そっちの『ツチ』!? 完全に土塗れのきったないオオカミを想像してたんだけど……」


 状況が状況だったので、アルは驚愕はほどほどに抑える。


「……あれ、ゼールヴァさん、武器は?」

「無いが」

「……え?」


『ガオウ!』


「ええい、とにかくやけだ!」


 雄叫びと同時に、こぶを使って突進してくるツチオオカミを、なんとか防御するアル。

 そしてツチオオカミは次の突進に備えてか、一定の距離を取った。


「アル、大丈夫?」

「そう見えるかよ……なんとかこっちで引きつけるから、隙を見て処理を頼む」


 アルは今実行できる最善の策として、自ら囮を買って出た。

 そして、オモテの四竜征剣を抜けない事情を分かっていたぶらうんと目で合図をし合う。


『ガルル!』


「って、しまった! ゼールヴァさんが……」

「ふっ!」


 ツチオオカミは次にゼールヴァに狙いを定め、凶悪な突進を繰り出す。

 ゼールヴァは高く跳躍してそれを回避──そのまま空中にて静止した。


「う、浮いてる……?」


 眼前で起きている超常現象がなにか、アルには全く見当がつかなかった。

 そんな困っている様子はきっと誰でも見抜くことができて、ぶらうんが見かねて説明をする。


「ゼールヴァさんの役割(ロール)は『超越種(エクシード)』。浮遊能力のテレキネシスを含む3つの潜在能力をアイテム無しで覚醒させられる冒険者だよ」

「だから素手なのか……ん?」


 指を鳴らす音が2度聞こえ、アルはその方向にいるゼールヴァへと視線を戻した。


「『ヒプノシス:パラライズ』」


『ギャウッ!?』


 ツチオオカミのそばにゼールヴァが下降したのだが、ツチオオカミは暴れることなくその場に立ち尽くしていたままでいる。

 不思議に思ったアルがよく見るとその体は小刻みに震えていて、特に尻尾はちぎれそうなほど引っ張られているかのように、ぴんと立たせていた。


「催眠術は一時的に過ぎない。先を急ごう」

「うん。じゃあ行こうか、アル。……アル?」


 反応が無く、ぶらうんが振り返って様子を見ると、アルは腕を組んで渋い顔をしていた。


「……今後の扱いに困るなあ」

「扱いってなにさ」

「いや、なんかもう別次元の人みたいで、つい最近聞いたばっかなのに潜在能力の、ポテンシャルに対する感覚壊れちゃう……」

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