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#153 獣(けだもの)と正体明確の木箱

 ギルドマスターであるバルオーガなので集合場所はギルドかとアルは思っていたが、部下によるとツバキにとって都合のいいためか密室となる、訓練場を併設した武器庫であった。

 初めてツバキと会話をして剣を交え合った、アルにとっては因縁の場所だ。


「バルオーガさん、気をつけた方がいいですよ。普通の人はイヌのツバキを業務で呼ぶのはおかしいみたいです」


 既に人払いを済ませて、手持ちぶさたで壁の武器を眺めていたバルオーガは、アルの指摘に対して哀愁漂うため息をついた。


「……そうか。すっかり失念していた」

「で、なんの用事よ」

「うむ、これだ」


 バルオーガは足下にあった、人が手を広げたぐらいの長さで、高さ奥行きはアルが片脇に抱えられるくらいの全周をした木箱を指し示す。

 そして不気味なことにかちかちになった樹脂らしきもので目張りをされていて、そのためツバキはそれを見て匂いをかぐことを早々に諦めていた。


「これは?」

「ツバキ宛てに届いた荷物だ。差出人は不明」

「……こういうことは今までにありましたか?」

「いや、無かった」

「これが初めて!?」

「『10回以上』だった時の反応はやめなさい」

「驚くのもわかるが……」

「おいバルオーガ」


 アルに便乗したバルオーガを睨むツバキ。


「いや、正確には私を介してツバキへの贈り物は、ギルドマスターとしての付き合いがあったために頻繁にあった。ツバキの正体はともかく存在自体は広く知れ渡っていたからな」

「あんなイヌの餌はイヌしか食べないわよ。玩具もね」


 一応、無駄にするわけにもいかないので、その度にギルドの調教師(テイマー)に援助として配っているという事情だったが、早々に切り上げて元の話を続ける。


「ただでさえ目張りされた木箱と言うだけでも怪しいが、差出人不明で、なおかつ宛先がツバキという点から下手に対応をしては危険だと踏んだ」

「病気の類か爆発物か、なにかの兵器じゃないかって?」


 無言で頷くバルオーガの深刻な顔に、思わず背筋が伸びるアル。


「これから専門家に処理を任せるのだが、まずその前に2人に心当たりが無いか聞いておきたい。この──ワッドラットでジェネシスの拠点を攻略したタイミングに届いた不審物について」

「無いわ」


 食い気味に答えたツバキ。


「……アル君はどうだ?」

「──ツバキさんに同じです」


 アルはまぶたを閉じて深く頷き、バルオーガを見ないようにしていた。


「なんにせよ、私に届いたのだから私が好きにしていいんでしょ? 安全に扱えば」

「あ、なるほど。分身を使えば安全ってことかぁ」

「手伝いなさい、アル」

「えー……」


 ツバキはアルに向けて、前足をあげて手招きする仕草をする。


「このお手々(てて)じゃ火を扱えないのよ」

「うわ可愛くない」

「牙なら今すぐ役に立ちそう」


 脅されたアルはすがる思いで視線を送り、バルオーガに助けを求める。


「いや待ってくれ。火を使うつもりか」

「病原菌の類や爆発物かのどちらにしても手っ取り早く処理できるじゃない。アルが安全な場所に移してやるから平気よ」

「しかし……」


 予想できない被害を恐れて慎重なままでいるバルオーガに、ツバキはしびれを切らして一刀両断の神器を抜いた。


「この場ですぐに開けてやってもいいのよ?」

「ま、待てーい!」


 ツバキの前に飛び出して立ち塞ぐアル。

 その顔にはバルオーガよりも深刻な焦りが滲んでいる。


「バルオーガさん、どこでなら処理をしていいですか? 無知な俺が手を貸しますが、聞いての通り危険な場合は分身を使うので絶対安全です。任せてください」


 バルオーガから私有地の山へ向かうように指示されたアルは、不気味な木箱を軽く担ぎ上げ(ハカルグラムで綿のように軽くしたためで、ついでに言えば元の重量を知りたくないがためでもあった)、瞬間移動を連発して先へ先へと進むツバキを見失わないよう、全力疾走をした。

 ものの数分とせず目的の荒れた岩場に着くと、担いできた木箱を下ろしてそれに腰掛けた。


「……中身はなんだ?」


 ツバキがワッドラットを去ったタイミングを狙い、バルオーガとはっきりと分けて宛先とする差出人は何者なのか、アルは既に予想がついていた。

 気になっていたのは贈り物の中身だ。


「燃やそうとしてる時点でだいたいわかってるでしょう?」

「エーテレールって可燃性だったか?」

「知らない」

「これだから(けだもの)は……」

「ああ?」

「あ、違います。『気高(けだか)きもの』って言いました」


 アルは調子よく「高貴な方は知らなくてもいい知識ですよね」と取り繕う。

 ツバキは「アルの場合は無知と言うのよ」と返す。


「いずれにせよ()()()()ではないわ。私がそうであるように、まだ確実に信頼していない相手に貴重な検体を渡しはしない。だから燃料のエーテレールが可燃性であろうとも、そもそも関係が無いことよ」

「聞きたくなかったのにレジスタンスだって知らされた……」

「そうよ。ソイツ達が人造人間以外によこしてくるもので、『一刀両断』を迷い無く使えるものなんて、もうわかってるでしょ」

「でもそうだとしたら、なんの理由で……」

「考えるだけ無駄よ」




 ギルドの自室にいたバルオーガは、しきりに窓の外を気にしていた。

 ツバキが荷物を引き取っていった、というより強引に持ち去ってからしばらく時が過ぎて、陽はてっぺんまで昇り切っており、その間に案内していた岩場の方から上がった煙の様子を見ていたのだ。

 ツバキに文字通り嗅ぎつけられようとも、部下を向かわせようとしていたが、やがて煙が途絶えるとすぐにその時はやってきた。


「アル君」


 バルオーガは扉をノックしてきたアルを迎え入れる。


「……それは?」

「荷物の中身ですね。よかったらどうぞ」

「焼き芋か」

「ワッドラットに行った時に、ツバキが自分宛てに送ってたんですよ……」


 一呼吸の間ゆっくりと眉間を押さえるバルオーガを見て、なんとか不満を飲み込んでいるのだとアルは感じた。


「そ、それじゃあ失礼します。あ、ツバキが率先して毒見をしてたんで心配は無いですよ」


 アルはそうしてさっさとバルオーガの部屋を後にした。

 安全安心な、ネラガで急きょ調達したものを使った焼き芋を置いていって。


「……ふう。このアルさんの機転が利かなかったらどうなってたことか。開けて何も無かったら病原菌の類を疑われるし、かと言って一切を燃やし尽くしてもその残骸はいつ調べられてもおかしくない……」


 アルがツバキと共謀して描いた筋書きとしては、『木箱を完全に燃やし尽くそうとし、その途中で中身の芋が見えてきたのでそのまま調理した』というもの。

 ダミーで用意した芋に注意を逸らし、焼けた跡は木箱の残骸しか無くともおかしくはなくしたのだ。


「ほんっと最悪だ……ツバキに聞いたって真相はわからんし」


 そうした経緯を経て木箱の中身、レジスタンスとのつながりを疑われるであろうダースクウカ(ツバキの一刀両断で破壊できなかったので本物と確認済み)を回収したアルは足早にギルドを去っていった。

※アルの現在の装備:

表:ブリッツバーサー/ダースクウカ

裏:バリアー・シー

真:ノバスメータ/ハカルグラム

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