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#151 オルキトとツバキの扱い方

 ジェネシスから解放された結果、特に空腹に瀕することで野生化した『はぐれ獣人』に追われたこともあり、アル達は『星の冒険者』が集会を始める前に屋敷に帰ってこられた。

 シオンは道中で別れていて、コトハは集めた素材でやることがあると部屋にこもったのでアルは1人、引き続き仲間への挨拶周りを続けた。

 初めに向かった、と言うより屋敷に戻ってきて迎えてきたのはオルキトだった。


「ただいま。心配かけたな」

「アルさん……無事でよかったです」

「忙しくさせて悪いが、相談したいことがある。少し歩きながらいいか」

「……例の第三勢力ですか。父から聞いています」


 オルキトと頷き合ったアルは、屋敷の中を歩きながらレジスタンスと遭遇したこと、そしてバルオーガには伝えていない彼らの活動目的について話した。


「人間由来の神器があるとされ、それにあたる四竜征剣を何らかの方法で始末することが目的とは……」

「ああ、ブレンは本当にその気らしい。強力な性能はもちろん、オモテには『強制昏睡』なんて厄介な機能まで備えてるんだ。あとそうだ。あの拠点にはフィーネ……いや、オルタ・フィーネもいた。4体いて、これもまたびびったが偽物の四竜征剣を作ってた」

「なっ、よ、4体!? 待ってくださいよ、仮にそのブレンという人が四竜征剣を持っていたとして、そんな相手によく無事でしたね……」

「間違えた。1体だった」

「いや極端過ぎます。……嘘じゃないですか?」


 コトハに並び特別付き合いが深かったオルキトは、アルの言葉を疑い、訝しげな視線を向ける。


「じゃあ4体だった」

「いや、じゃあ、ってなんです」

「ほら、バルオーガさんは精鋭の冒険者を充ててくれてたんだ。俺達、ジェネシス、レジスタンスの3つ巴で混乱してたけど、冒険者にとって共通の敵だったジェネシスだけが割を食って、なんとか無事で済んだってこと。あんまりこそこそしてると、どこから広まるかわからん。これで話は終わり」


 ツバキが関わっていたクエストの詳細をごまかそうと、アルはそれだけ言って口に指をあてた。

 オルキトは「でも……」とまだ食い下がる。


「なあ、オルキト」

「はい」

「さっき言った通り、バルオーガさんにはレジスタンスを謎の勢力として伝えてる。その正体を知ってるのはコトハとオルキトだけ。その中でも……」


 アルはオルキトの手を握る。


「四竜征剣を手にした経験まであるのはオルキトたった1人なんだ。俺が信じてるように、オルキトも俺を信じてほしい」

「……! アルさん……」


 オルキトの手に重なった手にさらに力がこもる。

 アルのその言葉と行動により、オルキトの目は真っ直ぐ澄んでいき、その顔には誇らしげな笑みが浮かんでいった。


『ちょろいな』


 そうしてひとまずオルキトを落ち着かせたアルは、探していた目標を目に捉えた。


「そう。これもオルキトにしかできないことだ」

「はい! なんでしょうか」


 気持ちのいい返事をしたオルキトがアルの視線の先を見ると、中庭にいる白いイヌのツバキを見つけた。

 何の用事かと不思議に思いながらも2人でツバキのそばに立つ。

 横になってくつろいでいたツバキは、めんどくさそうに彼らを一瞥しただけで相手にする様子は無い。


「オルキトって風呂は毎日入ってるか?」

「ぼ、僕って臭うんですか? やだぁ!」

「そういうことじゃない」


 自分の臭いを嗅いでいるオルキトを気にせず、アルは黄金の剣ブリッツバーサーを差し出す。


「ブリッツバーサー!?」

「そっちが叫ぶのか」

「え、ああ、いやすみません」

「俺もやってみたかっただけだから気にするな」

「はあ、『俺も』……? まあ、入手した経緯はだいたいわかりますが、それをどうするんです?」

「今だけでいいから、オルキトの体内にしまってくれ。またすぐに俺が引き取る」

「……それになんの意味が?」


 アルはツバキの目線までしゃがみながらそれに返事をした。


「すまん、詳しくは言えない。と言うのも、どういう狙いがあるかを言っちゃうとだ。オルキトがそれを意識して精確な検証ができないかもしれないんだ」

「むむ……」

「ここは何も聞かず頼まれてくれないか?」


 短いながら無言の時間が流れ、やがてオルキトは観念してブリッツバーサーを預かった。

 そしてすぐに体内から抜刀する。


『ブリッツバーサー』!!!


 大音量の抜刀音にオルキトはのけ反り、くつろいでいたツバキも飛び起きる。

 そして、少し前に抜刀したばかりだったアルも短く呻き声を漏らしていた。


「やっぱり効くな……こいつは」

「で、ですね……」


 アルにオルキトはそれぞれ苦笑いしながら、顔に苦悶の表情を滲ませる。


『グルル……』


 そして叩き起こされたツバキは、アルに向かって唸り声をあげていた。

 オルキトはおろおろとしながらも、ツバキを落ち着かせようとその顎に手を伸ばすが、牙を剥かれて退けさせられる。


「おっきい音だったけど、今のは危なくないから、ほら、落ち着いて。うう、注意が欠けてました……こ、こらツバキってば」

「あー、気にするな。もともとツバキの方に寄ってったのは俺がきっかけだったから、なだめるのも俺がするから大丈夫」

「いえ、アルさんに手を煩わせるわけにはいきません。そうそう、ちょうどアルさんがネラガまで出ている間、ツバキも不在になってたのでおそらく入れ替わってて、しつけもまだ十分じゃないはずなんですよ」


 バルオーガ方式(実際はもともと不老である聖獣ツバキがわずかな変身を重ねているだけだが、傍から見れば定期的に個体が入れ替えられて不老不死のイヌが再現されている状態)を把握していないオルキトは、なんの迷いや恐れも無く、ツバキが新しく入れ替わっていると思い込んで接している。


「あ、オルキト忘れてた。お姉さんが呼んでたんだった。急ぎの用らしくてかなり怒ってる」

「大切なことを忘れてますね!? ど、どこにいると?」

「馬車の発着場だな」

「……っつ、わかりました。ツバキのことは任せます」

「じゃあ無事でなー……ふん。そっちも嘘ついてたからこれでおあいこだ」


 アルがでっち上げた適当な嘘なのだが、オルキトが冷や汗をかきながら駆け出していくと、残されたアルはそばにいたツバキにこそこそと話しかける。


「約束してた美味いもんは今日中に用意するし、何なら他も見繕うからちょっと落ち着いてくれ」


 食べ物の話をちらつかせて平謝りするアルを前に、明らかに知能を有するヒトがするように辺りを見渡して人影がないこと確かめたツバキは小声で最小限の言葉を紡ぐ。


「約束は当たり前。で、何が目的だったの?」

「ツバキは……じゃないや。ツバキさんは神器のにおいを追えるじゃないですか。けどそれがいつまで有効かを検証しておきたくて。ほら、ここに初めて来た時、オルキトは神器を持ってないけど、痕跡があったことは把握してましたよね」


 アルは媚びるように腰を低くし敬語で、神器のにおいがどれだけの期間残るかの検証だということを説明した。


「ということで、できれば定期的にオルキトのところまで確認していただきたいなと」

「確認はする。報告されるかはあなた次第よ」

「……結果をわかってるのはそっちだけ、ってことっすか」

「あ、もうにおいしないからこれで終わっていい?」

「あのー、嘘はつかないでくだせえ……」


 その後、思わぬ出費がかかることとなったがアルは無事に交渉を終えた。




 後になってアルは気づいたが、全ての事情を知っているバルオーガに協力してもらえば、検証は何も滞りなく進められた(隠していた四竜征剣はブリッツバーサーだけで、それ以外にも四竜征剣はあった)。

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