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#150 帰還と待ち人の迎え

 バルオーガにツバキが同乗していた馬車に揺られ、アルは4日ぶりにネラガへ帰ってきた。

 屋敷では真っ先にオルキトに迎えられたが、既に夜であったため、バルオーガがギルドマスターの立場で休息をとらせろ、と命令をしてもらえたアルはゆっくりと一晩を過ごせた。

 しかし面倒ごとを引き延ばしただけで、憂鬱な気分で起きた翌朝、アルを呼び出したのは意外な人物だった。


「よくも何日も放置してくれたなぁ……」

「客ってシオンだったか」

「うん」


 コトハは安定の無表情で頷いた。

 それに対し、シオンはいらいらした様子で眉間にしわを寄せて、アルを睨んでいた。

 アルは朝一番に部屋を訪れたコトハに呼ばれ個室がある飲食店に案内されていて、オルキトも同行を提案したが幼なじみとして大切な話をしたい、と言われれば折れざるを得なかった。


「ま、お姉さんもピンナの残骸渡しといたから調査で、今日は手が離せないでいるかね」


 幸か不幸かピンナの残骸を持ち帰ったことで、もう1人のストーカーであるオルフィアの注意も逸らせていた。

 そんな秘密を保持できる万全の体制であったため、くま耳魔法少女ぶらうんの正体、シオンは声を荒げられていた。


「で、その放置とはなんのことで」

「言葉の通りだ。私の正体を知られたあの騒動を経て、迷惑をかけた詫びとして何かあれば手を貸すと言ったよな」

「うん」

「いつ来るのかと思えば……なんだよ! ワッドラットにいる、って!」

「まあいろいろあってさ……というか、待つだけじゃなくそこまで聞いてたのか?」

「ああそうさ。コイツを止めろ、って言いたかったからな!」

「はい私です」


 コイツ、とシオンが指差したのは挙手をしていたコトハだった。

 アルはそんな興奮していたシオンを一旦なだめ、ネラガを発った時点から話を整理してもらう。

 コトハ属する『星の冒険者』はネラガでも通常通りクエストを順調にこなしていた。

 アルはもちろん、ぶらうんも抜きで。

 ただ問題はそこからで、暇さえあればクエストとは無関係の用事に付き合わされていたことに、シオンは悩まされていた。


「本業の執筆活動をしつつ取材のためにギルドに入り浸ってはいるが、コイツはことあるごとに意味深な目でちらちら見てきてなぁ……」

「別にそんな他意は無かった」

「嘘つけ!」


 事情を把握したアルは尋ねる。


「これは俺が悪いのか?」

「コイツの手綱を握る責任がある」

「そう来たか」


 アルは一通り不満をぶつけたシオンに『わかった』と答え、コトハの方を見る。


「じゃあ今度からは俺が用事に付き合うよ」

「いつでも暇だもんね。アル君」

「はん、まーな」

「それじゃあシオン。また機会があれば」

「で、どこに行くんだ? シオン抜きで」

「せっかくシオン抜きだから……」


 シオンはその肩を力強く握って、立ち上がろうとするアルとコトハを引き留める。


「あのサジンとやらが口にしていた『ジフォン組』の憎たらしさが今よーくわかった。いいだろう、ならそっちが遠慮するぐらいにとことん付き合ってやろうじゃないか……」

「コトハ1人を制御できてないのに俺まで巻き込んじゃだめなんだぜ」

「俺の思考を読むな」


 アルはコトハの横顔にそう注意する。


「……でもまあ、今回は心配と迷惑はかけたし、関係各所の方々はきちんと周っとかないとな」

「偉いじゃん。アル君」

「皮肉か? まったく」


 コトハの用事とは近くの川に採取へ向かうことだった。

 名前が長くてアルとシオンは覚えられなかったが、コトハがその素材を個人的に採取したいとのことだ。

 アルは時間にどれだけ余裕があるか確かめると『星の冒険者』としての予定を聞くと昼までは空いていた。


「ワッドラットへの調査隊が帰ってきて、その解析の応援でオルキトが呼び出されるとどうしても戦力は下がるから。一応昼の時点で集まる感じ」

「そういう時にシオンを頼るんだぞー。というかそうだ、ジェネシスを処理したことについて話さないとな。ここ数日ネラガにいなかった理由だ」


 個室のテーブルを囲みながら、コトハとシオンにワッドラットでの任務をすることになった経緯とその報告をしたアル。

 悩んだ結果、ツバキの部分だけは他の冒険者に置き換え、他は事実の通りにレジスタンスと手を組んで追跡の手を逃れたことを伝える。

 魔法少女の力という秘密を握っていたため、シオンには四竜征剣と加えて四竜征剣の始末を狙うレジスタンスについても包み隠さず話すことができた。


「驚いたな……あの子どもは人造人間だったなんて」

「おい、私っぽい話し方をしてるな?」

「いちいち構ってたら日が暮れるぞー」

「……ああ、わかった。今後の参考にする」


 シオンは改めて会話を続ける。

 適当にあしらわれたコトハは、それでもなんともない様子でいた。


「ジェネシスにレジスタンスか。前者は実害が出ているからなおさらだが、クェレレ鉱石の違法採掘をしているとなると、敵は共通と言えどいずれは然るべき処置をとらねばならないな」

「アイツらは本当に許せん。はあ、汚い金も受け取ってしまったし……」

「なんだ、改めて聞くとそっちも似たような境遇にいるんだな」


 拒否する暇も無くシンジツコンパクトを押し付けられ、それを手放せないでいるシオンの同情は決して口だけのものではなかった。


「まだ故郷にいられるだけいいじゃん。と言ってる俺も、ネラガの無事をしっかり確かめたから次の航行でユンニに戻ったらすぐに帰れるけどねー」


 その場で笑っていたのはアルだけだった。


「次、って半年後のことか?」

「……え?」

「ユンニとの間で冒険者を運ぶ便のことを指してるんだろうが、その間隔は半年ごとだぞ。それ以外に飛空艇を飛ばそうとすると、別途費用がかかる。何でも屋でせっせと稼ぐなら半年以上を要するぐらい……だったかな。待つ方が早い」

「……コトハ、知ってた?」

「知った上でついてきたんじゃないの? アル君」


 絵に描いたような驚愕の表情のままアルは首を振る。


「いつだったかな……旅の支度をしてた時に聞こうとしたけどうやむやになってて、でもオルキトがついてたからきちんと打ち合わせしてたんだと思ってた」

「オルキト。イッタ。シュウニ、スウドハ、トンデル」

「大丈夫かコイツ……たぶんそれは冒険者以外が利用する便だ。さっき言ったいい値段するやつ。オルキトの言ってること自体は間違ってないな」

「シンジテタノニ……」

「真面目で真摯な奴かと思ってたが、意外に大胆な一面もあるんだな……」


 ユンニでのフィーネ戦でアルは、精神状態はやや不安定になって正常な判断能力に欠けており、安心を保障するという言葉に誘われ言われるがままに甘えてしまっていたのだった。


「今回のクエストの報酬はあるけど、アイツらへの借金返済にあてるつもりだからこんなところで無駄にはできない……」

「時間さえ経てば確実に帰れるから、まあもうしばらくはよろしくね。ほら、頑張れー」


 うつむいた姿勢から、コトハが差し伸べてきた手を取り『頑張る』と返事をしたアルだった。

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