#149 明らかとなったレジスタンスの実態
ブレン達と別れた2日後、アルはもぬけの殻になったジェネシスの拠点にいた。
そこへ訪れたのは、数人の部下を率いたバルオーガ。
アルは今回の騒動の報告を現地でしたい、と手紙を送っていたのだった。
ギルドの長であるバルオーガが直接来たのは予想外だったが、ツバキの様子も見ておきたいがためだったらしい。
「災難だったな、アル君」
部下にその場を外させたバルオーガは開口一番、そうアルを労った。
というのも、手紙にて『ジェネシスとは別の勢力に襲撃され、ジアースケイルを奪われてしまった』という報告を受けていたからだった。
「いえ、けがの功名と言いますか、ジアースケイルっていう敵の標的は引き取っていってくれたので俺としては複雑ですが……いずれにせよジェネシスは共通の敵らしかったので、この通り拠点の制圧は達成できました」
「ツバキはまだしばらく人間の生活を満喫するらしいから後回しにするが、その勢力についてわかっていることを聞かせてくれないか」
「……はい」
そしてアルはレジスタンスについて話し出す。
自ら敵になることを提案し、アルを『ジアースケイルの冒険者』の責任から解放した男達のことを。
「仮面の男に、ダースクウカを手にしていた剣士……なるほど。ツバキがついていてまさかと疑ったが、納得せざるを得ないな。偽物の四竜征剣とやらも驚いたが、そんな相手にも引けを取らなかったのも」
「……もしもまともに使えてたら被害はもっと酷かっただろうなぁ」
「どういうことだ?」
「い、いえ、『俺が力を貸せれば被害は少なくできていたかも』ってことです」
偽の四竜征剣一式とジアースケイルの衝突、オルタ・フィーネそれぞれの最後の自爆などで地底湖は凄惨な状態だった。
百聞は一見に如かずで、アルが多くを語らずもバルオーガはその光景から激しい戦闘があったことを察していた。
「バルオーガさん、こちらにいいですか」
何かを発見したらしい部下の男がバルオーガを呼ぶ。
『偽の四竜征剣は回収されてて、偽装死体も処理済みだから、見つかって困るものは無いな』
不気味に笑っていたツバキと宿屋に帰った日の翌日。
残党が残っていないかの確認に加え、ピンナの残骸を引き取ってもらえないかを相談できないかと、レジスタンスがいることを期待をしながら拠点に引き返してみたアルだが、残っていたのは自身の偽装死体だけであった。
「内訳は不明だけどギンナともう1人のパルパ階層、両方かもしくは最低1体、俺の状態を報せるために逃がしてくれたか」
ツバキの鼻も使ってジェネシスが完全に退いたことを確認できたので、本当はブレン達と協力してジェネシスの追跡を断っていたのだが、話の辻褄を合わせるためには偽装死体は処分しておかなくてはならない。
アルは自身と瓜二つの死体を前に困っていたが、ツバキが嬉々としてその役割を引き受けてくれた。
『あの時のアイツときたら……いや、思い出すのはやめておこう』
間接的に暴力を振るわれたような、当時の不快感を頭から振り払う。
それと同時にせっかく工作をしてもらったのでブレン達には、次にもし会う機会があれば感謝をしようと考えていた。
「クェレレ鉱石……だと?」
「ええ、モノがモノなので鑑定は容易でした」
バルオーガは部下の男が手にしていた鉱石について何かを話していた。
バーグが偽の四竜征剣をしまうために放り捨て、山のように積まれていたものだ。
「あのー、それってもしかして珍しい代物なんですか?」
鉱石の知識が皆無だったアルはおそるおそる尋ねる。
部下の男にはアルの素性は明かされていないのか、視線で判断を仰がれてバルオーガが直々に説明を始めた。
「これはクェレレ鉱石。冒険者の、特に上質な装備品に使われる貴重な鉱石だ」
「ならこれだけの量だと結構な金額になったり、ですか?」
「確かにそうだ。だが、クェレレ鉱石は希少性ゆえに厳しい採掘制限がされていて、本来は公的な機関の管理下にてインゴット(鋳塊)として流通している」
「厳しい採掘制限、っていうのはもしかして勝手に採掘したら……」
「ああ、違法行為だ」
「違法行為」
「そしてこれだけの量となるとこのジェネシスという組織は常習犯と見ていい」
「常習犯」
「原石のままだから裏の商人に限られるが……」
「裏の商人」
「主な資金源なのだろうな」
「資金源」
バルオーガの話の端々に引っかかったアル。
「なんて連中だ……許されないですよ」
アルは怒りに震えた。
──ジェネシスではなく、レジスタンスの連中に対して。
『前言撤回だ。なにか起きる前に早々に手を切っといた方がいい。全部が無事済んだら借りたものは一切を返して清算しよう』
胸に手を当てて四竜征剣の存在を感じながら、とある事実に気づいてしまった。
「汚い金も耳揃えて返さないとなぁ……」
アルはいつかのユンニで渡され、半分以下に減っていた札束を憎たらしく握り締めたのだった。
幸い前払いでもらっていた今回のクエスト報酬は別で分けていて、バルオーガからも受け取ってくれと強く言われたので金銭についての心配はそれだけに限られた。
その後、拠点の捜索を傍らで眺めていると、その報酬を気兼ねなく使っていた食いしん坊が近づいてきていることに気づいた。
「ツバキ、戻ってきたか」
バルオーガはイヌに化けていたツバキに声をかけた。
「……またやってる」
部下の1人がその光景を、残念そうな目つきで一瞥する。
「しっ。気づかれるぞ」
また別の部下は、見てはならないといった口調でそれを制する。
「でもなあ……」
「アレ以外は本当に頼りになる人なんだ。心労の多い立場なんだろうし、俺達もお力になれるように努めよう」
「バルオーガさん……ああ、そうだな」
アルはたまらずバルオーガのそばによっていってやった。
「ま、まあ、ツバキに詳しく聞くのは帰ってからにしましょう……」
「そう……だな」
この時アルは予想していなかったが、素性不明のアルもまた表向きのバルオーガと同類と噂されるようになるのに時間はかからなかった。