#146 決着とオルタ・フィーネの末路
剣から槍になったジアースケイルを、アルは全身を使って振り回す。
リーチはもちろん、その切っ先もかなりの速さでフィーネも防御の反応はぎりぎりだった。
「剣の間合いには近づけさせないぜ」
アルはフィーネの一挙手一投足を見逃さず、致命傷にはならないが集中を削ぐように手元や足下を掠める。
あくまで強制停止機構での決着を望んでいるアルに焦らされるのが効いたか、耐えかねたように例の金属音が響く。
「あらゆる武器を相手にするのは想定内。剣と槍でも四竜征剣の奥義でそれを補う」
左右からそれぞれ、少女であるフィーネの身をすっかり隠すほどの炎と岩の振り子刃が迫るが、それは適性を持つアルには予想できていた。
そして同時に期待に応えてくれた、と心の中で満足感で満たされる。
「アル君! 今度は炎と岩の2つでしかけてきてる!」
「ええ、その方がよかった」
「……? どういうこと?」
アルは槍を地面に突っかけ、さらに柄を伸ばすことで振り子刃を回避した。
結果フィーネとかなりの距離が空いてしまったが、着地した先で元の長さ(ジアースケイル・エクステンドとしての)に戻し、その先を右の後方に向ける。
「奥義込みならちょうどいい威力に抑えられる」
『ソーサー・ディメンション』!!!
アルは再び長くなるジアースケイルをフィーネに向けて振りかぶる。
それと同時に、次元を操るシンの四竜征剣、その別の一角が雄叫びを上げた。
「……っつ、はあ!」
それはもう槍とは呼べない、国旗を掲げられる棹ほどまで伸びていた得物の切っ先は、振り子刃に触れる瞬間にアルのさじ加減で桶1杯の水ぐらいの重さに変わる。
加速度と重さが乗った一撃は、衝撃音を伴って障害を砕きながらフィーネを吹き飛ばした。
「はは……オリジナルだから何にも叫ばねえか」
精一杯の一撃を放ってフィーネの行く末を見届けたアルは、そのまましりもちをついたままになる。
緊張が解けて小さく笑い、『セイス・ヘビー・インパクト』などという自作の奥義の名前がふわふわと頭に浮かんでいた。
「フィーネ!」
「あ、バーグさん……」
バーグはアルを一瞥することもなく、一直線でフィーネの方へと走っていった。
心配してもらえなかったのが引っかかったアルだが、それは何かに焦ったような必死の形相がために指摘をできなかった。
そして、アルが感じた不穏な雰囲気は正しかった。
力無く倒れているフィーネにある程度近づいたバーグはその歩調を緩め、慎重なものになる。
何を警戒しているのか推測しようとしたところ、それはあっさりと解決した。
警告音を伴ったフィーネの自爆によって。
幸いにも規模は小さく、最も近くにいたバーグは咄嗟に地面に伏せて無事に済んだ。
「やっぱりかあ」
「っと、ブレンか。バーグさんも気になるけど、そっちは勝てたのか?」
いつの間にかアルの傍らに立っていたブレンは、残念そうに口をへの字にしていた。
そんなブレンを見て、適性により四竜征剣の全ての手の内がわかっているフィーネを相手に、奥義を使えないブレンが勝利を収めていたことを、アルはにわかには信じられなかった。
「二刀流までは読めなかったらしい。キミのそれみたいに」
ブレンの手にはダースクウカに加えて、金の得物が光っていた。
「ブリッツバーサー……? え、本物?」
「そこは叫ばないのかい。ま、本物だよ」
「今はいいの、そのネタは。で、ウェーブレイスの偽物見て驚いてたのは、ダースクウカしか持ってなかったからだろ?」
「ウェーブレイスは持ってなかった。ブリッツバーサーまで持ってないなんて言ってないよ」
「あーそうかい……屁理屈じゃんか」
「本当に。食えない奴ね」
「うおっ、ツバキの方も無事だったか」
フィーネが化けて出たかと思ったが、ブレンを横目で見ているその少女の正体は変身したツバキであった。
「無事でよかった。2人も相手だったのに……」
「なんてことないわ。集中できる隙を見つけて『四六時中』を発動すれば結局2対1に変わりない」
「あ、そうじゃん! ……ん、それなら俺よりずっと早く決着つけてるんじゃ?」
「それがなにか?」
「いや、加勢を期待してたんだけどなー、なんて」
「あんな災害現場みたいなところに突っ込むアホはいないわ」
ツバキがびしっと指差した先には、どれも突発的に発生した沼に激しい燃え跡、岩でできた壁や巨大な結晶が乱立していて、アル以外からすればそこだけ異世界のように意味不明な光景で近づきたくはなかったのだ。
ブレンもその意見に賛成していて、『お疲れ様』と簡単にアルを労ってすぐに、バーグへと呼びかけた。
「次は僕が処理した方でも試してくれ。危険なのはわかるけどジェネシスの有力な情報につながるはずだ」
「う、うん」
「バーグさん任せってことは、ブレンはそういう知識は無いのか」
活動停止したフィーネのもとにいち早く辿り着こうと駆けるバーグを眺めながら、アルはそう尋ねた。
「ああ。剣術以外はからっきしさ。もしバーグがいなかったらあの餌食になってたかもしれない」
「証拠隠滅用のがタイミングずれてああなるのか」
「証拠隠滅も狙いの1つだとは思う。ただそれなら特攻には使われないのは謎だ」
「恐ろしいことを言うなよ……」
「けど本当に謎なんだ。決まって活動を停止してから自爆機能が作動する。本当に意図して、装備が薄くなりがちな非戦闘職に標的を絞っているのか」
「決まって、って今まで必ずそうだったのか?」
「まだ両手で数える程度だけど、さっきのみたいにバーグが近づく前に作動するか、ある程度調査ができてから作動するかの誤差があるだけで、試しに放置を続けた時はかなりの時間動きが無かった例がある。僕なりの見立てだと特殊な機構で外からの手が入るのを感知してると思うんだ。バーグも絶対に無いとも否定はしていない」
「中身を調べようとしたらそれを見抜く機能か……うおう!?」
「またか……」
今度はブレンが強制停止させたフィーネの自爆機能が作動していて、アルはその音に体を強張らせた。
バーグは先ほどより距離を詰められていたが収穫は無し。
「せっかく私が破壊せずに残したからには、失敗はしないこと。いいわね?」
ツバキがそう釘を刺し、それによってバーグもより集中を高められていたようだったが健闘虚しく、4体いたフィーネの全てが自爆によって跡形も無く消え去った。