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#138 剣士と仮面の男

「ツバキー!」


 アルは声を荒げながら森の中を駆けていた。

 突如として消えたツバキの姿を求めて。


「ツバキに限って何かがあったなんてありえないはずだけど……」


 ──時はさかのぼること、ピンナとの接触から一夜が明けた朝。


「すみません、妹がまだ体調を崩してて、部屋にはしばらく掃除とか不要です」


 ピンナが人造人間とはいえ、ぱっと見では四肢ばらばらの人間が隠されている部屋を暴かれては騒ぎになるので、アル達は宿屋にはそうやって立ち入らせないようにした。

 その後、部屋に戻る素振りをしたが裏口を使って抜け出し、ツバキの案内により最短距離で森を突っ切ることに。


「およそだけど、ここからまっすぐ行けば目的地よ」

「分身かなにかが目印なのか?」

「ええ。互いの位置はわかるから昨日見つけた時点から待機させてあるわ」

「一晩ってこと!? いや危なくなかったか?」

「聖獣には虫も害獣も寄りつかないから」

「おう」


 適当な返事を見抜かれたアルは2発蹴りを入れられた。


「……!? 少し外すわ」

「へ? どういうことだ?」


 ツバキはしばらく硬直していたかと思うと、次の瞬間には姿を消していた。

(バルオーガと違い経験が無かったアルはわからなかったが、それは『四六時中』による時間操作で、ツバキの1つの戦闘が一区切りついたことを示す現象だった)


「ここを真っ直ぐだったよな……!」


 そしてアルはツバキの無事を信じながら駆け出していった。

 初めは太陽を目印に真っ直ぐ進み続けたが、だんだんと風景に違和感が生まれた始めた。


「ああ、完全にアイツの仕業だなっ」


 まだ切り口の新しい大木があちこちに散見された。

 その切り口というのが、ざらざらではなく包丁で断ち切ったズッキーニのようにつるつるで、そんな芸当ができるのはツバキの『一刀両断』しかなかった。


「……いた、ツバキ!」

「ああ、追いついたのね」


 出来立ての切り株を辿るとそこには、ツバキと男の姿があった。

 まだ記憶に新しいツバキのそれと、男もまたアルには見覚えがあった剣を手にしている。


「ん、君は……」


 男の正体はブレン・ハザード。

 手にしていたのはダースクウカで、それをもってツバキと対峙していたのだ。


「……」

「……」

「そういえばきちんと名乗ってなかったか」


 アルは出会った時に渡された手紙で一方的にブレンの名前を知っていただけで、改めて自己紹介をした。


「で、これはいったい……」

「こっちが聞きたいよ。まさか知り合い、なんて言い出したら場合によっては」

「……! いや、違うこれは……」


 ブレンの握ったダースクウカが最小限の動きで素早く、遠く離れていたアルに向ける。

 正体は変身していたツバキとはいえ、ジェネシスの人造人間と手を組んでいると疑っていたのだ。

 アルはとにかく両手をあげて敵意が無いことをアピールした。


「ツバキ、剣を収めてくれないか」

「……ふん。いいわ、どうせなんの手がかりも無かったし」

「手がかり……ダースクウカか」


 ツバキは四竜征剣の1本であるダースクウカに反応を示したようだった。

 アルがなんとかなだめるとツバキは『本物』の四竜征剣を収める。


「とりあえずこちら、前に話してたレジスタンスのブレン・ハザードだ」

「……どうも」

「で、ブレン。こちらは……聖獣のツバキ」

「あ?」


 紹介をされている当の本人、ツバキは知らぬ顔。

 アルは怪訝な顔をしているブレンに慌てて弁明する。


「今は変身の魔法で人造人間の姿になってるんだ。実在してる人間だと不便があるから……ってのは後で詳しく説明する。それでその聖獣は、訳あって本物の四竜征剣を探しててその標的を見つけ次第、誰彼構わず襲い掛かるような奴なんだ」

「はー、とんだお転婆だね。うーんと、本物の……? だとかはまだ聞きたいけど、まあ、いずれにせよ人造人間でもただの人間でもないことはよく理解した」

「うん……助かる、助かるけど理解早くない?」

「不可思議な現象見せられて理解せざるを得ないし、もっと他に追及したいことがあってね」


 ブレンは明らかにいらいらした様子で近くにあった『塊』に目を移した。


「う……うう……」

「!? な、なんだぁ!?」


 アルが『塊』をじっと見ていると、もぞもぞと不気味に動いていた。

『塊』の正体はうずくまってすすり泣く人間であったのだ。


「泣きたいのはこっちだよ……で、具合はどうだ?」

「ケガは無いけどぉ……」

「いや、君のはずが無いだろ。武器だよ武器」

「ちょっと!? ……ちぇっ、どうせブレンならそういうことだと思ったけど……」


 うずくまっていた男は折れた剣を抱えながら、目元を覆う仮面の隙間からぼろぼろと涙を流していた。


「見事に真っ二つ……ツバキか」


 無駄な装飾が無い、性能のみを追求したらしい剣は真っ二つになっていて、その断面は鏡のようにぴかぴかだった。

 折れたのではなく、道中の木々と同様にツバキの能力で切られていたのだ。


「その人の武器なのか? いや、まずその人は……?」

「僕の武器だよ。こっちは手入れをしてくれる鍛冶屋(ブラックスミス)だ」


 武器の持ち主とは別に、鍛冶屋にとっては自身の作品らしき解釈もあるのだろうと、アルは仮面の男が涙する理由にうっすら共感できた。


「でもなんでダースクウカがあるのに?」


 強力な力を秘めた四竜征剣があって、なぜ明らかに普通の武器を抜いたのかがアルには疑問だった。

 ツバキの予期せぬ襲撃で咄嗟のことであったとしても、体内にしまう四竜征剣では抜刀は体が反射した通りでむしろそれを抜くのが当然。


「あ、普段通り隠してはいたけど、壊されたから抜かざるを得なかったのか」

「ああ。アル君の言う通りだけど……少し違う」

「?」

「なんならこれを壊してほしかったけど」


 ブレンが握っていたのはダースクウカのみで、その言葉に他の解釈はできなかった。

 アルはしばらく呆けてしまい、さらに話を聞こうとしたがそれは仮面の男に遮られた。


「ま、待った! いくら危険だからってそれを壊そうだなんて極端な考えだよ!」

「わかってるよ。他に別の手段があるならそれに従う」

「ブレン……ちゃんとわかってるんだろうね?」

「そっちこそ、鍛冶屋の矜持とかが邪魔をしないようにね」


 そんな2人のやり取りを黙って見ていたアルに仮面の男が気づく。


「ごめんね。見苦しいところを見せて」

「いえ、いずれにせよ四竜征剣はなんとかしようとしてるんですよね。えーと」

「バーグ・ソドルだよ。よろしく」

「……ん?」


 バーグ・ソドル。

 アルはどこかでその名前に聞き覚えがあった。

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