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#137 回顧と猫か虎の穴

「事態は急を要するわ」

「ああ、悪かったよ」


 妹として扱って匿うことでピンナを無事ツバキの部屋に連れてきたが、そこでアルは詰め寄られていた。

 引き返そうとしても身動きしないピンナはどうしても注目を引いてしまい、まして井戸に戻して1人で帰るのは困難となってしまった。


「今は分身を出して話に挙がってた拠点の出入り口を探してるけど、まだ時間はかかりそう」


 宿についてからツバキは何者に見られても怪しまれない、行動に制限が無いイヌの状態で分身を発動。

 そうして拠点を探してもらっていたので、アルはすっかり頭が上がらなかった。


「次回は最短距離で移動できる代わりに、その次回は少なくとも丸1日過ぎた後になる」

「体力的なことでだよな。それについては全然構わない」

「だからもう寝る」


 カーテンを閉め切り、昼時の外の喧騒を完全に遮断。


「なんか、寝るか食うかしかしてないような……」


 昼間から布団をかぶったツバキの姿からは、どうしてもイヌの姿で自然の中を駆け巡っている姿を想像できず、アルはそんな愚痴が零れてしまった。


「鍵はかけてからポストで部屋に戻しとくぞ」


 返事は無かったが手を払う仕草だけされ、アルはそれに従って部屋を後にする。

 が、その前にがちゃがちゃと音を立ててとある作業を済ませた。


「なにしてる」

「万が一に備えて手足は外しとこうかなって」

「どこの誰が手足ばらばらの人形と安眠できるのよ!」

「ちゃんと目につかないところにしまうから」


 アルはピンナの手足を互い違いにして並べる。


「んー、入らない」

「ああほら、関節を曲げて縦の収納を活かすのよ」

「お、なるほど」


 肘、膝を曲げてみるとチェストの引き出しにぴったりと収まった。


「じゃないし! アンタが引き取っていきなさい!」


 ツバキにすごまれ、アルはしぶしぶピンナの部品を脇に抱える。


「ひとまずこれだけ運ぶから」

「さっさとしなさいよ」


 まずはまとめていた手足を簡単な布に包んで運び出すアル。


「待った。先に胴体を持ってきなさい」

「順番を細かく決めなくてもな」

「なんかアンタそれだけ持ってって、行ったきり帰ってこなさそう」

「……信頼無いな」


 ツバキにとっては一番不気味な頭部を置いて行かれて不快でたまらなかった。

 しかし分身を調査に出していて壁抜けができないので、アルがそんないたずらをしたらなんの対処もできないのだ。


「いずれにせよ俺も宿でじっとしてるから何かあれば声かけてくれ」


 ピンナの全身を自室に運んだアルは、彼女と接触した体験がまだ新しいうちに机に向かう。


『ジェネシスを名乗る人造人間の記録:アリュウル・クローズ』


「まずは……リワン村からか」


 かの日、ジフォンを発ってしまった日のことを苦い顔で思い出しながらアルはペンを走らせる。


 ①カンナ・モチヅキ

 階層(クラス):アマラ(おそらく)

 率いる獣人:ヤギ

 装備:無し

 発見した場所:リワン村

 最後の消息:ユンニ近郊


 ②アンナ

 階層:アマラ(おそらく)

 率いる獣人:ゾウ

 装備:無し

 発見した場所:ユンニ近郊

 最後の消息:同上

 備考:カンナを姉と呼んでいた(製造順の説が有力か)


「よく考えず書き出したけど、階層から既に『(おそらく)(かっこおそらく)』ってなんだよ……」


 他の階層と比べ、それらの特徴と一致しなかったために仕方なく判断したが、アルは自分自身でも違和感を抱いてしまっていた。


「いいや、清書は後で。てかすっかり忘れてたけど『モチヅキ』なんて名乗ってたな」


 ジェネシスのトップに関わるかもしれない情報かと考え、独り言ちながら作業を続ける。


 ③ハンナ

 階層:アマラ(おそらく)

 率いる獣人:サル

 装備:無し

 発見した場所:ユンニ近郊

 最後の消息:同上


 ④ニンナ

 階層:アマラ(おそらく)

 率いる獣人:キリン

 装備:鑑定眼を補う眼帯、パリアー・ソク (いずれも回収済)

 発見した場所:ユンニ近郊

 最後の消息:同上


「ああ……ここはどうしたもんか」


 またも出てきた『(おそらく)』の記述は無視し、アルが悩んだのは他でもないウラの四竜征剣、バリアー・ソク。


「回収したけどさっさとレジスタンスに渡したもんなあ……また清書は後回しか」


 レジスタンスが関わってくるので説明がややこしくなるのは避けられず、いっそ省こうとも考えたがそうは言えない事情があった。


 ⑤オルタ・フィーネ

 階層:不明

 率いる獣人:無し

 装備:ジアースケイル、ウェーブレイス、ブリッツバーサー、ダースクウカ(いずれも回収済み)

 発見した場所:ユンニ(街中)

 最後の消息:破壊済み(四竜征剣の回収により確認)


「うーん。破壊をしたのが他でもないレジスタンスだし」


 目を閉じれば浮かぶ猛威を振るったオモテの四竜征剣の脅威。

 それも単にそれらの性能に頼らず、絶対回避とも言えるバリアー・ソクの能力によって実体を消したアルにも有効な対処をしており、それだけにフィーネの特異さも負けじと際立つ。


「……よく勝てたな。あれ」


 当時はウラの一式の仕様である『死の警告』の直後で頭がはたらいていなかったアルだが、改めて戦闘を振り返る、振り返れる今があるのはまた別の四竜征剣、シンの一式の力があってこそだった。


「四竜征剣がほぼ完璧に3組揃ったとかいう、見る人が見ればとんでもない濃厚な時間だったんだろうなぁ」


 口だけそう動かして、アルの記録を残す手が次の項目に移る。


 ⑥ギンナ

 階層:ガド

 率いる獣人:モグラ(地中に潜る能力あり)

 装備:不明(所持の可能性大)

 発見した場所:ネラガ近郊

 最後の消息:不明


「ギンナに……」


 ⑦ヴンナ

 階層:ガド

 率いる獣人:キジ(飛行能力あり)

 装備:特殊警棒

 発見した場所:ネラガ近郊

 最後の消息:ネラガのギルドで回収、保管中


「ヴンナについてはお姉さんに補足を入れてもらおう」


 ⑧ピンナ

 階層:パルパ

 率いる獣人:無し(指揮能力無しか)

 装備:無し

 発見した場所:ワッドラット近郊

 最後の消息:活動停止状態で連行中


「と、まあこんなものか。人相が全部共通してて助かる」


『いずれも軍服を着用した少女の様相』


 最後にそう書き加え、計8体の人造人間の情報を整理できたアルは、それらの分布に注目した。


「リワン村にネラガと、極端な移動になっちまったけどそれに対応してるみたいにジェネシスも変化が劇的なんだよな」


 結果的に無事で済んだが、決して一筋縄でいかなかったガド階層の人造人間との戦闘を経ていたアルの頭に嫌な予想がよぎる。


「ネラガ、もといワッドラットが本命の拠点で、それから一番遠いユンニだったから、フィーネっていう例外を除いて、性能的に未熟らしいアマラ階層しかいなかった……?」


 いざ飛び込もうとしているジェネシスの拠点、そこが例えば猫の潜む穴であればよかったのだが虎が飛び出してくるかもしれないと考えると背筋がぞくりとしたアルだった。


「聖獣なら太刀打ちしてくれるかな……」


 ツバキの獅子奮迅の活躍を期待するアルであった。

それぞれの初登場回

・カンナ (#5)

・アンナ (#31)

・ハンナ (#44)

・ニンナ (#57)

・オルタ・フィーネ (#65)

・ギンナ (#117)

・ヴンナ (#117)

・ピンナ (#134)

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