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#136 ピンナと各階層の評価

「ギンナは今どうしてる?」


『語尾』


「どうしてるぺゆ?」


 まずはヴンナと共にいたガド階層(クラス)の人造人間の動向。

 どれほど情報が行き渡っているか、来たる日に向けた準備はどれほどされているか。


「戻ってますよ」

「……で?」

「『で』とは……? パルパ階層のピンナは()()()()管理だけでそれ以上、外の様子と色んな作戦事情は知らないんです……って、ヴンナなら知ってますよね?」


『……どういうことだ?』


「外に出ないなら、ガドってのと比べてへなちょこだからなんじゃない?」


 アルが小声で口にした疑問に、ツバキも小声で予想を口にした。

 すると、姿を目にできているからかツバキの言葉だけは耳にしたらしく、ピンナはばつの悪そうな顔をした。


「パルパ階層は耳と目がいいだけですから……ガドみたいに賢くも強くもなくて、アマラはアマラで獣人は操れますし……」

「『獣人を操れない』、ぺゆ?」

「うう……ヴンナがいじわるさんです……」


『一旦ここで落ち着こう。気になってたことがあったけど、その理由がわかった』


 ピンナが落ち込んで人差し指を突き合わせているので、アルはそれ以上の追及を止めさせた。


『頷くだけでいい。気になってたこと、ってのは、正体は見抜けてないけどヴンナを声だけで判断してた。井戸は暗くて深いはずだったから』


 アルが『誰かいるか』と問いかけたのに対し、ピンナは仲間の誰かか、ではなくはっきりと『ヴンナですか』と聞き返した。

 耳がいい、とは仲間の人造人間の声を名前と紐づけて判断できるという意味であったのだ。


『顔も同様で、格好が普段の軍服と違ってもヴンナだとわかった様子でいた。ただツバキの変身の魔法の違和感を見抜かれる危険はあるから距離は保っておこう。で、ここまで全てピンナの言ってたことが正しいと来てると、落ち込んでるらしい様子も含めて『獣人は制御できない』のもおよそ事実。代わりに『仲間の人造人間を顔と声の特徴で管理できる』性能で、それを活かせるポジションに就いているんだ』


 ガド階層のヴンナ、パルパ階層のピンナ、そして図らずもアマラ階層のカンナとも接触していたようで、アルはそれぞれの特徴をざっと評価する。


『ガドは賢くない語尾に引き換え、絵に読書をたしなむほどの知能と特殊な獣人の指揮能力、厄介な運動能力を持つ。パルパは目と耳が優れてて容易に仲間の区別をつけられるポジション。けど何らかの理由で獣人を操れないし、さっきの井戸でわかったがガドほどには運動能力は無い』


 井戸を上がるのに腕を換装して滑車を利用していたことから、単純な運動能力はヒトの少女の見た目通りらしかった。


『アマラだが……うん、ユンニの周りで散々見てきた神輿のアホ集団がそのひとくくりなんだろう』


 獣人を操れたものの、その指揮官自体の知能等は低くアルは何度と無く窮地を躱すことができた。

 それらは四竜征剣の成果が大きかったが、アマラ階層のずさんな情報共有という習性も上手く嚙み合ってくれていたのもある。


「……そうです、落ち込んだままではいけませんよね。ヴンナ、それじゃあ帰りましょう」


 ピンナは未だヴンナが偽物と気づかず、無邪気に笑ってツバキに手を差し伸べる。


「そこの井戸以外よね……? ぺゆ」

「そうそう、気をつけてください。2人でここから戻るとこのふたを閉じられないんです!」


『それは困るー』と緊張感の無い返事をするツバキ。


「なら別の出入り口はどこだったぺゆ?」

「少し遠くの洞窟ですよー」

「わかった……ぺゆ。そっちは井戸から戻ってていいけど、私が向かってることは黙ってて」


 アルが話しかけながら作戦は練られていき、他の出入り口がどこにあるかを聞き出せたツバキはピンナには混乱を招かせないように黙って戻るよう提案した。


「2人の方が楽しいです!」

「わっ、くっつくな!」

「寂しいんですー!」


 ピンナはなんの警戒も無くヴンナの偽物に抱き着いて、とある事実に気づいた。


「ヴンナ、どこかから()()()()()()と異常な音がしました! あわわ、早く直してもらいましょう。すぐに応援をいっぱい呼んできます!」


 生物と比べ人造人間には異常である心臓の鼓動にピンナは慌てふためく。


「ちっ、()()よね!」


 井戸へと踵を返しピンナが背中を向けた瞬間、ツバキが『強制停止機構』を発動させた。

 がくんと糸が切れた人形のように脱力したピンナ。

 それからどたどたとおぼつかない足取りで転んで、死んだように動かなくなった。


「ど、どうなった……?」


 アルはおそるおそるピンナに近づきその口元に手をかざす。


「呼吸なんて無いんじゃない?」

「そうなのか。おーい」


 頬についていた土を払って声をかけてみるが、ピンナはだらんと倒れたまま。


「黙ってるとただの人間にしか見えないし……」


 じっくりピンナを観察した後、ツバキが変身しているヴンナの顔と見比べてみる。


「話もせずに誰が誰だかとか、まず見分けられないぞ」


 全く同じ顔をしたジェネシスの人造人間を見分けられる。

 ピンナが主張していたパルパ階層の特長にため息をついて唸るだけのアルだった。


「さっさと井戸に放り投げなさい」

「ああ……ああ?」


 なんの脈絡も無く飛び出したツバキの過激な発言にアルは目を丸くする。


「あの横穴を頻繁に出入りしてるのなら、体勢を崩して落ちたことにするの」

「誰かが接触した痕跡を消しておく? んだよな。ちょ、ちょっと時間をくれ」


 アルがすぐにそれを実行できないのは、ピンナが人の形を成した人造人間だったからだけでなく、ヴンナを必死な様子で心配していた、仲間想いな行動を垣間見ていたからだった。

 もちろん、リワン村とユンニの住人まで巻き込む事件を起こした組織の一員であることは把握していたが、それらの悪行に疑問を抱かざるを得なかった。


「なんだろう、少なからずこう……救済の余地はあるんじゃないかな、って。ピンナはジェネシスの本質的な活動とか理解をしてない雰囲気だったろ?」

「何に同情してるかは知らないけど人生経験が貧相ね。アンタが知らないだけで世界はいつもどこでもそんなことばっかよ」

「……そんなもんか?」


 何も言わず頷くツバキ。

 小さな少女の姿では表情を詳しく伺えず、アルはとりあえずピンナを抱えた。


「やあ、さっきの冒険者さん。おや、その子は……」

「この子の双子の妹です」


 いつの間にかそばに来ていた、農工具店の主人で畑の持ち主に問われてアルはそう答えた。


「もう。こんなところで寝ちまって、ははは」


 アルはよしよし、と優しく背中であやしながら──宿屋まで戻ってきた。


「なんでこうなった?」

「こっちの台詞よ!」

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