#13 秘密と架空の冒険者
アルにとって四竜征剣は、返す予定でいる借り物に過ぎない。
冒険者もジフォンに帰るために選んだために高尚な夢も無いので、特にコトハの進路に影響を与えたくなかった。
とは言っても、リワン村での出来事をありのまま伝えておいて、大切な部分をうやむやにして後で整合性が取れるように調整するほど、アルは頭の回転が速くなかった。
そこで思いついたのは、架空の冒険者を生み出すことだった。
「たまたま通りかかった冒険者が活躍したらしい。『四竜征剣』? ってのでさ」
アルは自然を装い、ついでに一般的な冒険者が持っている四竜征剣への印象も探ってみた。
「だ、誰!? 名前は? 誰がどれを持ってたって!?」
「いや、俺も詳しく見てなかったんだけど……」
鎧をがたがた鳴らして身を詰めてくるほど、ウジンは想定以上に食いついてきた。
サジンも開いた口に手を当てている。
2人の反応を見て、アルはもう少し踏み込んでみた。
「びっくりした……なあ、どの? って、『四竜征剣』で1本じゃないのか」
「ああ、そうか。冒険者じゃあないから知らなくても当然か」
「そんなに有名なんだな」
「有名、の一言じゃ済まないよ。大地と海、朝と夜を創り上げたという伝説の竜、それぞれの力を宿した4本の剣で、教科書にも載るほど剣士には常識だ」
「……へ、へー。なんか実感が湧かないなー」
アルは鼻息の荒いウジンに戸惑い、呆気に取られているふりをしてボロを出さないようにしている。
「いいなぁ……見せてもらうだけでもいくら払ったっていいよ」
「え、ほんと?」
「ん? どうしてアルが食いつくんだ?」
意外な場面で現れた、手っ取り早く資金が工面できる方法に気持ちが揺らぎそうになったアル。
しかしなんとか踏みとどまる。
「悪銭身に付かず。真面目に働くんだ……俺……」
四竜征剣は出さず、手が空いていたアルは進んで杭の束を抱えた。
「じゃあ、ウジン。いろいろと指揮は頼んだ」
「こちらこそよろしく」
鎧を着たウジン達の兄妹は森を先行して害獣ほか獣人の警戒にあたり、コトハはコンパスと地図を手にして進路を指示する。
薬師を目指す過程で、薬草を採取するための実地訓練もあったとのことで、その手慣れた様子にアルは感心して見とれていた。
「アル君。次はそこにお願い」
「よし、わかった」
コトハの指示を受けてアルは杭を打ち続け、順調に持っていた地図には印が埋まっていった。