#130 緊急招集と人造人間の秘密
くま耳魔法少女ぶらうんの正体、シオンと出会った翌日の朝のこと。
アルはツバキの壁抜け対策で扉の前に置いていたチェストを片付けていると、隙間に挿されていた置き手紙を見つけた。
『オルキトです。起きたらなるべく早くギルドマスターの部屋(屋敷とは別です)まで来てください。簡単なものですが食事も出します』
「置き手紙、ってことはオルキトはもう向こうにいるのか。……まあ急いでやろう」
オルキトは、自分が起きるのを待たないほどの事情を抱えていると察したアルは、うまく表現できない胸騒ぎに駆り立てられてギルドへと向かった。
「おはようございます、アルです」
「ああ、入ってくれ」
アルがギルド受付でバルオーガとオルキトの名前を出すと、職員は建物奥まで案内してくれた。
そして到着した部屋の扉をノックして挨拶をするとバルオーガの声で返事が返ってきた。
「おはよう、アル君」
「おはようございます、アルさん。すみません朝早くに」
応接用であろうソファにはオルフィアとオルキトがいて口々に挨拶をする。
そしてもう1頭、2人掛けのソファを占領していたツバキの姿もあった。
「……あの」
「まあ、とりあえず座ってくれ」
「……」
ツバキがバルオーガの言うことを聞くことはまず無い。
つまり屋敷から出てまでギルドに来たのは自発的なもの。
何かの企みがあったに違いないが、それを疑っていたアルにバルオーガは黙って首を振るだけでアルを呼び出した本来の用件の話を進める。
「まず先日はジェネシスへの対応ご苦労だった。詳細は2人から報告を受けたがアル君にも直接聞いておきたいことがあってな」
「はい、なんでしょうか」
「ユンニにネラガ、それぞれの地域にて発生したジェネシスと交戦した経験を持つことになるらしいが」
「そう言われればそうですね……」
改めて聞かされた自身の奇妙な経歴についアルは顔をしかめる。
「オルフィアの報告だけでは確認できていない、獣人と人造人間それぞれを比較して注意する点などは無いか」
「お姉さんから報告って、階層のこととかですか?」
「ああ、組織はアマラにパルパ、ガドで区別されているのは把握している」
「えーと……」
クエストに密かについてきていたオルフィアはガド階層のヴンナとは実際に闘い、アルとの会話も全て聞いていた。
少しだけ頭の中を整理して、アルがよく知っている情報を報告する。
「まず獣人は頭だけが獣の個体だったのが、ネラガでは腕や翼まで獣に変わっていて地中への潜行能力、飛行能力などを備えてました。だよな、オルキト」
「はい。ハンナとニンナには僕も接触していましたからその通りです。カンナやアンナもそうでしたか」
「ああ。それで人造人間の方は2人でも話してたんですが、主に獣人の指揮能力に関する知能が別人の域でした」
「そうですね。ユンニのそれは一言でいえば『行きあたりばったり』。一方でネラガは獣人の能力も活かしつつ視野も広くとっていて一筋縄では無かったです」
アルはオルキトにフォローを求めつつ、獣人とその指揮に関する違いを説明。
続いて人造人間そのものの性能に言及する。
「まだ確信はできてないですけど、向こうでは誰しもが担いでた神輿があって、それは何かしらの燃料を積んでいるらしいんです。ただネラガの方はそれを目にすることが無くてその辺りも性能の違いがあるかもしれないです」
「あ、確かにその通りですね。なるほど……」
「そして身体能力は見た目よりずっと高くて、ユンニではそれこそ普通の村の一般人が取り押さえられるほどだったのが、木のてっぺんぐらいから飛び降りても怪我無く着地したり、簡単な得物でもゴブリンを一発で沈められるまでになってます」
「ゴブリン倒したのはアルさんじゃなかった……?」
「い、今は気にするな!」
コボルトチャレンジに関係していたことだが、クエストには直接関わらない要素だったのでオルキトの追及はなるべく取り合わないようにしたアル。
「燃料を供給する神輿か……ふむ、わかった。オルフィア、こちらも調査の結果を伝えてやってくれ」
「はい。アル君、これどうぞ」
バルオーガがオルフィア経由で渡させたのは細長い金属の板。
薄いそれは弾性があって、少し曲げてみてもぱちぱちと元の形状に戻る。
「『投影』」
「これは……人造人間?」
オルフィアの指輪から緑色の光が発せられ、空中にジェネシスの少女の胸部より上の姿が立体的なもので浮かび上がる。
その少女の肩の上にはちょうどアルが手にしていた金属部品と同じ形状の赤いマークがあった。
「これは今、頭の中にあるイメージを表示してるの。で、昨日ヴンナの体を調べた結果、見ての通りその部品が肩に取り付けられていた」
「この部品が……まさしく人造人間らしいですが、それがなにか?」
「それは名付けるなら『強制停止機構』。2か所同時に一定の圧力がかかると、さっき話に挙がっていた燃料の供給が一切止まって、対象は活動停止する」
つまりこうする、とオルフィアは『投影』を解き、そばにいたオルキトの両肩に手を置いて少し力をかけてみせた。
「破壊をせざる得ない緊急の場合は除いて、次はこうして対処をしてほしいの」
「ええまあ、破壊をするにはどうしても目立つので有益な情報ですけど、次なんてそうそう……」
「わかっているわ。ヴンナが話していた通り、逃走したギンナとその仲間は今、なにか作戦を練っていると見ていいわ。拠点を特定しようにもきっとそれは読まれている」
「なんか全部理解されてるのもそれはそれで気持ちが悪い……」
「なにかしら?」
「いえ、別に何も。むしろ非常に助かってます」
オルフィアに小声で抵抗を見せていたアルだが、指摘の通りに漠然とした不安を抱えているのは事実だった。
次はいつ、どれほどの規模になって襲撃が来るのか。
無敵の四竜征剣を手にしていたアルでも、予想ができない脅威に気分は憂鬱だった。
「さて、アル君。こんな早朝に呼び出したのは、ジェネシスについての打ち合わせとは別の話をしたかったからだ」
「別の話?」
「ああ。急を要するもので、アル君が鍵となる計画のな」
バルオーガがそう言いながら取り出したのは、ヴンナが所持していたスケッチブックであった。