#129 好奇心と禁忌への侵犯 4/4
「対面の仕方はどうであれ、せっかく会えたんだし俺からもお礼を言わせてくれ。ありがとう」
深く頭を下げたアルは、自身の経験からくる疑問をぶつけた。
「けどそれならなんで冒険者をしてるんだ? もともとは小説家っていう職に就いてて、選ばれたのはその後なんだろう?」
「どこかの誰かと違って故郷に帰れないわけでもないし」
「やかましいわ」
アルはさりげないコトハのいじりを肘で突き離す。
「……あんなどたばたがあって信用は無いだろうが、私も人間だ。困ってる人間がいたら気になるし、感謝されれば嬉しい」
それに、とシオンは続ける。
「あの姿になるとできること、見えるもの、感じられるものが一気に広がった。例えば忘れもしない、初めて飛空艇に乗った時のことだ。ネラガの海を一望したのは冒険者にならなければ得られなかった光景だ」
シオンの口にした青い海、それはつい最近目にしていたアルやコトハにとって記憶に新しかった。
段々とシオンの口調は興奮したものになり、それに同調したか、自然とアル達の胸にも温かいものが湧いてくる感覚がした。
「森の木漏れ日、見上げるほど大きな滝の水飛沫、時には嵐の暴風をも全身で感じた。そんな体験を私はいつか、物書きとして文字に起こして余すことなく伝えてみたくなった。……そうだな、確かにアルが言うようにリスクを伴っていながらも別に不要なことだと、もちろん承知している。だが私の熱い気持ちはどうやっても抑えられない」
背筋を伸ばしたシオンは咳ばらいをして頭を下げた。
「頼む。正体は黙っていてくれ。私はまだ冒険者を続けていたい」
「……そんなもん、俺は元々それを決められる立場じゃないからさ」
アル、それにコトハもシオンの頼みを快諾した。
「けどちゃんと、しゅがーには今回のことを謝っとくように。正体をバレたくないためにあそこまでするかね」
「わかってる。だが、お前もこっちの身になればわかるさ」
「まあ似たような立場だけども……」
「ん? あ、そうだアル、ちょうどいい」
「どうした?」
「ずっと気になってたが、なんで丸腰の何でも屋がこっちに来てるんだ?」
「い、いーだろ。荷物持ちで必要だったんだよ」
「いや他のメンバーの負担が増えるだけだろ……まあいい、そこでだな。そんなアルのお守りで困ったら、なるべく都合を利かせてやろう。一応詫びのつもりだ」
アルのお守りのため、という理由を挙げたが照れ臭そうに鼻をすって落ち着かないシオンの様子は、特定の理由に限らず対応をしても構わないと、暗に示していた。
「おー、助かる」
「まあ仲介はアルとコトハに限られるがな」
騒動が一件落着してアルはふと、ネラガで仲間となった冒険者もまたとんでもないキワモノになってしまったな、と薄く笑っていた。