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#127 好奇心と禁忌への侵犯 2/4

「強硬手段とは……?」


 ニコルの質問に、シオンはテーブルに肘をついたままの姿勢で返事をする。


「変身は紛れもない魔法少女の証」

「魔法少女っすか」

「……別にいいだろう。はっきり区別できるし、他に呼び方が無い」

「アル君は話の腰を折らないで」


 シオンが真剣な表情で特異な言葉を口にするのでアルはそれが気になってしまい、コトハはそれをいさめる。


「仮に対象に顔を隠させたとして、いくら勘の鈍いやつでも正体が割れているという、そんな可能性を疑ってまず変身はしない」

「顔を隠せた時点でそれなりに接近してますもんね」

「そうだ」


 アルとシオンの会話を一通り聞いたニコルは彼女なりに話を要約する。


「あ、そもそもこの場の全員が顔見知りだからアレだ。気まずいね」

「どうする?」

「……今回の話は無かったことで」

「ああ、そう」


 ニコルはすっかり熱を失ったか、ため息をつきながら席を立った。

 返事は予想できていたが、コトハは一応アルにも尋ねる。


「アル君は?」

「言い出しっぺがいなくなったし俺もいいかなって」

「……」

「あのな、無理にオチをつける必要は無いんだよ。別に秘密は秘密のままでいいの」


 好き勝手に正体を探られる相手の気持ちを汲んでいたアルは、無言で迫ってきたコトハをなだめた。


「まあ私も無理強いはしないさ。君達の意思を尊重する」

「シオンさんはその気じゃなかったんですか? せっかくの機会なのに意外と食い下がらないですね」

「いや、その……あれだ。同じ志を持っていないといざという時に困る。そう、あと1歩と言うところでやっぱりやめただとか無責任なことを言われてはな」


 コトハは物静かでおとなしいが、それがたまに人を怖がらせることもあり、そのせいかシオンはぎこちない返事をした。


「てか見たところ、ぶらうんはギルドにいないんだ」

「ん、そうらしいな」

「シオンさんってどこまでわかってるんですか? まさか後をつけて住所まで?」

「あくまで、だいたいどの辺りにいるかまではな。さすがに特定はしていない。そうだ、私のせいで警戒心が強くなってるからくれぐれも刺激はするなよ」

「なんか色々だめな教訓……」


 そんな気はさらさら無かったアルはすっかりシオンに呆れていた。


「それならギルドに出入りするのもリスクありませんか?」

「え?」

「もし鉢合わせしたらもっと警戒されたりして」

「……それはだな」


 アルの疑問に対し、しばらく悩んだ様子を見せてからシオンは答える。


「物書きにとって大切な閃きやインスピレーションというのは部屋に閉じこもっていては湧かないものだ。そのためには取材や濃厚な体験を要し、1人として同じ者のいない人間の、特に冒険者の観察と交流がそれに適しているんだ」

「つ、つまり……創作活動のため、と」

「すまない、少し熱くなったな……」

「それじゃあ、お邪魔しても悪いんで俺達はこの辺りで……行こうぜ、コトハ」


 シオンによる感情たっぷりの熱弁に圧倒され、アルはギルドを出ようとコトハに声をかけた。

 しかしコトハはじっと腕を組んでいて、首だけをアルに向ける。


「この熱意を無視できなくなった」

「ええ……」


 何を刺激され、何に同調したのかコトハの目の奥はぎらぎら燃えていて、それは鎮まる様子が無い。


「行こう。悪名高きジフォン組の出番だよ」

「これ以上罪を重ねるな!」

「アル君にしかできないよ」

「うう……」


 コトハの目は姿を消す能力を期待していて、アルはそれから逃れるようにシオンへと視線を移す。


「……まさか行くつもりか?」

「えっと……」


 助けを求めようとしたが事態は変化しない。

 と言うのも、肝心のシオンがどこか煮え切らない様子でいるのだ。


『初めはニコルに便乗してきたのに、そのニコルがいなくなると急に慎重になって……このもやもやした感じがどうしても気になる……』


 意を決してアルは、大きな決断をしてみせた。


「シオンさん、俺達をその容疑者のところまで案内してください」


 数十分後、シオンとその後ろにつくアルとコトハの一行はとある路地裏にいた。


「……来た」


 容疑者とされる少女を発見したがそれを実際に補足していたのはシオンだけで、アル達は1歩も前に出ないようしっかりと手で制されていた。

 そのシオンは改めて作戦を確認する。


「いいか、まず私がこの麻袋を顔に被せて対象の顔を隠す。それからコトハが接近してブツの有無を確かめる。状況に応じてアル君は能力で姿を消す」

「確かにそうすればお互いに顔が割れずに済みますけど……」


 作戦実行の直前まで来てアルは焦っていた。


『あれ? 俺の予想だとなんだかんだビビッて未遂にまで至らないはずなのに……まじの犯罪の片棒担がされかけてない?』


「……よし、標的はあれだ」


 標的が背中を見せ、顔が見えなくなったタイミングでシオンはコトハにサインを出す。

 ちょうど少女は左肩にかけていたカバンの中を右手で探っていて、確かに右利きに違いなかった。


「……コトハ、あのー……まだ間に合うから考え直しても……」

「大丈夫」

「どこを見てそう言える!?」

「後は任せて」

「待ったっ! ……ああ……今度こそ終わった」


 アルの最後の抵抗は叶わず、シオン、それに次いでコトハが去っていった後でアルは呆然としてへたりこんだ。


「きゃああっ!?」


 おそらく少女の悲鳴が嫌でも耳に入るが、アルには何もできない。


「お、おい! どこを触ってる!?」

「……? あれ? シオンさんの声?」


 ついに幻聴まで聞こえてしまったかと、アルはその目で現場の様子を確かめてみる。

 するとそこには目を疑う光景が広がっていた。


「……あった」


 コトハが身体検査をしていたのは何故かシオンで、間もなくその手にはシンジツコンパクトが高く掲げられたのだ。

 そして意外な展開は連鎖する。


「ま、まじかるちぇーんじ!」

「……! しまった、変身された──」


 シオンに捕まっていた少女がもう1つのシンジツコンパクトを胸に抱き、変身の言葉を高らかに叫ぶ。

 その衝撃は、シオンに被せられた麻袋をはるか彼方へと吹き飛ばし、魔法少女の姿をアル達に見せつけた。


「『すいーと魔法少女』しゅがー! きらっ!」

「……え、誰?」


 実に十数秒の間、言葉を失い呼吸も忘れていたアルだった。

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