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#126 好奇心と禁忌への侵犯 1/4

ミステリーとしては完成度が未熟だと思ってるので、分割はしつつも一気に投稿です。

「アル君。ニコルが面白いことを考えてるから行かない?」


 ツバキの食事の後片付けが終わり、アルがようやく朝食に出かけられると思っていた矢先、屋敷の出入り口に張っていたコトハからそう誘われた。


「朝食も奢るって」

「……別にそれ目当てじゃないけど、まあ話ぐらいは聞くよ」


 足が汚れる、とのことでツバキは屋敷から出るのを極力避けていて、自由の身になれるのでアルは外出をしたがっていた。

 かと言って特に用事も無いので暇つぶしにするにはちょうどいいかなと、コトハの誘いに乗ることにした。

 加えてどんな要件でも最低限ニコルほかとの親交も深められるなら損も無いとも見越していた。


「ぶらうんの正体を知りたい」

「やめとけって」


 ネラガのギルドにて誘われた提案に、思わずアルは頭を抱えた。


「まあかなり端折ったけど、詳しくはこれを使って」

「麻袋?」


 ニコルから渡されたそれをアルがよく見ると、人為的に空けられた穴が2つあった。


「まずはアル君達にぶらうんの中身さんを探してもらいます」

「中身さんって……」

「そしてそれを被ってもらう」

「ああ、目を出すための穴か」

「で、そこに私が登場! からの変身するところを見せてもらう!」

「いやどういう絵面になるんだよ」


 変身のくだりが麻袋を被ると脱ぐに挟まれる。

 いったいどんな惨状になるのか、アルは既に不安になっていた。


「でも正体を知らずに変身を知るにはこれかな、って」

「それはそうとして、まずは正体を突き止めるところからだけど……この面子はなに?」


 ギルドに集まっていたのは3人。

 発案者のニコル、そしてコトハとアルだ。


「おじさんとジールは昨日のクエストの総括だって」

「サジンもいい機会だからってそれに合流してる」


 実に冒険者らしい心がけをしているようで、アルは又聞きにも関わらず耳が痛かった。


「サジンには、アル君も来るって言ったのに『そう……』としか返事されなかった」

「俺にどういう影響力があると思ったんだ」

「ちゃんと来たのに」

「気がかりだったのはたぶんそこじゃないし、そういやなんで来ることが確定してた?」

「それでレーネは」

「無視かい」


 コトハに目配せをされたニコルが困った顔で答える。


「レーネはこういうの苦手だから、ちょっと見送っといた」

「確かに、割と迂闊なところがあるな」

「で、オルキト君はまだ見てないなぁ」


 アルはその行方は知っていたが、まさか姉に攫われていったとは言えずニコルと一緒に首を傾げておいた。


「何かあればだいたいアル君のもとに来るから平気」

「ん、よく見てるな」

「それが本来の目的だったり」

「……はあ。そういう考えってことね」


 コトハの口調からアルはその心中を察した。

 ニコルに面白がってついてきたのではなく、ジェネシスの騒動の最新情報を知るためにアルについておきたかったのだ。


「さて、調査はまず聞き込みから。ぶらうんの情報を手分けして探そうか」

「なあ君達、さっきから気になってたが、くま耳魔法少女のことを調べているのか?」

「? えっと、あなたは……」


 いざ調査を始めようとしているニコルに1人の若い女性が声をかけてきた。

 ショートヘアのその女性は眼鏡を直しながら歩み寄ってくる。


「私はシオン。物書きをしている」


 握手を求めるシオンの、ある部分に注目している人物が1人いた。


「アル君、その癖は気に障る人もいるよ?」

「ああ悪い」

「アル君の癖?」


 コトハにいさめられたアルの癖というのを、ニコルが尋ねる。


「いや……人の利き手をどうしても見ちゃってさ。シオンさんみたいな左利きはつい……」


 当事者のシオンは差し出した左手を見ながら困っていて、ニコルももれなく似たような反応をするかと思われたが結果はその反対であった。


「……! いや、すごい助かる!」

「な、何がだ?」

「ぶらうんに反応しなかったのなら、少なくとも左利きじゃないんだ!」


 ゆるぎない事実に違いなかったが、唸っていたのはニコルただ1人であった。


「そう……だな。私が容疑者から外れたのは1つの進展か?」

「申し訳程度のフォローすね……いや、とりあえずありがとうございます」

「それで、話をもう少し聞いてもいいかな」


 こうしてアル達はシオンを加えて会話を再開することにした。


「改めて、私はシオンと言う。しがない物書きだ」

「へー。小説家さんなんだ。あ、私はニコルです」

「ニコル、とアル君にコトハだっけ?」

「あれ、いつの間に?」

「あー、気味悪がらないでくれ。職業がらこういう観察を自然とするようになってて、ついな」


 胸に違和感が残る感覚があったが自己紹介が済むと、シオンは間を空けず思わぬ言葉を口にした。


「実はな、私の独自の調査でぶらうんと思わしき人物を特定できている」

「えっ、もう!?」

「しっ」


 身を乗り出して驚くニコルにシオンは、唇に人差し指を当てる仕草にて落ち着かせた。

 突然のことであたふたしつつ口をつぐむニコルに、シオンが事情を説明する。


「ただし条件がある。会ったばかりの冒険者にタダで話すわけにはいかない」

「……なにか交換条件があるってことですか」

「察しがいいな。アル君」

「単独行動をするには都合の悪い何かがあって協力者が必要。でなければこういうリスクを負うメリットは無いかなって」


 アルに指摘されたシオンはその都合というのを明らかにする。


「私は既に接触をしているが、まだ詰めが甘かったようで結局成果は無く、逆に警戒をされてしまった」

「今度は俺達がそれを?」

「うん。ただ今度は教訓を活かして『シンジツコンパクト』、変身用の道具を持っているかで判断するんだ。変身をさせるまでは欲張るな」

「えー!」


 たいへん残念そうな悲鳴を上げたのはニコル。


「というかニコル。そもそもこの作戦には強硬手段しか選択肢が無い」


 シオンはそう口にすると、テーブルに肘をついて指を組む。

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