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#123 人造人間の末路とクエストの結果

「ふん、引きずり出せたぺゆ」


 ロープの拘束に手こずっていたふりをしていたヴンナ。

 オルフィアの姿を捕捉するとようやくその気になって、手際よく足首を外して拘束を解く。


「武闘派の錬金術師(アルケミスト)とは……未知の相手ぺゆ」


 体格でも武器のリーチでも有利をとっていたオルフィアの、木の枝による攻撃がヴンナに迫る。


「ふんっ!」

「……!? 防がれた……けどそれにしても『付与(エンチャント)』ってのの効果か、向こうの武器と鍔迫り合いが出来てる……」

「即席の『硬質化(ハードライズ)』をこれだけの完成度……いや、それよりもその場で拾ったはずの木の枝に発動させたことぺゆ……!」


 ヴンナは鍔迫り合いの中、オルフィアがどこか特定の箇所を庇う動きをしていないか探ってみたが、その振る舞いはごく自然なものであった。

 対象の物体の硬度を上げる付与『硬質化』に限らず、通常の場合は付与を施すものはその効果にムラが出ないようにシンプルな柱状、アクセサリのネックレスや鎖ではそれぞれエンドパーツ、先端のみに限るといったように簡単な立体が一般的になる。

 しかしオルフィアは細さが均一でない木の枝に、思う存分に扱えるほどに硬質化の付与を丁寧に処理していた。


「出来のいい武器をこしらえ、そこに体重をかけて力を上乗せしているが……それでようやく私と同等ほどぺゆ」


 だがそんなオルフィアに対し、ヴンナは片手で攻撃を受け止めている。


「……闘い方のみでなく、普段もその高圧的な態度なのだろうぺゆ」

「おお……なんという慧眼」

「おい」


 オルフィアは低い声でアルに注意をしつつ、杖を長剣のように持ち替えた。

 そして大きく振りかぶる。


「足りない力を勢いで補った……!」


 頭を目がけ、確かな攻撃の意思がこもった木の枝は──ヴンナによって真っ二つに折られた。


「折れた!?」

()()()()、のよ」


 オルフィアは最も得意な尺──だいたい前腕部程度──で『硬質化』をわざと解き、ヴンナの攻撃を空振りさせた。

 そして得物を手にしていた肘の関節を締める。


「ああ、駄目ですよ。関節技は無駄だって……」

「でしょうね」

「え?」


 関節を締めたのはまた別の攻略の起点であった。

 短くなった木の枝を握ったまま、空いていた手でヴンナの袖を引き、その勢いで身を翻して後方に回りこむ。


「人造人間でも急所は共通かしら」

「ぐっ……」


 無防備なヴンナの背中に強く握られた枝の柄による一突きが入る。

 苦悶の顔を浮かべたヴンナはやがてぐったりと膝をついて倒れた。


「……さて、私の任務は済ませたわ」


 オルフィアは現地調達であったために、なんの迷いも無く木の枝を放り捨てた。

 それから気絶したヴンナを肩に担ぐ。


「消火だけはきちんとしておいてね」

「ちょ、ちょっと! さっさと帰っちゃうんですか!?」


 アルは振り向きもせず去ろうとするオルフィアを呼び止めると、一言だけ返ってきた。


「あなたのせいで忙しくてね。この子がユンニとは別で出現したジェネシスだったことに困ってるのはお互い様じゃない?」

「もう1回提案ですけど、じゃあなおさらここは『カンナ』だったってことに……」

「しないよ」

「ああ、いやさすがに冗談です……オルキトがいるんでいずれにせよごまかし通せるはずは無いって明らかですし……」

「話はあとでゆっくりとね」


 オルフィアが去った後、アルは残った惨状の処理にあたる。

 巨大な鉄の檻はジアースケイルの能力で融かして吸収。

 量で言えば丸太数本あった鉄をまるまる飲み込んだのだが、不思議とその重量は変わらなかった。

 その手で獣人の残骸である灰も処理してしまい、残ったのはゴブリンの死骸だけになる。


「よし、この状況を全部理解できるのは彼だけですよね」


 これといって成果をあげられなかった虚しさからアルは冷静な分析をしてから炎の壁を薄くしていく。


「オルキトー、いるかー?」

「アルさん!? 大丈夫ですか!?」

「いてくれてたかー……そっちの状況は?」

「全員いますよ。もれなく無事です」

「……ギンナはどうした?」

「それは──」


 オルキトの報告によるとアルが壁を張った後、ヴンナはそれを追っていったがギンナはすぐに逃走。

 追跡も検討したが、確実にヴンナの方を抑えることに落ち着いた。

 というのも、地中にはまだ駆除できていない獣人の伏兵をしかけられている可能性があり、それをぶらうんが探ろうにも地中での探知は経験が浅く、例えばどれだけ深くまで範囲を広げねばならないかなどの懸念を考慮した決定であった。

 次はアルへと報告の順番が回ってくる。


「えーと、バルオーガさんのよこしてくれたらしい遣いの人がヴンナを連行してくれた」

「父さんが? ちなみにどんな人でしたか? 僕が知っていれば都合がいいのですが──」

「すごいいいひとだった」

「あ、ああ、そうですか。なんか食い気味ですね」

「すごいいいひとだった」

「わ、わかりましたって。とりあえずこの壁をなんとか……っと、こほん。鎮まるまで待ちますか」


 やがて、謎の超常現象とみなされた炎の壁はアルによって一切消し去られ、こうして『星の冒険者』のネラガでのクエストは強制撤退の形であったが無事に終了した。


「あとあれ。ゴブリンね」

「ふむ。確かに正解です」


 ヴンナの強さを目の当たりにしていなかったので、コボルトチャレンジは疑われずに成功した。

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