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#122 痛い図星と恐怖の襲撃者

「俺はともかく、ぶらうんやレドラさんがみすみす見逃すはずが無い。弓を持つオルキトだっている」


 炎の壁、その向こうの状況は不明だったがアルは確かな信頼を寄せる。


「『信じざるを得ない』から? 期待や信頼ではなく、私が口にした最悪の予想から必死に目を背けているように見えるぺゆ」

「ぐ……」


 ヴンナの言葉はアルにとって図星で、根底にあったのは四竜征剣にまつわる情報が行き渡ることを恐れてつい口から出たハッタリだった。


「ネラガ近郊の地理、それも私達が手を加えた最近のものに詳しいのはおそらくあの『変なの』だけらしいぺゆ」

「『変なの』……ぶらうんのことだろうな」

「逃げる標的を深追いする可能性もかなり低いと見たぺゆ。加えて私達、いや逃げ回るものに共通して言えるが、それを『破壊せずに捕らえる』のはずっと難しいぺゆ」


 ヴンナの言い分は理に適っていた。

 事実、獣人を殲滅させたジアースケイル、それをもってすればアルはいつでもヴンナを処理できた。

 しかし生きたまま捕らえた方が情報を引き出せたり捕虜として扱えるなどの利点があり、なにより万が一の場合の最悪の事態に至ることを防げる。

 そしてアルは後者について気にしていた。


「武器を捨てて、素直にこっちの指示に従ってくれないか?」


 アルははじめ、おろおろとぎこちない手つきで得物をあちこち手で扱ってから、ようやく利き手でないに握ることで落ち着き、敵意が無いことを示す。

 それから空いた手をヴンナに差し伸べた。


「そんなことをして、私は……どう見えたぺゆ?」

「どう見えた?」

「確かに私は人間の姿で、獣人と違って話が通じるぺゆ。それははっきりと違うぺゆ」


 ヴンナはさっきまで命であった獣人に一瞥をくれた。


「……何を言っているんだ私は?」

「いや知らん」

「……」

「そんな目をされても俺は悪くないんだけど」


 なんの脈絡も無く謎の時間が過ぎ、加えて今までに無い無垢な目で見つめられ、少女の姿をしたヴンナに対してますますアルは戦意を失う。


「賢くなったかと思ったらああいう言動……哲学でもかじってたのかね?」


 そうやって得物を握っていた手の緊張がつい弛緩してしまったところに、細長い影がうねりながらアルの視界に飛び込んできた。


「『追尾(ホーミング)』」

「……! 誰だ!?」


 黒い鎖は森から伸びてきていて、ヴンナの手首にその枷が巻き付いていた。

 慌てて武器を構え直したアルは、反射的に鎖の伸びる方へ振り向く。


「ああ、騒ぎすぎたから他の冒険者が嗅ぎつけてきたか……」


 森の中に突如現れた真っ赤に燃える炎の壁に、不自然に生えていた鉄の檻を見れば素通りする人間などはいない。

 そして警告無しで攻撃をしかけてきたとなると、果たしてどんな過激な冒険者かと想像を巡らせる。


「……新手、ぺゆか」


 がちゃがちゃとヴンナは、手首を外して拘束を解いた。


「少なくとも私の正体を知っている人物らしいぺゆ」


 ヴンナは勘良く、四竜征剣を持つアルよりも優先して一般に無害に見えるはずの自身を拘束したことから、相手の素性を推理する。

 そして手首を再度つけ直しながら、アルを突き飛ばして鎖が伸びてきた元へと駆ける。


「な、なんだ? なにがどうなってる?」


 アルが呆気に取られている間にも状況は急激に変化する。

 張力を失った鎖はヴンナが駆けていく方へ引かれていくが、それは木と木の間とを複雑に渡されており、巡り巡って、その先は初め飛び出してきた方向と真反対であった。

 それを辿るために要した数秒の間、絶えず鳴る鎖の音に紛れてヴンナの足にはしかけてあったロープが何重にも巻きつく。


「鎖の『追尾』にロープへの『巻取(ロール)』の付与(エンチャント)。私の()()()()を知らなかったとは言え、かなり入念に罠をしかけていた……ぺゆ」


 鎖の時と同様に脚部を取り外そうとするヴンナだが、思いがけず体勢を崩してしまった。

 襲撃者はそれを逃さず、仕留められると踏んでついに姿を現す。


「大事な参考人だから、アル君に乱暴はさせないわよ?」

「って、なんでお姉さんが!?」


 襲撃者の正体はオルフィアであり、アルを横目に落ちていた背の丈ぐらいの木の枝を拾って、武器のように振るう。


「ちゃんと壊さない手加減は慣れてるから」

「ちょっ、そんなのじゃ敵いませんよ。ゴブリン……? を、ほらそこのを殴って倒すぐらいの得物ですよ? 特殊警棒です」

「ええ。見てたわ」

「見てたならなおさら……って『見てた』?」

「彼女達は話に聞いていたのとは別のジェネシスらしいから、それについては責任を無理には追及しない。それよりも、見た目が同じなのをいいことに捏造をしようだなんて……それはいただけないかな?」


 彼女達、と口にしたのでヴンナがギンナと行動していた時から様子を見ていたらしく、ついに捏造をはっきりと咎められてしまうとアルはさーっと血の気が引いていた。


「一応は情報を引き出そうとしたらしいこと、感謝しているわ。さて、『硬質化(ハードライズ)』」


 オルフィアは即席の付与を木の枝に施す。

 そしてアルからの注意を確かに承知していたうえでなお、ヴンナへと攻撃をしかけていった。

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