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#121 せこくてせこいアルとヴンナの胸中

「あの祈っていたかのような姿勢。ジアースケイルに加え『バリアー』系統の不可視でも使っていた、あたりぺゆね」


 ヴンナはウラの一式の存在とその能力を知っており、その佇まいは落ち着いていて目は据わっている。


「……キジって鼻は利くのかな?」


 アルは疑問に思ったが何もしないよりかは、すっかり常套手段であった自らの姿を消す手を取る。


「ヒトのそれを超えた獣人の嗅覚は標準で備わっている。無駄ぺゆ」

「キジぃ!」


 獣人はアルが姿を消したことに慌てることは無く上空からの降下を止めることは無い。


「だったら潰すだけだ、『セイス・バーンアウト』!」

「むっ……」

「おまけで、『セイス・ミラージュ』!」


 ジアースケイルの一振りであちこちで点々と黒煙が立ち昇り、そこへ陽炎のゆらめきも加わってずらっと並んで立ち尽くす黒い影の集団が出来上がった。


「けほっ、俺も煙たいけどきつい臭いで上書きされたから追えなくなったんじゃないか?」

「苦し紛れの捨て身の策に過ぎないぺゆ。周辺で飛行を続け、時間をかけて挑発するように、ぺゆ」


 獣人は命令の通り影の集団のそばぎりぎりを低空飛行しては上空へと戻り、それを様々な方向から不規則な間隔で繰り出す。


『ああ、直接アイツを攻撃できれば一発で解決だが……そうもいかない』


 ジアースケイルの力を信じていたアルだが、もし獣人を仕留めそこなった場合に反撃を捌ききれるかを心配してじっと体を伏せる。


『しかし時間をかければ困るのはアイツのはずじゃないか? ニンナと同じで燃料切れをするはず……って、そういえばあの神輿は?』


 注入用のケーブルを有した、移動のみならず燃料タンクの機能を備えた神輿はユンニ近郊で遭遇した人造人間が必ず引き連れていた。

 しかしアルはネラガにて1度も目にしていないことに気づいた。


『妙な知能の高さに獣人の性能もそうだが……ますます嫌な予感がする……』


「キジ!」


『飛び回る相手……正直確実に撃ち落とす自信は無い。壁を出しても俺の視界を塞ぐだけで無意味。……なら』


 アルは人造人間の燃料切れを待たず、ジアースケイルを地面に突き立てて次の手をしかける。


『セイス・ジェイル』!!!


「これは……木の根が地面を突き破って……いや、鉄の棘……檻ぺゆ?」

「鳥には鳥籠、ってな」


 地面から伸びてきたのは樹木ではなく銀色である、自在に変形する鋼の棘。

 それはキジの獣人がいる高さまで伸び、四方八方にまた棘を拡げて標的をからめとる。

 そうして強く締め付けられた獣人は呻き声をあげ、やがて灰となっていった。


「これでようやく……2人きりで話ができるな」


 アルは消していた姿を戻し、ジアースケイルを逆手に持ち替えてからヴンナに歩み寄っていく。


「なあカンナ」

「私はヴンナぺゆ」

「カンナって言え」

「あれらと一緒にするな」


 アルが密かに画策していた、『どうせ見た目は同じだし、上手く言いくるめて向こうの言質をとってしまおう』という案は成就する兆しは無かった。


「なあ、気になってたけどその『あれら』って、なんなんだ。ジェネシスにも序列があるのか?」

「当然。アマラ階層(クラス)ののほか、パルパ階層。そしてそギンナや私のようなガド階層ぺゆ」

「……その機密保持の緩さは助かるぞ」


 ジェネシスの問題を解決するために有益な情報を引き出せないか、アルはもう少し粘る。


「階層だと?」

「パルパは知らないが、少なくともアマラ階層を相手にしていたならわかるはずぺゆ。従える獣人の性能が大きく違う」

「性能……なるほどな」


 知能が足りず本来の獣の能力を最大限引き出せないということか、そもそも扱うことが困難なのかは判断しかねたアルだが、特定の階層でないと対象の獣人を従えないということは明らかだった。


「そして特に顕著なのは……ふっ!」


『ゴフッ!』


 ヴンナが突如なにか跳びはねたかと思うと、傍らには背後から迫っていたらしい、緑色の肌をした人型の害獣が倒れていた。


「コボルトか!?」

「ゴブリンぺゆ。たわけ」

「そうなの? てか害獣まで詳しいのか……」


 アルの注意はそれから、その害獣を殴り倒した得物に向く。


「と、特殊警棒……()()()()()、じゃないや。渋い武器だな」

「いちいち減らず口を叩く奴ぺゆ」


 ヴンナは展開した特殊警棒、感情が乗っていたそれをアルに突き付けた。


「そこらの冒険者を沈められる、それほどの身体能力はあると自負しているぺゆ」

「……四竜征剣を相手にしてもか?」

「いや。勝てる気は無いぺゆ」

「おー……ん?」


 勇ましく武器を構えていたヴンナに目いっぱいの虚勢を張ったアルだが、返ってきたのはまた弱気な言葉だった。


「私の使命。組織に属する者としての使命は果たしたぺゆ。獣人も失った今、たとえわずかでも手を尽くし、どんな結果でもそれを受け止めるぺゆ」

「もう1体のギンナが来ないのは、つまりそういうことか?」

「ネラガに四竜征剣のジアースケイルがある。それを持つ者の人相も知った。その情報を持ち帰って組織で展開できれば私1体にしては十分な成果ぺゆ」

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