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#120 紛い物の奇跡とジアースケイルの雄叫び

「アル君って『奇跡』を使えたのかな?」


 ニコルのような聖女が傷の治療などの奇跡を引き起こすためには錫杖──人の胸元から地面まである杖──を要する。

 アルはまさしく見えぬ錫杖にすがっているような、輪をつくった両手を胸元に中腰でいて、奇跡を起こさんと祈っている姿勢に映った。


「いや、それは知らんが……とにかく無駄な行為はこんなとこじゃやらんだろ」

「確かにそうだ。特にアルについては知っているわけではないが、こんなところで無駄な行為はやらないはず」


 レドラは獣人を処理する片手間でニコルに返事をして、同じくジルフォードもそれに賛同した。


「それよりもニコ、こっちこそ紛れもない『奇跡』で治療を頼む」

「ああ、ますはレドラに『奇跡』での治療をしてやってくれ。聖女による紛れもない本物の……って、痛い痛い! なにをするんだレドラ!」


 がしがしと槍の石突きで尻を叩かれたジルフォードは声を荒げた。


「それはこっちの台詞だぁ……急いでんのに悠長におうむ返ししやがって……」


 必死になって『待て』と狼狽えるジルフォードだがレドラは手を止めず、反論の隙を与えない。


「いつもの長い話は後にしろ! 『わかった』、『こっちだ』だけ発してろ。いいな?」

「は、話が長いのは生来だ、意識して直すのはそうできない……。だが『わかった』と『こっちだ』だけでは肝心な時に正確なやり取りはできない。もしも獣人が、いや今はモグラにキジの獣人、その二手できている。その襲撃を伝えるには少なくともその種類か、注意すべき方向のどちらかを使用しないと対応できない……痛っ! ちゅ、注意はわかるが少しは加減できないか!?」


 傍目にはぎすぎすしていたがニコルは黙ったままでいる。


「赤おじさんも毎度よく飽きないね」

「……まさかこれをいつもやってんの?」

「なんだかんだ動きもキレが出てくるから」


 ニコルに対し不安な顔のレーネだったが、そんな心配をよそにレドラ達は立て続けに獣人を2体撃破していた。


「ああしてお互いに鼓舞してるのかもね」

「なるほ……ど? そんな理屈あるかしら……」

「それで、アル君は何してるかは心当たりはどう?」

「期待できないわよ。できて何かを見えなくしてるだけだし?」

「え、それもすごいんじゃない?」


 アルのそれはニコルにとっては初めて聞く能力。

 気になってその挙動をよく見ておこうとするが、視覚にさえ影響するまである騒音により邪魔をされた。

 その姿を消しても健在であった、四竜征剣の一角であるジアースケイルの奥義の雄たけびだ。


『セイス・ヴォルケーノ』!!!


「ひああ!? なに!?」

「……な、なんだー……?」


 迫真の叫び声をあげるニコル。

 アルはそれに次いで自然を装うためにわざとらしく驚いてみせた。


「『セイス・ヴォルケーノ』っ……おい、ギンナ!」

「ああ、私達は()()()を引き当てたごろ……!」


 にやりと不敵に笑い合うギンナとヴンナ。

 その視線はやがて、迷うこと無く他でもないアルに定まっていた。


「……!? この熱気は……アル、これが『例の』、の力か……?」


 人造人間の2体を除く、その場の全員の額には一瞬のうちに汗が噴き出していた。

 獣人が掘っていた穴からは陽炎を伴った熱風とともに、弱々しく震えるモグラの獣人が這い出てきていて、だがしかしそれも間も無く灰となって崩れ去っていく。

 初めて四竜征剣の力を目の当たりにしたサジンはアルに尋ねた。


「ああ。とりあえず溶岩を発生させて地上(うえ)に引きずり出そうとしたけど、あの様子だと全滅できてるかな?」

「そうか、這い出てくるまでに力尽きていると……」

「残りは空の方だな。じゃあ次は」


『セイス・プロミネンス』!!!


「! アルさん!?」

「来るな! そっちまで巻き込みかねない!」


 アルはオルキトほかを突き放し1人でその場を離れ、厚い炎の壁で分断する。

 が、アルの希望に反してギンナとヴンナまで締め出してしまっていた。


「やっちまった……けど自由に動けるんだし。『セイス・カタパルト』!」


 炎の壁の向こうでジアースケイルの不可視化を解いたアルは、間を空けず真っ直ぐ伸ばしたジアースケイルの切っ先から岩を発射して一部の壁を破った。


「そっちは飛んできてくれる……よな? すんすん……あ! 延焼も消さなくちゃ!」


 森の木々が焦げる臭いに慌てたアルは、直感的に天然のものや魔法に限らず炎を限りなく吸い取る奥義を発動。

 少なくても多くても不適切となる薬品の調合、まるでそれをしているかのように、消火活動をしつつ炎の壁を維持し続けた。

 そうやってしばらくすると、壁に空けた穴からキジの獣人とそれに抱えられたヴンナが飛来する。


「降ろせぺゆ」

「あの高さからか!?」


 木を伝って抜けられないほどの高さに空けた穴だったが、ヴンナは躊躇無く降下の指示を出させて、見事な受け身をして無傷で着地した。


「いや、あいつらは特別頑丈ってこともあり得るか」

「やれ」

「そしていきなり攻撃かよ!」


 黒く光る笛が無情に鳴らされ、アルが壁を直すのも間に合わず6体ものキジの獣人が壁内に侵入し、そのまま急降下による攻撃に移った。

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