表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/238

#119 探り合いと双方それぞれの加勢

 ぴゅうっ、と音を立てて空を切るオルキトの拳や蹴りは致命傷にはならないが迫る獣人を力強く押し退ける。


「相変わらず弓を使わないね、君は……」

「そんなことよりアルさん。気づいていますか」

「あー……なんとなくは」


 隙を見てぷらぷらと手首を振って緊張をほぐし、荒い息遣いでいるオルキトは、平気のはずは無いとアルにも見ただけでわかる。


「ユンニの獣人と比べて手強くなってるのか」

「ええ。今まではヒトの頭部のみが動物に変わっているだけでしたが、今対峙しているモグラの獣人はその腕もヒトのものでなくなっていて、『地中に潜る』という特性を得ています」

「そのおかげで探知にかからなかったし、なまじ交戦経験があるからかレーネは特に苦戦してるな」


 強力な雷魔法を繰り出しているレーネだが、獣人はあちこちにしかけた穴を移動することでそれを回避し続けている。


「それに指令を出しているギンナ。おかしな語尾は気になりますがそれよりも、ハンナ達と違って行き当たりばったりの命令ではなく、非戦闘職を狙うなどの落ち着いた判断もしているようです」

「……読書にふけったり絵を描いたりもしてな。語尾の代わりに知性でも得たのかね」

「その絵を描いているヴンナはどう思いますか。まだ目立った動きは無いですがもし、強化された獣人の別の種類が出てきたら」

「ぶらうんの探知で地上の状況は洗ってある。それにアイツらのことだ。賭けにはなるがもしかしたら地中を巡って勝手に混戦でも引き起こしてくれれば……」


 アルがそんな、仲間内での自滅を期待しているとヴンナは、騒ぎで集中できなくなったか道具を片付けている。


「『変なの』とは別に、あの赤い鎧。ただの槍術師(ランサー)ではないらしいぺゆ」


 モグラの獣人、その全数を把握していたのは直接管理をしていたギンナだけであったがぶらうんとレドラにより討伐された数はその場の誰もが知っており、対峙しているジェネシスと冒険者一行との間でその士気に大きく影響する。


「だいたいの観察は済んだろうし、ヴンナも出るごろ」

「わかったぺゆ」


 スケッチブックに替わりヴンナが取り出したのはギンナのと同じ笛。

 それを短く鳴らすと冒険者一行の目にふっと影が差す。


「上から来るよ!」

「……! 地中の次は空中かよ……!」


 コトハの高すぎない声はよく周囲に通り、またなかなか耳にしない大きなものだったのでよほどの緊急事態に際しているとアルは反射的に理解した。


「キジ、キジキージ」


 キジの頭だけでなく、背中にも翼を生やした獣人が数体が上空にて等間隔で並んで円状に飛行していた。


「お、オルキト。拳闘じゃあだめだ。弓で撃ち落とさないと……」

「違う! 動揺して視線を上に移せばモグラの獣人は今の目線よりも下、地中から狙ってくるおそれがある」


 実戦での戦闘経験があったサジンはアルの発言を遮り、オルキトの注意を地上へ引き留めさせた。

 そして盾での防御を今までよりも上方に角度をつけ、キジの獣人を迎え撃つ構えとなる。


「アル君、準備をしておいて」

「準備……?」

「とにかくそっちへ向かう」


 ギンナが指示したかく乱を経て、初めにジェネシスと接触していたアル組(アル、オルキト、サジン)と、一方で待機していたレドラ組(レドラ、ジルフォード、ニコル、コトハ、レーネ)とそれに合流したぶらうんの2組に分かれていた冒険者一行。

 だしぬけにコトハはレドラ組から離れてアル組へと合流しようとしていた。


「妙な動きを……!」


 獣人の調子に合わせて安定していた陣形を抜け出した非戦闘職のコトハを見て怪しんだヴンナだが、むしろ好機と捉えてキジの獣人へ急降下での攻撃を、腕ごと使った指先での動きにより指示した。


「キジぃ!」

「ふっ……『彩光(カラフル)』」

「……!? きっ……」


 真っ直ぐコトハを目指して降下していた獣人は、そのコトハの手から放たれる赤や青、緑の光線を目の当たりにすると急旋回して大空へと帰っていく。


「『彩光』……ただ光るだけの低級付与(エンチャント)、それで獣人を退けたぺゆ……?」


 ヴンナは悔しそうに、コトハの飾り気が無い安物のアクセサリを睨んでいた。


「本当はもろもろの実験用だったけど、飛行能力を備えた鳥類には、獣人も例に漏れず効果的だったみたいだね」

「コトハ! その口ぶりだといちかばちかだったのか……無茶をする」


 アル組に合流する前に心配してサジンが駆けつけるのだが、コトハは短く断りを入れてすぐさまアルに寄っていく。


「彩光はあくまでその場しのぎに過ぎないから。地中の対処はお願い」


 獣人は光の刺激に過剰に反応しているだけで、加えて攻撃の手段ではなく、いつまでも戦闘は平行線のままだとコトハは訴えた。


「対処って……やっぱりアレ?」

「他になにかできるの?」

「ええ、そうですかい」


 コトハ以外にも期待の眼差しとはまた違う、脅迫に似た視線を感じたアル。

 オルキトにサジンだった。

 それに応えるようにアルは両手に力を込めた。


「『ジアースケイル・()()()()()()』」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ