#116 ネラガとユンニのユニークな役割
「『くま耳魔法少女』は前衛に後衛、なんでもできちゃうけど今回に限っては先導も兼ねて前に出るよ」
午後になり、ぶらうんが担当する2つのパーティはネラガの北にある森に集合して編成の相談をしていた。
「じゃあ私達は今日は、前がレドラのおじさんで後ろがジールね。私は真ん中」
先輩冒険者が組んでいるパーティ『大鷲の誇り』はその経験と、人数も少ないのでさっさとニコルが担当を割り振る。
「ニコル達と組ませてもらっているから、兄さんが不在だけど私達もいつもの通りだ」
ウジンがいない穴が懸念事項だったらしいが、ニコル達のパーティの協力があったため大きく変更はしないとサジンは判断した。
「サジンさんが前で僕とレーネさんが後ろを担う、ですね」
「ああ。ただし」
「ただし?」
オルキトが念のため確認をしているとサジンは一言付け加える。
「ジフォン組は真面目にやれよ?」
直近の不祥事発覚によりサジンはアルとコトハには厳しい対応を見せている。
コトハはともかく、戦闘能力を備えているはずのアルを守ることにもどこかやり切れない不満を持っている、そういう顔であった。
「課題もお忘れ無く」
「がんばれアル君」
コボルトチャレンジ(コボルトとゴブリンの判別)についてはサジンとレーネに共有されておらず、それを気づかれぬように挑戦することも含め、クエストおよびアルの試練が始まった。
「ユンニにもユニークな役割があるんだね。猛獣殺しかぁ」
道中はぶらうんが興味津々という様子でレドラに話を振る。
「俺にとっちゃアンタも珍しいがな……」
そう言いながらも手にした槍を掲げてみせる。
それはよく手入れされていた。
「まあ言葉の通り害獣の殲滅に特化した役割だ。けど例えば同じ得物を使う槍術師とは大きな違いがある」
「違い?」
「向こうは要人の護衛とかで対人戦も想定してるがこっちは害獣専門。各種害獣に対応した技を習得してる」
「じゃあ今探してるコボルトも、ってことかな」
「おう。新しく詰め込むのはきつくなってきたが、既存の種なら誇張無しで図鑑並みに、その姿に急所やらはこの頭に記憶してる」
レドラはそうやってはにかみながらこめかみを指で叩く。
「確かネラガのコボルトは鬣鱗、首の後ろにある鱗が黄土色だったよな」
「うん。そうだけど……ユンニは違うとか?」
「ああ、なんだと思う?」
と言いつつ、レドラは鎧の胸辺りをわざと叩く。
「わかった。赤だ」
「ははは、そうだよ」
へー、とうんうん頷くぶらうん。
ただ感心していたのは彼女だけでなく、図らずも参考になる情報が得られる可能性があったためしれっとアルは聞き耳を立てていた。
不可抗力で仕方がなかったためオルキトは強く咎めることはしなかった。
「それでジルフォードは魔法剣士だっけ?」
ぶらうんが次に話を振ったのはジルフォード。
別に聞いても損は無いだろうと、せっかくなのでアルも耳を傾ける。
「魔法剣士はただの剣士ではなく魔法を交えた戦法を得意としている。一番の特長は至近距離から遠距離までの戦闘を幅広く対応できることで、今回こそレドラが前に出ているが普段は俺が前衛を担当している。ただ、あえて言うなら『汎用性』と言うが、それがあるからと言って万能でもない。と言うのも魔法剣士の魔法は魔法使いの魔法とは発動の仕組みがそれぞれ別で確立されていて、実質の共通点が無い。と言うのもこの『魔装剣』が……魔法剣士のほかにもいるらしいが『固有武器』である、特定の役割だけが扱える、俺にとっての魔装剣がその力の源で、魔法使いだとかのノウハウが流用できない。一応先に言っておくが、さっきレドラが珍しい役割と言ったが別に猛獣殺しにはそういう固有武器は無い」
ぴいひょろー、とトンビが空高くで鳴く。
それを合図にしてその場の全員に緊張感が走った。
まず話を振ったぶらうんは、薄く口を開けて適切な質問を模索している様子であり、その一方でなにかに気づいたアルはその異変に近寄っていく。
「レーネ? レーネどこに行く?」
「なっ! 寄ってくんな!」
「おい逃げるな」
歩調を緩めていたレーネの脇にしっかりつくアル。
そして小声で話を始める。
「なに? ジルフォードってあんな感じなの?」
「いや……ニコル以外はほぼ初対面」
「じゃあ質問」
訝しい顔のレーネだがアルは質問を強行する。
「『魔法剣士』って『剣士』と何が違う?」
「魔法も使える」
「どうやって」
「『固有武器』の『魔装剣』」
「うーん。剣士でも魔法使いでもないと利点は?」
「臨機応変で幅広い攻撃範囲」
「……本当に初対面?」
「いや全部話されたちゃったから……」
「さてどうするのか」
2人はひそひそ話をやめてぶらうんの動向を伺う。
「ちなみに魔装剣の名前は?」
「この魔装剣の名前は『アイアンエッジ』だ。そうだな、使い始めたのは冒険者になった頃から──」
ジルフォードは聞かれてもいないのに──まだぶらうんが聞く予定があったかもしれないが──名前に次いで使用歴に、兄から引き継いだことなどを全て話し尽くした。
『そこまで話せとは言ってないんだよなぁ……』
アルは割って入る隙も無く打ちのめされたぶらうんに同情していた。
「ぶらうんの」
「……うん?」
そんなぶらうんに声をかけたのはコトハ。
「ぶらうんのその武器は……ステッキ? なんて名前なの?」
「……! よくぞ聞いてくれたね!」
『コトハは興味本位で聞いてるのか知らないが。まあ、ぶらうんが嬉しそうならいいか』
それからしばらくは、ぶらうんはコトハから逆に質問をされたのであった。