表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/238

#113 既知と未知の情報の混濁

「この四竜征剣、4本揃って見ると昏睡状態になる説がある」

「確かにそんな迷信はあるが」


 やはり冒険者の間では『四竜征剣を全て抜かせたら命は無い』という誇張された噂が一般的で、サジンも例に漏れずそうであった。


「なによりそれら全てが揃うなんてこと滅多に無いと思う」

「それがあり得るんだよ。話は前後するけど、例の手紙だってダースクウカを持った冒険者を指名してただろ?」

「え? え? でもでもでもこれはジアースケイルだろ? もしかしてもしかして?」

「落ち着け。なんか話し方がおかしい」


 ジアースケイルを見て興奮していたサジンは、もう1本の四竜征剣の存在がほのめかされておかしな気分になっている。

 事実、確かに間違ってはいなかったが鼻息が荒いサジンをなだめるのが優先事項だった。


「手紙、ってなんのことですか?」

「……怒んないでね?」


 絶妙に出会うタイミングが噛み合わず手紙盗難事件の真相を知らなかったオルキト。

 そのためアルはその日2度目の懺悔をすることになる。

 オルキトはアルについて未知だった事実に悔しそうな顔を一瞬したかと思うと、転じて目の奥にぐっと力を宿らせ穏やかな笑みを浮かべていた。

 若干アルは恐ろしく感じた。


「あれ? オルキトはそのことで監視をしていたんじゃないのか」

「僕は恩返しのためにアルさんのそばにいるんです」

「そうだ。オルキトは冒険者を辞めかけてたのを解決してもらっていたんだったな」

「はい。忘れられない大切な……っつ」


 オルキトが誇らしげにエピソードを話そうとするが、何かに気づいてぱっと後方を振り返った。


「もう、オルキトったら勝手に抜け出して」


 わざとらしく額を拭いながら現れたオルフィア。

 弟のオルキトを探しているように装っていたので、アルはうんざりした顔でいた。


「あっ、ジアースケイルが……って、そういえばオルフィアさんも……?」

「ええ、サジンさん。四竜征剣のことも手紙のことも聞いていたわ」


 サジンはジアースケイルの前に立ちはだかってそれを隠そうとしたが、すでに話が通っているオルフィアは騒いだりはせず心配には及ばなかった。

 しかしアルには納得いかないことがあった。


「オルキトもだったけどお姉さんに手紙のことは言ってなくね……?」

「アルさんアルさん。『聞いていた』、ということですね……」

「もうやだ怖いよこの姉弟……」

「すみません、姉が」

「姉弟、って言ってるだろ」


 アルの愚痴は都合よく聞き逃される。


「それより、これが四竜征剣なのね」


 オルフィアは身を潜めること無く堂々とジアースケイルを間近で見つめる。

 わざわざ会話に参加してきたのはそれが目的であったようだ。


「よし。一応私も落ち着いてきたぞ。話の続きだ」


 見知った顔が集まってきて普通にやり取りしてるのを見ると緊張が解けたか、サジンの顔に普段のきりっとした雰囲気が戻ってきた。


「話ってどこまで進んでたんだっけ?」

「衛兵に連行されたところで脱線していたわ」

「よく知ってますね。はい、助かります」


 良くも悪くもオルフィアのおかげで話を仕切り直せるかと思うかと、その後がややこしくなった。


「レーネも呼ばないといけないか?」

「いいえ、サジンさんの場合はやむを得なかったけど、いたずらに四竜征剣のことを広めるのはいい手ではないわ」

「ああ、そうなんですか……」


 オルフィアがサジンに注意をしている一方。


「あの、アルさん。さっきからコトハさんはなにをしているんですか」

「あー……ずっと黙ってたけどまだ木と話してるな」

「なんですかそれ」

「お前は俺しか見てなかったのか、っての」


 会話に参加できていなかったコトハのフォローに向かうアル。


「あー、いたいた。みんないないと思ったらこんなところに、オルフィアさんまでいる」

「だー! なんでレーネまで来るんだよ!」

「なによ! 私がいたらまずいっていうの?」


 パーティのメンバーが不在で探しに来たレーネが合流してきて、アルは間一髪でジアースケイルを地に還した。


「なあアル。その『例の』は抜きにすればレーネにも話せるだろう。だからここではなく宿に戻ってからにしないか」

「いや、オルキトの家はもののけが、その……」


 びしっと聖獣もとい害獣のことを明かしたかったが、サジンはどうしてもアルの体調不良を疑う。

 すると不意に肩に手が置かれ、意外な助けが入る。


「ツバキのこと、でしょう?」

「お姉さん……? そうか!」


 アルと同様、ツバキはオルフィアが盗人(シーフ)である秘密を知っていた。


「事情は違えどお姉さんもあの『苦労』を……」

「イヌが苦手なのね。オルキトが吠えられたのを見て」

「っつ、ま、まだだ……どっちなんだ……」


 人の目があって暗号を使っているのか、アルはすがる思いで信じる。


「……いや、もし俺がそうなら飛空艇に乗ったきり、さっさと逃げてるよな」


 四竜征剣への特別な関心などを微塵も見せていなかったこともあり、アルはオルフィアとツバキが無関係であると判断した。

 そうして仕方なかったので勘違いに乗っかり、もろもろの相談を終えたのであった。

レーネ(+ウジン)を除き諸々の情報を共有完了。

改めて読み返すと尺を割きすぎてしまった印象……次回はクエスト(の支度)からになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ