#112 自白とオルキトの証言
「こうなった以上は黙って見過ごすわけにはいかないか……」
もういい、と全ての秘密を受け入れる覚悟をサジンは決めた。
たとえば数年先を見据えてアルは去っていっても、コトハに一方的に疑念を抱いたままでは真の仲間とはいえなかったのである。
「で、俺はなにしてたんだ?」
間抜けな質問をしたアル。
しかし心当たりがあったコトハに尋ねるのが手っ取り早かったのだ。
「サジン達と初めて森の調査クエストに出た時、貴重な植物に損害を出した」
「あー……獣人がいるかどうかの調査だったな」
「うん。森に杭を打っていくやつで、最後はウシの獣人がいた」
「おう、オルキトもレーネもいないほど前のことだったし補足ありがとう。実質初めて受けたクエストだからよく覚えてるぞ」
サジンもまた、唯一アルとともに受けたクエストだったこと、そして別に気になっていたことがあり頭に残っていた。
「アルは通りすがりの冒険者を見たんだよな?」
「ああ、そうだ」
「……なあアル。もしかしてなんだが、あの『見えなくなる能力』に似た武器を他に持っているのか?」
でないと、とサジンは口調を改めた。
「樹木の損害を出すことも、獣人を3体も立て続けに討伐するのもできない」
はっきり、断定まではできていないが、サジンはアルの秘めた力に気づきかけていた。
「通りすがりの冒険者はそれを隠すための方便か」
「……冴えてるな」
「聞かせてくれ」
動揺して使い物にならなくなっていたコトハを守るわけではないが、告白をするには相応しい雰囲気だと確信したアル。
「オモテの四竜征剣を預かってた時期があって」
「オモテ? なんだそれは」
「ここに来て知名度の弊害が……ああ、余計なこと言ったな」
「って四竜征剣だと!?」
ひとつ間が遅れてサジンが驚愕した。
目を丸くして口をぽかんと開けているが、その顔もじわじわ陰っていく。
「言いたいことはわかる。だから今ここに」
決してふざけてからかっているわけでないことを示すため、アルはサジンに有無を言わせず地面から四竜征剣の1本を抜刀した。
「『ジアースケイル』だ」
「まさか……いや、そんなはずが……」
剣士の教科書にも載るほど有名な武器であったことは、それをじっと見入っているサジンの反応から明らかだった。
しかしまだ本物だと信じ切ってはいない雰囲気でもある。
「それ、本物ですよ」
「……っつ、オルキトか?」
そこにジフォン組ではない、信頼できる証言者となるオルキトが現れたのであった。
「いやぁ、いつもの通りアルさんを見てたら暗がりに隠れていったので後を追ったら……どういう状況ですか」
「……なるほど。オルキトはアルの監視を務めてるんだな」
「ええ、放っておけませんから」
「今まで気づかなっただけで、そんな困った奴だったのか」
『言い方があれなだけで、相対的にオルキトの評価が上がってないか? 腹立つな……』
アルはそう言いたかったが、頼りはそのオルキトしかいなかったのでぐっとこらえる。
「な、なあ。そうなるとやっぱりこれは……伝説の『ジアースケイル』」
「まあということで、実際に獣人を討伐したことがあってな」
「はー……」
「なんにも耳に入ってこないか」
そうですよね、とフィーネとの件で四竜征剣の桁外れな力を目の当たりにしていたオルキトは、サジンに同感していた。
「いずれ僕達以外にも明かすことがあるのは仕方なかったとはいえ、気をつけてくださいね」
「気をつける?」
「オモテの四竜征剣の特性です。仕組みは不明ですが全てを目にしたら昏睡するという」
「ああ、あの不審な事件か」
ジアースケイルに見とれていたサジンだが、物騒な言葉には敏感に反応してはっと目を見開く。
「昏睡……事件って、ユンニのか?」
「ああ、おかえり。大事な話をしとかないといけなくて」
こうしてアルはユンニでのもろもろの行動を話すことになった。