#111 ジフォン組とサジンの対立
「ごめん。場所は改めさせないでくれ。もののけがなんたらで……」
全てを明かすと言った矢先、早速ツバキの秘密で負い目を感じたアルは早口で間を空けないようにする。
「と、ともあれ、恐らくここに来てるのはカンナとアンナだ。コトハが前に俺とレーネとで一緒に見た、神輿にいたあの少女」
「あ、そうだ。あれから連行とかされてて聞けなかったけどあの子たちの正体はわかったの?」
「ニンナだから……オルキトが初めて加入した時のクエストで遭遇した奴いただろ? そいつと接触してわかったけど『人造人間』だった」
「同じ顔だったのはそういうからくりが……ってサジン? どうかした?」
不可解、サジンはまさにそういう顔をしていた。
「私が不在だったのは仕方ない。カンナとアンナという、おそらく2人が想像している軍服の少女がいることは察した」
「ああ。ニンナは見たことがあったから、見た目はその通りだな」
「いや『人造人間』って……」
「これだけはしょうがないんだ。それが一番適した言葉になる」
「うー……」
サジンはうつむいて低く唸っていた。
「次いいか? 『連行』ってどういうことだ。衛兵にか?」
それから聞き逃せなかった怪しい話題を問い正す。
「それはだな、正確には事情聴取だ。ギルドであった手紙の盗難事件で」
「そういえばそんなことがあったな。しかしどういうきっかけがあったんだ? 見知った仲だが、正直アルをねらって連行するかと言われると……」
「『何でも屋』だからだそうだ」
「そうだったのか。なんというか、大変だな」
事情をよく知られずなにかと不遇な扱いを受けているアルに対し、サジンはつい同情をしていた。
「いいかな。サジン」
「うん? どうした。コトハ」
片手のチュロスをアルに預けたコトハ。
そうして律儀に手を空けてから、会話に割って入った。
「私の知り合いの話なんだけど」
「うん」
「とある一通の手紙、宛先は確かにその知り合いのものがあったの。それを仕方がない事情によってくすねてたらどう思う?」
「……もしかしてアルのことか?」
相談を持ちかけたコトハの、その脇でそわそわしているアルを見れば誰であっても容易に察しはついた。
「でも聞いて。ユンニの獣人騒動で大切な情報を知るためだったし、私の親戚の無事を報せるものでもあったの」
「ああ、コトハのためだったんだな」
「……結果論、なんだけど……」
「え?」
ある程度の予測をもってではなく、開けてみたらたまたま情報が得られた。
コトハは小声ながらその事実を告げる。
「とりあえず実行犯は俺」
「けど教唆した、それを唆したのは私」
互いにかばい合っている2人を見て、とうとうサジンも理性の一部がじわりとほころんでいった。
「おい、ジフォン組。なんだ、ジフォンは異世界かなにかか? 倫理観はどうなってる」
「そのですね、悪いと思ってるのでこうして懺悔をさせていただいて……」
「いや、もういい。そもそも本題はそれじゃないんだ」
今はまだ優先して聞いておくべきことがあり、サジンはアルの言い分をきっぱりと断った。
「ちなみにそれ以外は一切の潔白で間違いないな? 盗んだ壊しただとか、後ろめたいことは」
「そんな蛮人みたいな言い方をして……えーと、あったかな……?」
「思い出さないでいい」
即答しないということは心当たりがあるわけで、余計な面倒を掘り起こさず穏便に済ませたかったサジン。
だがコトハの奇行を見逃せなかった。
「コトハはしゃべらないようにしてるな?」
「……」
「木と話すな。こっちを向け」
コトハはというと、木のそばに立って表情を悟らせまいとしていたのだった。