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#110 疑念と偶然の遭遇

「怪しい」


 サジンは、形式上では同じパーティであったアルの、その行動に疑問を抱いていた。


「あれだけジフォンに帰りたがってたのに、まるで正反対のネラガにまで来るなんてそれほどの目的か、または使命でもあるのか」


 人混みを避けて1人、ビュッフェを目指していたサジンはふと木に背を預けて目を閉じる。

 そのまぶたの裏に映るのは、レドラに問い詰められてネラガへ来た目的を言いよどんでいたアルの姿。


「悩んでいても仕方ないな。歓迎会が終わって落ち着いたところで声をかけて……」

「……この辺りならいいか」

「ん? この声、アルか?」


 背中よりずっと後方、入り組んだ木々の奥から目当ての人物の声を耳にした気がしたサジンは、より聞き耳を立てるために自然と抜き足差し足で辺りを探索する。


「……こんなところでなんの話?」


『これ見たことある! 知ってるぞ、『ここじゃなきゃいいんだ』につながる逢引云々の……』


 人気の無い林の中に見つけたアルとコトハに妄想をしかけたサジンだったが、その火はあえなく消える。


『まあそんなわけないか。なんたって両手がチュロスで塞がってるし』


 懐かしい子供のころを思い出させる甘い香りを放つチュロスを、まして両手に握っていたコトハには野暮な詮索が入る余地はまるでなかった。

 なんならチュロス相手に会話をしているほどにアルには注目していない。


「訳あってオルキトの家族全員には通ってる話だが、コトハにも聞いておいてほしい」


『オルキトの家族? どういうことだ……』


「そういえば飛空艇でも個室なんて待遇だったね」


『お、おお? まさに聞かんとしていたことをコトハが……って、いかんな。立ち聞きなんて』


 マナーをわきまえてその場を去ろうとはしているが、興味は断ち切れずサジンはどうにも足が動かない。


「優遇か隔離か。いずれにせよ、おおかた『例の』が関係してるのだろうけど」

「うん……察しがいいな」


『『例の』? 2人の間の秘密かなにかか』


「もう耐えられないんだ。聞いてもらうだけでいい」

「もぐ」


『食べてる場合か……そしてアルは別に気にしていないし』


 チュロスを頬張り始めたコトハ、そして身を潜めているサジンに対してアルが口を開いた。


「今回の獣人騒ぎ、原因はたぶん俺でーす。なーんて、あはは……」


『!?』


「うおお!? なに? なに?」


 がさがさとサジンが、アルの告白に驚いてそんな物音を立てると、一方のアルも悲鳴をあげた。


「なんだ誰だ!?」


『ええい、仕方ない』


 サジンはまずゆっくりと息を吸った。


「にゃ、にゃああ……」

「ごめん。下手」

「くっ、悪かったな」


 あっさりコトハに正体を見抜かれたサジンは観念して姿を現した。


「たまたま立ち聞きしてしまってな。悪かったと思っているが、このまま無視はできない」

「サジン……」

「じろじろ見るなよ? ほら、早く話すんだ!」


 主に恥辱、ついでに怒りで赤くなっていた顔を、つんと向こうに背けながらサジンがアルに詰め寄る。

 事故とはいえジェネシスのことを話さねばならなくなったが、そのためには大きな力である四竜征剣のことを明かさねばならない。

 困ったアルはコトハに目で判断を仰ぐ。


「アル君がここまで来た、その覚悟に従えばいいと思う」


 最後に答えを決めるのは強行しなかったが、背中だけは押してくれていた。


「少なくとも私は今後もサジンといい関係でいたい。このネラガを出た後も」

「……コトハにはまだまだ長い付き合いになるもんな」


 コトハの後押しに甘え、アルの方から話を聞いてくれとサジンに頭を下げたのだった。

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