#109 ユンニの同志とアルの評判
「いいなー。500レルでそれだけ盛り上がれるなんて」
「あのだな……そんなに楽しいものでもないんだ」
「いいのいいの。駆け出しはこうやって衝突してこそだもん。うちのおじさん等ときたら、お菓子には目もくれずやれ肉だ肉だー、って」
べたべたとサジンに付きまとっていたニコルは愚痴を垂れ流していたかと思うと、アルの姿を見てすぐにそっちへ興味を移した。
「初めましてだね。ようやく噂のアル君に会えたよー。私はニコル」
アルはニコルの気さくな態度によって警戒する間など無く握手を交わした。
「なあサジン、この人は?」
「先輩冒険者で、近所同士、私達兄妹の昔馴染みなんだ。で、ここにいるってことはきっと飛空艇にいたはずなんだけど……いったいどこに?」
サジンの質問に近づいてくる男の影が答える。
「年頃のお嬢様だってのに俺らの部屋に入り浸ってたんだよ」
「いいじゃない。親戚同士で水入らず」
「あーあ、せっかく子守りから解放される時間だったのにな」
「ジールのことね?」
ニコルは近づいてきた2人組のうち、中年の男の脇にいた仮面で目元を覆った青年に寄っていく。
「レドラはニコのことを言ってる」
「もー、つまんない返事」
「だが事実だ」
仮面の青年ジルフォードとニコルがじゃれ合っていると、もう1人の男レドラがふっとアルを見て笑う。
「アリュウル・クローズっていうんだったか。久し振りだな」
「……えーと」
「はは、一張羅じゃねえとわからないわな」
ニコルを経由して名前は知られているらしいが、アルには冒険者の顔見知りに心当たりが無くユンニでの記憶を探っているとレドラからヒントを出された。
「ほら、オルキトのことを教えてやった時のさ。赤い鎧で槍を持ってた」
「オルキトのことを? あの時は……」
初めてオルキトを見た時は後ろ姿だけで、その前後の行動を思い出してみるとアルは、ああとうなった。
「赤い鎧の槍使い。ギルドで素材を買い取っててもらってた冒険者だ」
「猛獣殺しのレドラだ。改めてよろしく」
物騒な役割に顔をひきつらせたアル。
そんなレドラに次いでニコル達も役割を交えた自己紹介をする。
「私は聖女の役割ね。でこっちは」
「……ジルフォード。役割は魔法剣士」
「ジールとレドラはそれぞれ私の従兄弟とおじなの。今はレドラからいろいろ教えてもらってるところ」
親族で結成されたパーティとのことで、少なくともアルには愛称で呼び合ったり憎まれ口をたたき合ったりと、血縁によるものかその親密さが散見された。
「それで、アル君のことはサジンから聞いてるよ」
「俺を?」
「優秀な人事がいるって」
サジンは開き直って頭をかきながら笑う。
「ほら、今までレーネとオルキトを紹介してくれててさ。その経緯を話してるうちに『敏腕人事』だって、ニコルがだぞ? 勝手に盛り上がってしまったんだ」
「それで、今回はネラガにまで手を伸ばしに来たんだ? あ! もしかしたら私達にもついでにいい出会いがあったりして」
「……ついてくる気じゃないよな」
「ほう。それもいいかも」
見えぬところで受けていた奇妙な評価だったが、決して悪くはない印象を持たれていてアルはくすぐったい気持ちだった。
「おいおい、俺等は獣人を獲りに来たんだぜ。アルもそうなんだろ?」
「まあ一応は」
「ええ? 『一応は』ってなんだよ」
いまだ心ここにあらずといった風のアルに、レドラが会場のあちらこちらを指で示す。
「冒険者の経験でわかるが、手練れがちらほらいる。うかうかしてると手柄をとられちまうぞ」
「……! そうか!」
目に生気が戻ったアルに応えるように笑うレドラ。
「ふふ……この場のほとんどが獣人の討伐を買って出た冒険者なんだ」
図らずも自らの使命と同じ目的を持った冒険者という、心強い加勢がいたことに気づいたアルはにやにやと笑っていた。
「レーネちゃん。アル君って普段からこんななの?」
「どうせろくなこと考えてないよ」
「気になる人材でも見つけたのかねえ」
そしてその様子はニコルとレーネに予期せぬ憶測を呼んでいた。
※500レル問題は、カップケーキの中身を知らないニコルがランダムに分けて解決した