#107 歓迎会と500レルの試練
ツバキとの剣を交えた会話の後、アルは逃げるように歓迎会が開かれる、飛空艇が泊まる広場へと向かっていた。
大勢の人の目に触れるのはツバキにとっては避けたいだろうし、アルにとってもパーティメンバーと話していた方が気が紛れるという考えだった。
そうして日が暮れるにつれ、ユンニからの冒険者を歓迎する催しに期待する群衆の喧騒で色めきだっていく。
オルキトを除く『星の冒険者』一行も、名札が立てられたテーブルを見つけて他のパーティもそれぞれ固まりを作っていた。
訪問者のユンニに加え地元のネラガの人間も参加して平均して3、4人のパーティが数十揃っている。
「乾杯の準備でこれから飲み物を配りますね」
司会のオルフィアの指示でオルキト、そしてアルがすっかり飛空艇の何でも屋とみなしているデクラルとラウゲンのコンビが手分けしてテーブルを周る。
「……落ち着かねえな」
アルはオルキトにグラスを受け取った後、ふざけたデクラルからもグラスを渡されていると舞台の上からちらちらオルフィアの視線を感じたので仕方なくきゅっと目をつぶってやり過ごす。
しばらくして乾杯の音頭がとられ、アルは目をつぶったまま両手のグラスを突き出すとレーネ以外はその相手をしてくれていた。
「それではテーブルの上の……あのー、あれです。銀のふたを開けてください」
「クローシュな」
アルは小声で突っ込んだ。
そしてひとまず片手のグラスを飲み干しテーブルの上、銀のボウルをひっくり返したような見た目の食器、クローシュを開ける。
そこには人数分の一口大のカップケーキが並んでいた。
「食べる時は気をつけてくださいね。テーブルごとで1つ、あたりのくじが入ったものがありますから」
オルフィアの注意を聞き、あちこちで笑い声が飛び交いざわつき出す。
「レーネ、安心して食べられるのはどれ?」
「コトハ? 鑑定眼で見ればいいの?」
余興より食欲が勝ったコトハに頼まれて『あたり』を探すレーネだが、問題が起こった。
「これかな」
レーネはカップケーキを1つ、自身の方へ寄せた。
コトハは残っているものから手に取る。
「あー、2人とも喧嘩するなよ」
「ん? ……あ」
アルがコトハに次いでカップケーキを取ると、残ったのはレーネがわざわざ除けたものを含んだ2つ。
鑑定眼で中身を覗いたレーネは当然わかったが、サジンも答えを察して声を漏らした。
「……アル。意地悪なことをするんじゃない」
アルがしたその作為的な行動に、サジンは腕を組んで不満を表していた。
横からコトハもそれに口を挟む。
「あ、そういうことか。レーネってば時々予想外なことをする……」
「今気づいたのかよ」
残ったの2つのうち、レーネが除けた方があたりだとはっきりしていた。
サジンかレーネのどちらかが、責任を持ってあたりをひかなくてはならなくなったのだ。
「……後は任せた」
「やかましいわ。元凶めが」
複雑な顔で目を伏せたコトハに、口をいーっとさせたアル。
それと同時にそばのパーティから喜びの声が耳に入ってきた。
「わーい。当たった当たった、500レルだー」
自分の失敗を認めたくなかったがために、いじけて不機嫌になっているレーネにアルは声をかけた。
「入ってんの? 500レル硬貨?」
「……うん」
「なんか微妙に気になるものを入れやがって……」
クローシュのことに次いで、またもオルフィアに毒づくアルだったが、現在際している事態は何も好転はしない。
かくして500レルを巡り、『星の冒険者』としての初めての試練が降りかかった。