#10 双子と肩書きの価値
朝食を終えたアルとコトハは、主にクエスト受注の手続きをするギルド2階に案内された。
2階にはクエスト受注のカウンターのほか簡単な打ち合わせもできるテーブルもいくつかあり、そのうちのひとつにサジンと同じ顔をした男、ウジンが腰掛けていた。
「アリュウル・クローズだ。アルでいいよ。えーと、コトハさんの舎弟やらせてもらってる」
「そうなの? いつの間に」
「……まあ軽いジョークだって」
ただの何でも屋に過ぎないアルは、パーティを組んで冒険者として順調に成長しているコトハの邪魔をしないようにおどけながら挨拶をした。
コトハからはアルの真意とはややずれた反応をされたが笑って流す。
「兄さん、アルは獣人のクエストに興味があるらしいから話に同席だけさせてほしいって」
「うん……話を聞くだけ、ならね」
「……さ、アルもコトハも座って」
一度、不思議な静寂を挟んでから4人での打ち合わせが始まった。
「西方の森でウシの獣人の目撃情報が多数あり、現地の調査ひいては討伐をしてほしいとの依頼だ」
「実害は出てないの? 正直言うと優先度は低いと思うけど」
「ああ、僕も肩透かしに終わるリスクを考えると受注すべきか迷っている。当然なにも無いに越したことは無いが、今後増えるかもしれない獣人の出現に備えた、いい訓練にもなるはずだ」
サジンに自身の考えを説明したウジンは、それを聞いていたコトハにも意見を求める。
「コトハにはフィールドワークの知識をもって、普段の通り森での案内を頼みたい」
「わかった。あの辺りの植生も記録できる」
コトハはパーティ内の役割を確立しており、打ち合わせは順調に進む。
「アル君はどうする?」
「俺は……」
アルは迷ったふりをしつつ、既に決めていた返事をした。
「俺はいかない方がいいだろ? ただの何でも屋だからな」
「そうか。話が早くて助かる」
自らの口で言い放ったことに間違いないが、冷たい反応をされたことにむっとしているとウジンはそれを見抜く。
「すまない。機嫌を損ねてしまったのは申し訳ないが、アルのことを守ることにもなるんだ」
「……そう、兄さんの言う通り、何でも屋の冒険者は具体的な経歴が無いから、実力を伴わないことが多くてどうしてもイメージが悪い」
「やむを得ない事情を抱えている人間も一定の数いることはわかっているが、大半が軽率な考えで転身した無計画、無鉄砲な人間で、遭難や害獣の餌食になって他の冒険者の足を引っ張ることが問題になっていた」
「そんな事態を鑑みてギルドは近年、ギルドカードによって実績や資格を明記し、依頼書も条件をはっきりとさせて冒険者の質を向上させている」