#105 アルとバルオーガの心労
「なに、オルキトも四竜征剣の1本を手にしていたのか」
「話せば長くなるんですけど、今回のネラガの獣人騒ぎにつながることもあって……あのですね」
「獣人と? どういうことだ?」
「すみませんでした」
「……なぜ頭を下げている」
深く頭を下げたアルが正直に事情を話した。
「獣人はジェネシスという組織に操られていて、俺はその幹部の2人を追うためにここまで来ました。というのも……ユンニから少しでも遠ざけようと咄嗟にネラガへ向かうように唆したのが、紛れもないこの俺なんです」
「うわー、自分勝手なやつ」
「おい、アンタが言うな」
「私はちゃんと合意の上だから」
「あんな不平等な契約でか?」
「この家に聖獣の加護を与えてますけど」
アルとツバキがばちばちと火花を散らしていると、バルオーガが手を叩いてそれを止める。
「くわしく事情を聞きたい。アル君がそうまでする相手なら対策は早めに立てたいからな」
「あー、俺はそもそも冒険者じゃないんですよ。故郷に帰る資金を調達するために仕方なく『何でも屋』として始めて」
「ううーん……ならその四竜征剣は?」
「正体不明の冒険者に押しつけられて……そうだ、この話はオルキトとお姉さんも知ってます」
「ああ、オルフィアのことか」
アルはつい癖でそう呼んでしまい、慌てて軽く咳払いした。
「あの盗人娘ね」
「おいツバキ!」
ツバキに反応して声を荒げたバルオーガ。
しかし完全に遅かった。
「犬にもバレてるじゃないか……」
「誰が犬よ!」
「いや待った。アル君?」
アルと目だけのやり取りを通じて、バルオーガの顔は血の気が引いて真っ青になっていく。
「……すまない、一晩だけ頭を冷やさせてくれ」
なんと声をかけようかと迷った挙句、アルは結局膝の上で拳をもどかしそうに握る。
そして武器庫を出るバルオーガを見送った。
「どうでもいいけどその贋作を持ってたやつのことを聞かせなさい」
「待て1つ言わせろ。なんで口に出しちゃうのかな。害獣としての居候含め、今のところバルオーガさんの心労の全部の原因になってることだけど」
「知らない方が幸せだったって?」
「っつ……」
「その『組織』の処理をだまーって済ませたら万事解決。なのはアンタだけじゃない?」
ネラガ、およびレジスタンスの1人がいたリワン村が襲われる原因に心当たりがあったアルだが、改めて考えてユンニが襲われたのは順にレジスタンスを追っていたためであった。
たまたまリワン村の隣がユンニだっただけで、大陸を辿っていずれはネラガまでその侵攻の手が迫るのは全く無いことではなく、情報の展開で損をすることは無い。
「けどお姉さんのことだけはジェネシス……獣人のこととは関係ないだろ」
「そうすれば私に代わって追ってくれるし」
「聖獸様はさあ……ねえ、やっぱ害獣じゃないか」
「次にそう呼んだらその舌を引っこ抜くから」
「……かっこつけてるけど尻出して恥ずかしくない? あああああ!」
分身を駆使して犬であるはずのツバキに関節技をきめられたアル。
「じゃあアンタは『心の臓』をむき出しにしてみーんなに見てもらう?」
「す、すみませんでした……」