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#104 機転と恐怖の克服

『セイス・ケイブ』を放った後の闘技場には、アルの呼吸の音だけが響いていた。


「『四六時中』で辺りの時を止めたか」

「贋作だと侮っていたけどなかなか強力なものね」


 隆起した岩の陰から、ツバキが砂埃を振るい落としながら姿を現す。


「さっきまでハルバードをふらふらで抱えていた人間とは大違いだわ」

「……ああ。本体はこっちのジアースケイルで俺はおまけさ」

「奥義は大振りなだけで、分身を身代わりに動きを読めば回避は容易。さて、『三千世界』」


 十数歩ほど離れていたツバキだが、ほんの一瞬でアルの懐まで移動する。


「瞬間移動か……けど隠れればいい」


 背中を預けた岩を起点に回転しアルは身を隠す。


「ならそれごとよ。『一刀両断』」

「まだ手の内は残ってる。『バリアー・シー』! 『バーウ・ミール』!」

「岩の手応えしか無かった……? すんすん、いや」

「とった!」


 ツバキが巨大な岩ごとアルを斬ったかと思うと、次の瞬間にはその肩にぱっくりと穴が空く。

 岩の陰で姿を消してしゃがんでいたアルからの一突きによるものであった。


「残念。『分身』よ」


 しかしその体は煙のように消えていき、さっきまでツバキが潜んでいた岩陰から2頭が揃って姿を現した。


「姿を消すのね。けど私の鼻の前では無駄よ」

「なるほどな……」


 能力が無駄と判断したアルは早々に姿を元に戻し、ツバキを見たままじりじりと次の岩陰に近づいた。


「同じ手は通用しないわ。挟み撃ちで全部の視界を補えばいいのよ」


 ツバキと分身は二手に分かれ、岩陰にいるアルを左右から捕捉した。


「ならこれだ、『セイス・プレート』!」


 アルは左右に岩の壁を出してさらにその視界を防ぐ。


「瞬間移動は防いでも絶対破壊は健在よ」


『一刀両断』の能力で岩の壁を斬ったツバキと分身は駆ける勢いのままアルに迫っていく。


「……わかってたよ」


 アルの懐まであと一跳び、といったその瞬間であった。


「ん? なにを……ぐはっ!」

「うぐっ!」


 見えない壁に激突したツバキはひっくり返り、分身は煙となって消えた。

 アルはその隙を逃さない。


「『セイス・ラミネイト』! 『セイス・サンドストーム』!」


 一見して砂嵐だけがツバキの周りを囲う。


「人の姿だけじゃなく、ああいう物体も見えなくできるんだな。これが」

「くっ……私としたことが……」

「砂嵐で目と鼻は封じた。その状態で何重にも重ねた岩の迷宮を、強引に突破し続けるか?」


 初めこそ『一刀両断』で手探りで岩の壁を破壊して抜け出そうとしたツバキだが、アルがいる限り半永久的に再生する砂嵐の迷宮にとうとう音を上げた。


「……いいわ。可能な限りは勝手はしないであげる」

「ありがとうな。こっちこそ、がつんと目を覚めた」

「は? なによそれ」


 その後、ぼろぼろになった闘技場と、何より足並みを揃えて歩むアル達を見てたいそう驚いたバルオーガであった。

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