#103 終焉への秒読みと生命の鼓動
「いや、まだだ。ジアースケイルならまだ……」
アルは床に手をつけるがまだその存在は遠くに感じる。
「まだネラガには着かないのか。なら仕方ない」
『バリアー・シー』!!!
所有権を交換し合って抜刀音の省略がリセットされ、再び爆音とともにショートソードを抜く。
それからアルは動きが止まったままのバルオーガをちらっと見る。
「宿す言葉は『四六時中』。私とアンタ以外とで周りの時間の流れが変わっていて、ここで例えば丸1日闘い合っても向こうでは数秒でしかなくなるわ」
「疑似的な時止めか……」
「それだけじゃない。今までもこれを使えば、いくら暴れても誰も私を疑うことは無かった」
「なるほど……って、どわあっ!」
死角からの打撃を受け、アルが転倒した。
「宿す言葉は『二人三脚』」
「私と剣の数は」
「倍になる」
2頭になったツバキに挟まれたアルは完全に落ち着きを失くし、短く息を吐いて膝をついた。
「勝てるわけが無い……」
絶望していたアルに最後の一撃が加えられる。
「宿す言葉は『三千世界』。私の目が届く範囲なら瞬時に移動ができる」
天井近くから勢いよく踏みつけられ、アルは地べたに這いつくばった。
「……! アル君! 大丈夫か!」
「バルオーガさん……」
『四六時中』の能力が解かれたバルオーガは自由に動けるようになったと同時に、同じ被害者であったがためにすぐさま事態を理解し、アルへ呼びかけて無事を確かめる。
「次はオルキトね。アイツも贋作の匂いがしたし、さてどうやって聞き出そうかしら」
「……匂い? そういえば……」
初めて『星の冒険者』がツバキと会った時、反応を示したのはいずれもで四竜征剣を持っている、または直近で持った経験がある2人であった。
「四竜征剣の匂いを嗅ぎ分けられるのか……けどオルキトはもう……」
「ツバキ。さすがにこれ以上の勝手は許せない」
剣を取ったバルオーガがツバキと正面から向き合った。
「アンタと剣を交えるのはいつぶりかしら? けど老けた今じゃあ勝負は見えてるわよ?」
「『力を振るわれる者、力を振るう者も等しく救う』。私は剣を握る理由はそれであり、勝敗の結果ではなくそれを通じた融和こそが本質だ」
「……知ったような口を。アンタに何がわかるっていうの……」
ツバキはぐっと闘技場の床を踏みしめて怒りを滲ませており、アルの時よりもその場の空気はぴりぴりとした雰囲気が増していた。
「……待ってください」
アルはバルオーガの腕を掴んで剣を収めさせようとした。
「アル君。止めないでくれ」
「俺はオルキトに返さなくちゃいけない借りがある。それに勝負はまだついてないです」
闘技場の床を突き破って出てきたジアースケイルを抜き、アルはそれをツバキに突き付けた。
「死ぬのは怖い。その気持ちは逃げる理由になるけど、闘わなくちゃいけない理由にもなる」
アルは胸元に手を当てて、『死の警告』の虚無感を凌駕する、胸を打つ心臓の『生命の鼓動』を確かに感じた。
「つまりは、怖いからこそ闘うんだよ! 『セイス・ケイブ』!!!」
ジアースケイルの一振りにより、広い闘技場内を刃状の岩石の隆起が覆い尽くした。
終焉の四竜征剣
・終焉の弐(仮称。本来は無銘)
『二人三脚』の言霊を宿し、自身の分身を発現させられる。
分身が見聞きした情報や記憶は共有可能で、即復活する分身ゆえに捨て身での特攻もできる。
・終焉の参(仮称。同じく無銘)
『三千世界』の言霊を宿し、目で見える範囲でなら瞬間移動が可能。
目では見えているがガラスなどの遮蔽物があると阻まれる。
・終焉の肆(仮称。これも無銘)
『四六時中』の言霊を宿し、自身と対面している相手を除いて周囲の時間の流れを限りなく遅くさせられる。
範囲は発動時の地点を基準にした小さな規模で、例えば逃走のために長距離を移動したりはできない。
周囲への干渉も不可能で、結界内の1組が破壊できるのはその互い同士に限られ、共謀して物的損害を出すようなことはできない。
※タイトルにも書きましたが、終焉へのカウントダウンというニュアンスで4から1の数字を意識しています。
イヌなのに『二人三脚』とか、3で『三千世界』、4で『四六時中』とか気になりましたが頭の数字を参考する決まりは自分なりに決めました。
後書き長いですが最後に、ツバキは気にせず口にしているので、『シリュウセイケン』の名称は表の一式が製作された際が初出ではない……?