#102 開闢(かいびゃく)と終焉(しゅうえん)の剣
「食事と住処。そして素性を隠してやっているが、それを破ると命の危機になる」
オルキトによれば元剣聖で、今はギルドマスターを務めるほどの実力者であったはずのバルオーガが憂鬱な顔でアルを見る。
アルはその活躍を目にしたことは無かったが、少なくともオルキトやオルフィアの力は把握している。
「平和的に解決するためにも、ツバキの人探しを達成しなくてはならない」
「犬が人を?」
『バウッ』!
聖獣ツバキは吠えてアルを威嚇。
「やっぱり犬じゃないか!」
「長い間このままだったから癖よ。剣聖だって聞いて頼りにしても、息子もその息子も、まーたその息子も成果が得られくてね」
ツバキはむすっとバルオーガを睨んでいる。
「剣聖か……人探しと四竜征剣の何が関係してる?」
「私の旦那様が開闢と終焉の四竜征剣を打った神だから」
「……鍛冶屋の旦那探しか。ううん……」
眉をひそめながらアルは指を5つ、順に折っていった。
新たに耳にする四竜征剣とそれを打ったという神、そしてそれを旦那と呼ぶ聖獣。
と、なだれ込んでくる情報をゆっくりと嚙み砕いて飲み込む。
「つまりいくつかある四竜征剣を打った鍛冶屋を辿って目当ての人……じゃなく神を見つけたいんだな?」
「四竜征剣はその2組だけよ。他は人如きが打った贋作に過ぎない。正確にはオマージュともいうのかしら」
「あれらが贋作……だって?」
どれも特別な能力を備えた武器を贋作呼ばわりするツバキにアルは面食らっていようが話は続く。
「けどせっかく見つけた手がかりだから、このまま逃がしはしないわ」
「おい、ツバキ……」
すたすたと怪しげに歩を進めるツバキを制するバルオーガだったが、アルが瞬きをする間に時間が止まったように姿勢はそのままで動かず、声も発さなくなっていた。
「それに私の素性を知ったからにはヤキを入れておかないと」
「勝手にバラしておいてそれかよ……! って、その剣……」
ツバキの足元にはゆらゆらと揺れる陽炎を纏っているロングソードが突き立てられていた。
何も無い空間に突如現れたそれに危険を直感したアルは、持ち合わせていた眼帯をひとまず目にあてがった。
「『終焉の四竜征剣』が……全部揃ってる……?」
「これがこの家と長く付き合わせてもらっている秘密。家長がいくら替わっても誰一人として私に敵うことは無かった」
「なにが聖獣だ……とんだ害獣中の害獣だな」
「……武器取らないと死ぬわよ?」
剣を咥えて近寄ってくるツバキに促され、アルは壁にかけてあった武器を手にする。
「重いっ!?」
アルは長い柄のついた斧、ハルバードをよろよろと抱えてとにかく体の前で防御の体勢をとった。
「『一刀両断』」
「なっ!?」
訓練による多くの細かい傷があり、つまりそれほど頑丈であったハルバードだが、まるで紙であったかのようにアルはなんの抵抗も感じないままそれを真っ二つにされてしまった。
「宿す言葉は『一刀両断』。あらゆるものを真っ二つにする剣よ」
終焉の四竜征剣
・終焉の壱(仮称。もともと無銘であった)
『一刀両断』の言霊を宿し、あらゆるものを豆腐のように容易く真っ二つにする。