#101 ツバキとバルオーガの腹の内
「アル君。君の持っている四竜征剣はこれで全てか?」
ツバキが脇に揃えていた武器を見てバルオーガが呟いたその言葉は、オモテ以外の四竜征剣の存在と、それが具体的にどういうものかを知っていることを示していた。
「四竜征剣が目的ですか」
「いや、正確にはこれに絡んだ人探しだ。それにツバキによると贋作ばかりらしい」
「……ツバキによると? 贋作?」
「返してもいいんだよな? ああ、それじゃあアル君」
バルオーガはツバキに質問をしたが特に返事らしき反応は無い。
その茶番が済むとアルのもとへと手渡しで回収していた四竜征剣を返した。
「……いや、本物だよな」
受け取った四竜征剣はきちんと体内にしまえたため、アルの頭には贋作と言う単語がちらほらとよぎっていたが、途中ですり替えられたということも無かった。
「もう帰らせてもいいのか?」
「……」
「ツバキ。いい加減にしないか」
「……」
「すまない、アル君。変なことに付き合わせてしまって。部屋でゆっくり休んでいてくれ」
お疲れ様です、と当たり障りの無い挨拶をして武器庫を去ろうとするアル。
「ギルドマスターだと心労も多いんだろうな……」
「ちゃんと扉は閉めなさいよ」
「ああ、わかった」
「逆よ。アンタは残るってこと」
「話は終わったんじゃ……あ?」
バルオーガではない第三者の声と話していたアルだが、武器庫にそのような人影は無い。
「バルオーガ。私が話す時は密室にしろ、っていつも言ってるでしょう」
「そういう機会が少ないから仕方ないだろう。それに、困るならサインの1つでも決めておくべきだ」
「やたら変な仕草をしてたら犬じゃないって怪しまれるでしょう。……ほら、そこの。さっさと扉は閉める」
「……はあ。驚くのも無理ないか」
固まっていたアルの代わりにバルオーガが部屋の扉を閉めて内鍵もかけた。
「犬……喋ってるんですけど」
「誰が犬よ。私は人類よりも高等な存在である、聖獣ツバキ」
「え? あれ? この屋敷にいる『不老不死』の白い犬って……」
バルオーガは観念したように黙って頷いた。
それからアルが落ち着いたのを見計らって事情を説明する。
「私は父が亡くなって初めてツバキと『話した』。聖獣ということを隠して日常に溶け込むために、彼女は変身の魔法で体の細部をマイナーチェンジして定期的に個体が入れ替わっているように見せかけていたんだ」
「マイナーチェンジって言うな! 安っぽいじゃない!」
目や鼻、耳などの位置を微妙に変えることで周囲は不老不死の犬に疑問を抱かなかったという。
「それで先代から私までは、ほぼ同じ見た目の犬を定期的に調達して絶えず入れ替えている、ということにされ、嫌なうわさも聞くこともあった……」
「あっ……すみませんでした」
「いや、いいんだ。私も父のことをそう思っていた時期があった」
「あの、オルキトはそうだったんですけど奥さんには話しているんですか?」
「それも少し事情があってね……」
バルオーガの目はいっそう哀愁を漂わせるものになっていく。