#100 回顧と冒険者の顔つき
話数換算で100話です。
カオスなのが連続します。
ギルドと隣接しているバルオーガの屋敷は冒険者用の宿泊施設も備えており、『星の冒険者』一行もそこへ案内された。
「飛空艇と違って個室は用意できないので僕と相部屋ですね」
「君の自宅すぐそこだぞ」
アルは飛空艇の時と同様、個室に泊まることになった。
いずれにせよオルキトは歓迎会のために呼ばれていたので、アルは1人で荷物の整理をしていた。
「いよいよ明日からか……さて」
ジェネシスの眼帯を手にするアルが考えていたのは、ネラガにいる構成員の目的。
「全員に共通してたのはあらゆる四竜征剣を集めること。レジスタンスも結局そういう意味で標的にしていたんだよな」
それからアルが一瞥したのは壁に立てかけてるバリアー・シー。
飛空艇でもそうだったが、可能な限り体内への収納を意識的に避けていた。
「目撃されてるのが獣人だから、あの『フィーネ』ってのはもう来ないはず……」
オモテの四竜征剣を使いこなし、レジスタンスを強行的におびき出そうとしていた人造人間。
その脅威とウラの一式による『死の警告』でアルはしばらく気持ちが落ち込んでいて、能力の不調が続いていた。
「ここまで来たからには足を引っ張る訳にはいかない……今の俺は冒険者なんだ」
何でも屋でしかないという自覚を持つアルが己の無力さを思い詰めていた時だった。
がりがり、と扉をひっかく音がしたので、アルはその客を招き入れてやる。
「どうした? おかき」
「わふっ」
「……おやつは無いぞー」
おかき、もといツバキは部屋に飛び込むと荷物の匂いを探る。
「吠えるし荷物は物色するわで、とんだやんちゃ犬だなこいつは……ん?」
適当に構ってやり気が済んだら外に出そうとしたが、思ったより時間はかからなかった。
「がう」
「おっ、おい」
アルはそそくさと部屋を後にするツバキを慌てて追いかける。
「きれいに四竜征剣だけを持っていったぞ!? なんで!?」
ノバスメータにハカルグラムを首から提げるポケットにしまい、口にはバリアー・シーを咥えて逃げていってしまったからだ。
その足は圧倒的な速さで、見失うことは無かったが、ぎりぎり建物の陰に消えるところを追っている状態になる。
追いかけながら体内にしまおうとも試みたが、犬では口で咥えたことが所有の証らしく実際に手で取り返さなくてはならなかった。
「なんだあの犬……やっぱこの家族全員おかしいぜ……」
ツバキのその奇行によって、バルオーガの異様な犬の愛し方を垣間見ていると、住居スペースとは完全に隔離されている家屋に入っていくのまで追いついた。
「何かの倉庫か? いずれにせよ追い詰めたからな……」
野生の本能で集めた宝物を隠している場所なのかとアルなりに予想をしながら中を覗くと、それは壁一面に剣や盾、槍に斧などが飾ってある武器庫と広い闘技場が併設された場所であった。
「アル君、だったな」
「……! バルオーガさん」
中にはツバキの他にバルオーガが武器の手入れをしていたが、アルが来ても特に驚く様子は無かった。
というよりも待ちかねていた雰囲気でいた。
「すまないな。強引な手段で呼び出してしまって」
「そういう……ことですか」
「ああ。詳しい話はツバキからする」
「……はい?」
バルオーガの視線は完全に、床に伏せているツバキに向いていた。
「わん」
「……ツバキ」
まずいことになった。
アルの頭の中はその気持ちでいっぱいになっていて、緊張を通り越して笑いをこらえるのが苦しくて仕方なかった。